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面倒くさがりな令嬢は、魔族に溺愛されました  作者: 白まゆら


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第二王子と女性達

 メアリールが繭に包まれた事件後、宰相の策略でまんまと愛しのメアリールを異国の王子に取られた私、オーランはどうにかして彼女を自分の手に取り戻すべく頭を巡らせていた。

 だが何もできないまま日々は過ぎ、メアリールとレピュテイシャンの結婚に上層部は日に日に乗り気になっていき、貴族の間にも祝福モードが漂っていた。

 どうやら学園の生徒が家族にもお似合いの二人だと聞かせているようで、それに誘発された貴族がお祝いの言葉をあげているらしい。

 しかも何故か城の使用人からも喜びの声が発せられ、その喜びは民へも浸透しており、王族を覗く国中の者達が二人の婚約を今か今かと待っているような状況だ。


 あの事件以来、オセアン兄上は妻の国へと旅立ち、オリバーはまたもや部屋に籠ってしまい、私は完全に孤立してしまった。

 協力を得られる者がいない中、どうにかしてメアリールともう一度、二人きりで話しをすることができないかと考える。

 彼女は、とても優しく立派な公爵令嬢だ。

 己の立場を嫌というほど理解している。

 それならばちゃんと話しさえすれば、必ず自分を受け入れてくれるはず。

 そう思い彼女の姿を探すのだが、あの日以降オリバーの婚約者でなくなったメアリールには城に来る理由がなく、またレピュテイシャンも滞在先を彼女の屋敷に移してしまった為、その機会は一向に得られない。


 イライラが募り眉間に皺を寄せたまま、廊下を歩いていると「オーラン様」と自分を呼ぶ声が背後から聞こえてきた。

 振り向くと、そこには婚約解消をしたポリアンナ・クライ伯爵令嬢が佇んでいた。

「……何か?」

「あの、あの、私……」

「申し訳ありませんが忙しいので、用がないのなら失礼いたします」

 どうせ婚約破棄に対する文句でも言いに来たのだろうと、私は踵を返して立ち去ろうとした。

「お待ちください。私、オーラン様が諦めきれないのです」

 城の廊下で貴族の者が行き来しているというのに、そんなことを大声で叫ぶ彼女に嫌悪感が湧く。

 案の定、数人の貴族が面白そうにこちらに視線を向けていた。


 私がメアリールに求婚したことは、一部の上層部しか知らない。

 大抵の貴族は、私がポリアンナに愛想をつかして婚約破棄に至ったと思い込んでいる。

 事実、天真爛漫な彼女は一部の淑女からは、いつまでもマナーのなっていない子供だと思われていた。

 それに関しては正直、その通りだとしかいいようがない。

 王子と婚約して四年の間、王子妃教育を受けているにも関わらず壊滅的な所作の彼女に、眉をしかめる者も少なくはなかったのだ。

 それでも私がどうにかフォローしていたお蔭で、表立って文句を言う人間はいなかったのだが、婚約を解消した今、直接彼女に嫌味を言う人間が現れてもおかしくはなかった。

 そしてまた、彼女は愚かな真似をしている。

 人前で婚約破棄してきた相手に縋るような行為に、どうしたものかと悩まされる。


「ポリアンナ嬢、その話しはもう終わったことですよ。申し訳ありませんが、本当に急ぐので……」

「そんなの私は知りません。王家とお父様が勝手に話しを付けたに過ぎないわ。私は貴方から何も聞いていないもの。私のこと、嫌いになったの?」

 ……信じられない。

 貴族の娘がこんな場所で、自分の知らないところで勝手に決めたことだと喚きたてる。

 その上、自分のことが嫌いになったのかと恥ずかしげもなく訊くなんて……。

 恋情のもつれにしたって、していい会話と場所がある。

 特に相手の私は王族で、彼女は貴族なのだ。

 決して人前でしていい話し合いではないはずだ。

 私は彼女の愚かしさに、よくもこんな女性と婚約していたものだと頭が痛くなった。


「私、昔聞いたことがあります。オーラン様は一時期、メアリール様と婚約のお話しがあったのだと。でも顔合わせをする前に私に会って、それで彼女とはそのまま会わずにお話しを蹴ったって。それほど私のことが好きだったのに、どうして婚約解消なんて言われるの? 私は理想の相手ではなかったの?」

