第43話 カリスマ主夫大公に邂逅し、伝説の武器を手に入れる①
王美玲との激闘から一夜が明けた。
朝、烈は舜と共に朝餐をとっていた。
美玲の目的は烈一人でそれ以外に危険はなかったものの、皇帝を助けて避難させた功績により、栄春と涼鴛も傍に侍っている。
彼らは烈の配下であるが、褒美として皇帝の私的な場にも伺候し、お目見えや直答が許されることになった。
楊源は美的宦官の進出が面白くないのか、終始渋面を浮かべていたが、主を置いて逃げた手前、何か物申すことはなかった。
食事が終わるころ、烈は舜に言った。
「美玲の位階は、八武嬪にしようと思うんだけど」
舜は烈の相談に戸惑ったようだった。少し考えてから言った。
「先帝の御世のことだが、王然は罪を得たのだ。王氏は取り潰された家であるぞ。入宮は構わぬが、ちと位階が高すぎるのではないか? 庶人と変わらぬ身分なら、六十四激娘子の末席あたりが妥当であろう」
暁の身分制度は厳格である。
貴族の生まれとはいえ、罪人の娘をいきなり高位の妃にしたら、高官たちの反発を招くのではないかと危惧した。
「うん。でも美玲は私と互角に戦ったしさ。棍使いとしては、ずば抜けた才能だと思うんだよね。北だったら普通に武将になって、千人隊くらいは率いているよ」
「うーむ」
舜は唸りながら、烈と一緒にやってきた美玲の顔を思い浮かべた。
烈に負けず劣らず気の強そうな女ではあったが、武人のいかつい印象はなかった。烈が、彼女の入宮を許すと言ったときは驚いた。
「わしにはよくわからぬが、それほどの傑物なのか」
「北には、おやっさんや叔父貴みたいな強い男はそこそこいるんだけどさ、私と互角に戦える女は一人しかいなかったんだよね。美玲で二人目。貴重だよ」
「そなたと同等の力を持つ女人がいることの方が驚きだが……。さすがは蛮勇の地であるな。一人目の女傑は今も北におるのか?」
「ううん、行方不明。生きてはいると思うけど」
烈はどこか懐かしそうに言い、うっすらと笑みを浮かべた。
舜はなおも渋った。
「しかし、罪人の娘であるぞ。八武嬪はさすがに……」
「やらかしたのは父親で美玲じゃないでしょ。それに『刃傷沙汰血みどろキャンペーン』だっけ? あれを大々的に開催してるらしいじゃない」
「国を挙げて何を殺戮しておるのだ。人生再チャレンジキャンぺーンであろう。後宮を処刑場にするでない」
「それそれ。美玲もこの際、過去はノーカンで。人生再チャレンジで入宮するってことで」
舜は思った。北は、暁よりもはるかに実力主義なのだろう。烈は、身分や家格よりも本人の力量を重視したいのだろうと。
ここは罪人の娘を妃にするという恩赦を出して、懐の深さを内外に示すべきか。
仁徳をもって統治するのが王道であるというし、皇帝自ら「人生再チャレンジキャンペーン」の実績を作るのも悪くない。
彼はしぶしぶながらも折れた。
「八武嬪にするならば、王氏の再興を認めたも同然だが……。後宮はそなたの統括。位階の授与は好きにするがよい」
「じゃ、決まり」
舜の了解を得た烈は、王美玲に八武嬪の「貴人」の位を与えることにした。入宮すれば、美玲は王貴人と呼ばれるようになる。
烈は、その旨を栄春に伝え、万事取り計らうよう命じた。
新たな妃の入宮が決まり、八武嬪が住まう専用の御殿である衝天八武殿が開かれることになった。
八武殿に伺候する宦官や女官が集められ、物品などの搬入出が始まった。
舜を正宮へ送り出すと、烈は美的宦官を従えて居間へ向かった。霓龍殿内は昨夜のカチコミの後片付けをしたり、新たな妃を迎える準備を始めたりで、みな忙しく立ち動いている。
烈は回廊から、活気ある邸内を眺めた。
新たな妃が入ってくることに不安がないわけではないが、妃嬪が大勢ひしめき、昼夜妍を競うのが後宮の本来の姿。
側室たちもみな自分の家来となる。彼女たちもしっかり統制し、後宮を運営していかなくてはならない。
「これからはもっと仕事が増えるなあ……」と烈はぼやいた。
栄春が優しい声で言った。
「配下としてはありがたいですけどね。新たな雇用も創出されますし。皇后さまが決められた入宮のルールを遵守された上での結果です。王貴人さまが入宮されれば、左右丞相もおとなしくなるのでは?」
「うん、官僚たちに文句は言わせないよ。美玲も条件はクリアしているんだし。今後もこれでいくつもり」
こんなに早く入ってくるとは思わなかったけど……と烈は思った。
もっとのんびりやっていけるものと考えていた。暁は、思っていたよりも人材の層が厚いのかもしれない。
「王貴人さまは貴族のお生まれと聞きましたが、先日のご様子では、市井で相当にご苦労されたようですね」
「確かにすごい格好だった。暁では、親がやらかすと大変な目に遭うんだね」
「ちらりと拝見した限りですが、御手はひびとあかぎれだらけでした。あれは過酷な水仕事をする者の手です。髪は結っておられたが、簪の一本も挿しておられず。村の娘でさえ、竹や木製の簪くらいは持っています。そういった安物でさえ持てない生活をされていたかと」
「うわ、よく見てるね」
「女性に好かれるためには、まずは外見を注視します。それから、どんな些細な点でも褒められるところを探します。足りないところがあれば補えるように誘導したり、本人の好みを調べて物品を贈ったりします。あまり細かい指摘をするとキモがられますので、ほどほどが肝心ですが」
「さすが恋愛強者!」
烈は内心で舌を巻いた。
「でも逆に考えれば、王貴人さまには簪をくれるような男性はいないという証左でもあるかと。彼女に異性関係でやましいところはないと思いますよ」
「男関係まで推理するんだ……」
「後宮付きの宦官ですから。スキャンダルには敏感です」
烈はドキドキしながら聞いた。
「私にどこか足りないところはある?」
栄春は、とろけるような笑みを浮かべた。
「皇后さまはありません。身分の高いお生まれで、物質的な不足もなく。ご自分の考えも嗜好も確立されていらっしゃる。華やかで魔界的な任侠スタイルは、唯一無二のものかと」
「だよね~」
別に褒められたわけでもないのだが、烈は栄春の答えに満足した。
皇后たるもの、家来たちに侮られてはならない。
配下に舐めプされるようになったら終わりである。
誰も追随できない個性的かつド派手なスタイルを貫き、常に存在感のある威容を示さなくてはいけない。




