不服な王女
ブリック国第一王子レピュテイシャン・アスモ・ブリックとチェルリア国公爵令嬢メアリール・コルアンとの婚約式が行われた。
それに伴い、城では宴が開かれている。
いくら小さな宴とはいえ、何故他国の王子と王族でもない令嬢の婚約を城で祝わなければいけないのか。
オデットは、そのことがどうしても気に入らなかった。
レピュテイシャンは王族とはいえ、所詮他国の王子だ。この国の者ではない。
メアリールも公爵令嬢であって、王女ではない。
城で祝う必要がどこにあるのか?
オデットは、イライラしながら私室から窓の外を眺めていた。
宴の会場である場所からは、軽やかな音楽が聴こえてくる。
オデットは昨夜のことを思い出す。
昨日の夕食後、父親であるこの国の王から本日の宴のことを、オディールと共に国王の執務室で聞かされた。
王女の自分達がレピュテイシャンの相手だというなら城での宴も理解できるが、何故公爵令嬢との婚約を城で祝うのかと文句を言ったのだが「これは決定事項だ」と一蹴された。
「分かりました。ですが、このような重大なことをどうして前日に話されるのですか? ドレスの用意もできないではないですか」
「お前達は出席しなくともよい。私室で大人しくしておれ。それだけを伝えに来た」
そう言われて、オディールと共に癇癪を起す。
私達は王女だ。
いくら気に入らない宴だとしても、城で開かれるのに出席しないなどということは、あってはならない。
それにそんなことをすれば、お母様と同じで忘れられた存在になるではないか。
そう思ってお父様に食って掛かるが、お父様は冷めた目でこちらを見つめていた。
その表情に気付いた私は、グッと口を閉ざす。
隣では空気の読めないオディールが、キャンキャンと喚いている。
お父様はハア~っと大きな溜息を吐いた。
「お前達は、どうしてそうなのだろうな。お前達が少しでもメアリール嬢のように聡明なら、事態は変わっていたのかもしれない」
そう言って、椅子から腰を上げる。
「待って、お父様。まだ話しは終わっていないわ」
「オディール」
追いすがろうとするオディールを止めて、私はお父様を見上げる。
「お前達は、レピュテイシャン殿下に何をした? 詳細は伏せられているが、宰相からそれとなく苦言を呈された。迷惑をかけたのだろう?」
そう言われて心当たりのある私達は、羞恥と怒りでカッと頬を染めた。
その表情でお父様は何があったのか悟ったのだろう。
やれやれというように肩をすくめると、そのまま何も言わずに部屋を後にした。
残った私とオディールは、顔を見合わす。
お互いに同じようなことをして玉砕したのだと理解した私達は、ムカつきながらフンッと顔を背け、自分の私室へと帰って行った。
そして今日、私達がいないというのに何事もなく宴は開かれている。
私は先日、廊下で会ったオーランの態度から、本日の主役メアリール・コルアンのことを調べていた。
オリバーの婚約者としてしか認識のなかった私は、オセアン兄上やオーランまでもが彼女に執心していたことを知って、フツフツと憎悪が湧くのを感じた。
なんで皆して、あんな小娘を欲しがるのかしら。
少しぐらい可愛くて頭がいいからって、所詮は公爵家の産まれ。王女として産まれた私の方が身分は上よ。
正確には、私は降下して公爵家に嫁いだ身。夫に先立たれて今は独身とはいえ、公爵家に籍を入れたままの私は王女ではなくなっている。
現在の公爵家は夫の弟が公爵位を継いで取り仕切っているので正直、早く次の嫁ぎ先を決めようとは思っていたのだ。
まぁ、元王女の私は引く手数多ではあるのだが、やはり公爵位より下に嫁ぐ気は全くない。
だって王族の一員として産まれた私は、他の貴族とは何もかもが違うのだから。
私は特別よ。誰もが私を求めるに決まっている。
そう思っていたのに、気が付けば皆が公爵令嬢ごときのメアリール・コルアンに夢中だなんて。
しかも結局は、兄弟全員が振られて他国の王子に取られるなんて情けないにもほどがある。
王族が、小娘にいいように振り回されてるんじゃないわよ。
そんな風に考えていると、突然大きな揺れが起こった。
そばには控えていた侍女が、危ないから窓から離れるように言ってくる。
だったら貴方がこちらに来て守りなさいよ、と叫びたかったのだが、あまりの激しい揺れに部屋の中にいる者は立ってはいられなくなり、皆で蹲るしかなかった。
暫くすると揺れは収まったが、それでもかなりの時間揺れ続けていたのだろう。
気が付くと部屋の中は物が散乱しており、悲惨なことになっていた。
窓ガラスが割れなかっただけでも良かったのかもしれないが、カップやインク壺などが落ちてしまってまともに歩くこともできない状態だ。
荒れた部屋の中にいるのが苦痛になり、私は侍女に部屋を片付けるように言うと廊下に出た。
するとオディールも同じだったのか、廊下でばったり出会ってしまった。
「あ~ら、お姉様。お父様の言いつけはよろしいのかしら? 部屋で大人しくなされていた方がいいのではなくて?」
「貴方も同じでしょう。あんな部屋、危なくて大人しくなんてしていられないわよ」
「同感ね」
オディールがいつものように挑発してくるけど、私はそれどころではないと言い返す。
ニヤリと笑う彼女も、部屋のあまりの荒れように辟易して逃げてきた口だろう。
すると廊下の端から侍女頭が、侍女達に慌ただしく指示を出しながらこちらに向かって来る。
そうして歩いて来た先に私達を見かけると、驚いたように目を大きく見開いた。
「オデット様、オディール様、廊下に出ては危ないですわ。すぐにお部屋にお戻りくださいませ」
「ちょうどいいわ。貴方、私達についてきなさい。外に出るわ」
私が誘うと、侍女頭は尚も驚く。
「え? オデット様、何を仰っているのですか? 今は先程の揺れで皆が混乱しています。私は侍女達に指示を出さなくてはなりません」
「煩いわね。私はこんな散らかっている所になど、いたくはないのよ」
「オディール様、今は我慢なさってください。安全を確かめないと外になど出られるはずもありませんわ」
言い返してくる侍女頭に、私達はイライラし始めた。
この侍女頭は以前から小言が多かったが、異国の王子と問題を起こしてから益々煩くなった。
こちらが優しくしてあげているのを、勘違いしているのかもしれない。
少し困らせてやるかとオディールと目配せした時、二人の騎士が近寄って来た。
「王女様方、こちらで何をしてらっしゃるのですか? 危ないのでお部屋にお戻りください」
「ちょうどいいわ。護衛をしなさい。外に行くわよ」
「え? この状態でですか?」
「いや、まだ安全が確保されていませんので……」
「煩い! 私達は行くわよ。何かあったら貴方達の責任だからね」
ゴタゴタ言ってくる騎士を叱り飛ばして、無理矢理廊下を歩いて行く。
「え、冗談だろ?」
「そんな、お待ちください。オデット様、オディール様」
三人は慌てて私達の後をついて来る。
そうよ。どんな状態だろうと私達王族の命令をきくのが貴方達の仕事なのだから、文句を言わずについて来るといいんだわ。
私とオディールはニンマリと笑って、三人が私達に触れられないのをいいことにズンズンと外へと出て行った。