 ……今、それを言うか⁉

 後悔していた。後悔しない日なんてなかった。

 メアリールと会わずに、君のような者を選んだことを。

 その愚かな過ちで、私は今こんなにも苦しんでいるというのに。

 私は思わずポリアンナを睨みつけた。

「ひっ!」

 私の顔を見て、それまで私の腕に縋ろうと伸ばしていた手を思わず引っ込めるポリアンナ。

 はっ、いけない。

 私は周りの目を気にして、ポリアンナに苦笑して見せた。

「ポリアンナ嬢、この話しはとても繊細なもの。このような場所で話していい内容ではありません。後日、クライ伯爵を交えてお話ししましょう」

「これは私と貴方の問題よ。お父様は関係ないわ」

 ポリアンナは笑った私を見て、今のは見間違いだと思ったらしく、そのまま話しを続けようとした。

「関係なくはないですよ。貴族の結婚は家同士の問題です。ましてや私は王族です。感情だけでしていい話しではないのです」

「私は貴方に、婚約破棄の理由が訊きたいだけよ。こんな一方的な話しなんてないじゃない」

 これ以上話していても埒が明かないと思った私は、ポリアンナに近付き耳元に唇を寄せた。

『貴方のお父上が、通常の倍の慰謝料を受け取ったのですよ。これ以上の会話は無意味です』

「え?」

 そう耳打ちすると、ポリアンナは呆けたような表情で私を見上げた。

「お父上とよくお話しなさい」

 そう言って私は、ポリアンナに背を向けた。


 暫く歩くと人気が無くなったので、私は大きな溜息を吐いた。

 これではオリバーのことは言えないなと、痛みを訴え始めた頭を押さえる。

 学園でオリバーが引っかかっていた女もまた、彼女のような性格であったと聞いた。

 明るく無邪気で、人に対して好意を隠さない可愛い女性。いい意味で貴族らしくない少女。

 物は言いようだ。

 結局は物知らずな馬鹿な女ではないか。

 オリバーの彼女もまた色々しでかした挙句、ある日突然眠ったまま保健室に運ばれ、そのまま体調を崩して学園を休んでいると聞いた。

 ポリアンナもこのまま諦めて、家に籠ってくれればいいのにと思う。



「あら、オーラン。そんな所で何をしているの?」

 私はまた後ろから声をかけられたことに、そのまま立ち去りたい衝動に駆られる。

 だがその声の主は、遠慮などといった言葉は聞いたことのないようにズカズカと私の領域に踏み込んでくる。

「ああ、オデット姉上。私は執務に向かう途中ですが、姉上こそ、こんな所で如何なされました?」

 目の前には煌びやかな装いの第一王女、オデットが両脇に侍女を付き従わせて歩いてきた。

 心なしか変な歩き方なのは、以前に痛めた足が治りきっていないのだろう。

 バランスを崩せばすぐに支えられるように、侍女を後ろではなく横に置いている。

 そうでなければ彼女が他者と、ともに歩くことなどないのだから。

 亡き夫の公爵さえ、公の場以外では後ろを歩くように命令していた人だ。

 そういえば、痛めた理由はなんだったのだろう?

 どうしたら自分で動くことなど滅多にしない人が、足を痛めるような事態に陥ったのか、陛下でさえ詳しくは知らないようだった。


 オデット姉上が私のそばにきた瞬間、もう片方の廊下から「あら、そこにいるのはオーランかしら?」とまたもや聞きたくない声が聞こえてきた。

 第二王女のオディールである。

 オディール姉上は私のそばにいるオデット姉上に気が付くと、あからさまに嫌そうな顔をした。

 それはオデット姉上も同じようで、二人共明らかにお前は邪魔だという表情をする。

 私達三人の王子はそれなりに他の二人を尊重し、王族の兄弟の中では仲の良い方だと言われていた。

 だが、王女二人は私達と反対に幼い頃から仲が悪く、お互いをライバル視している。

 女性なのだから結婚すれば城から出て行き、お互いに顔を見ることもかなり減るので、少しは状況も変わると思っていたそれは、オデット姉上が公爵との間に子も設けないまま先立たれて、オディール姉上がいつまでも相手を選ばず城に居座ることで、状況は悪化の意図を辿っている。

 今もまた、私を挟んで淑女とは思えない形相でお互いを睨みつけていた。

 それぞれに付いている侍女と護衛の騎士はすました顔で後ろに控えているが、その背中にはさぞ冷たい汗が流れていることだろう。

 そう思う私の背中にも、冷や汗は流れている。

 ああ、面倒くさいことに巻き込まれたと。

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