側近の悪巧み
私の言葉に心当たりのある侍女頭は、騒ぎ喚く第二王女の腕にしがみつきながら顔色を悪くする。
その様子に私は笑みを深める。
あの時は、侍女頭は事態が終わった後の第一王女の回収に手を貸しただけで、第一王女も密かに行った行為だったので、誰にもバレることはなかったのだが、今回は違う。
私は今回のことを公にするのなら、このことも持ち上げるべきだと仄めかしたのだ。
ちゃんと私の言葉を理解した侍女頭が「度々、申し訳ございません」と蚊が泣くような声で謝罪する。
騎士は困惑した表情を浮かべているが、私はそれに構うことなくニッコリと笑う。
「流石に我々もこの国に来て日が浅い状態で、このようなことが王女自ら何度も行われると、正直困惑してしまいます。ですからこのようなことが二度とないように、女性をこちらに近付かせないようにしていただけますか?」
「え? それは、侍女も……ということでしょうか?」
「ええ」
「ですがそれは、オーラン様が采配されることで、私共が勝手に決めることはできません。ブリック国の皆様の滞在中は、怪しい者が出入りできないように全てオーラン様が監視されています」
「ですがその王族に、我々は迷惑させられているのですが」
うぐっと口をつぐむ二人。
怪しい者が王族では、使用人にはどうしようもできない。
「食事は近くの廊下まで運んでくだされば後は我々が運びますし、掃除や給仕なども自分達でしますので、侍女頭さんは侍女がこちらの仕事をしているように偽装してくださればいいのです」
正直、魔法で行えばこれらのことは、あっという間に終わる。
しかしそんなことを客人にさせるわけにはいかないと、侍女頭は焦る。
「……掃除などは、殿下が学園に通っている間に済ませますので、私共でも問題はないかと」
「構いませんが、それなら盗品には充分お気をつけください」
「私達が何か盗むとお思いですか?」
私の言葉にギョッとなった侍女頭は、いくらなんでもと眉間に皺を寄せる。
「いえ。わざと女性の品物を持ち物に忍び込ませ、盗まれたと騒ぐ女性もいたのでね。それをネタに脅したり、主に近付こうとしたりするのです。酷かったのは寝台に自分の下着を隠した方達でした」
「……それは、災難、ですね」
私があっさり反対だと言うと、二人はとても複雑な顔をする。
今回の王女と大差はないかもしれないと思ったのだろう。
それは女性を警戒しても仕方がないかと、心が揺れているのが分かった。
もう一押しだ。
「主と色事があったように偽装したり、主が盗んで自分に興味があるのだと周囲に思わせようとしたり、そのようなことが過去に何度もありまして。まぁ、すぐに気が付くので、事前に回避はできているのですが、それが王族の命令ならば、侍女では回避できないでしょう? ああ、従者でも同じことですよね」
掃除中に隠せと命令されれば、抵抗しようもないだろうと言う。それは男でも同じこと。
そしてことが露見されれば、その侍女一人の罪として罰せられるのだ。
「……はい、全てパズ様の仰る通り、です」
とうとう項垂れる侍女頭。騎士は気の毒そうに彼女を見ている。
「ですから、それを事前に回避する為に協力を仰いでいるのです。申し訳ありませんが、こちらの王女様お二人には前科が付いてしまいました。お二人共これが露見すれば、陛下に注意を受けて一旦は大人しくなるでしょうが、お互いをライバルとして行動が酷くなるような気がするのです」
お二人はそのような性格ではありませんか? とそばで騒ぐ第二王女を見る。
侍女頭はコクコクとものすごい勢いで頷き、騎士は呆れた表情をしている。
「こんなことが続けば何人もの使用人が傷付き、騎士にも影響が出ます。オーラン殿下の許可がいただければ、それにこしたことはございませんが、その場合は全て殿下のお耳に入れることとなるでしょう。ですがそれでは先程も申しましたように、貴方方が罰を受けることになりかねません。ですから、そこは私達と協力して誤魔化しましょう」
どうかお力を貸してはいただけませんでしょうか? と上目遣いで見る。
第二王子には、問題なく日々の業務を行っていると見せかければいいのだと仄めかすと、侍女頭は助けを求めるように騎士を見た。
騎士は「あ~、う~」と空中に視線を逸らせ、そのうち他の侍女を呼んできた騎士に気が付き、相談してもいいですかと訊いてきた。
私はゆっくりと頷く。
三人ほどの侍女を連れてきた騎士を摑まえて、経緯を話す。
話を聞いた三人の侍女は、チラリと騒ぎ立てている第二王女を見て、確かにあり得ると頷く。
この方達が問題を起こすと、自分達にお鉢が回ってくる。
三人の侍女は「私達を助けて」と二人の騎士に懇願する。
こうして私は、この城の侍女と下っ端の騎士を仲間に引き入れた。
正直言うと、第一王女は幻影を見せていたのでこの部屋に恐怖を抱いていたし、第二王女は一晩中、外国語を聴かせていたので少々精神に乱れが生じ、この日の記憶を曖昧にさせると同時に、何故かこの部屋に近付いたらとんでもないことが起きると印象付けた。
だから二人がこの部屋に突撃することなどもうないのだが、掃除は魔法で片付くし給仕は途中まで侍女がワゴンで運んできたのを騎士がこの部屋まで持ってくるが、それですぐに退室する。
他国において、侍女に監視され邪魔されることなく、完全に自由なプライベート空間を手に入れた。
「結局、俺は利用されたんだよな~。パズに」
「何を仰られますか。我々は魔族です。ボロを出してバレたら大変ではないですか」
「微塵も思ってないくせに。見られたって記憶を消せば済む話だろう。どうせ、自分が勉強したいだけなんだよな。メルに色々と教えてもらって珍しい本を渡され俄然、興味がわいたんだろう?」
「……これで誤魔化す必要なく、自由にメアリール様に会いに行けるではありませんか」
「間があったな。図星か。どうせなら、俺に畏怖を抱かせてくれればよかったんだ。あいつら、部屋以外で俺を見つけると、猛獣のように突進してくるんだぞ」
机に頬杖を突き唇を尖らせる主に、私は献上品のチョコレートを差し出す。
バリバリと紙を破き箱をあけながら、主は一つの魔道具を投げつけてくる。
「これは?」
「隣のカッタス国の間諜が、俺を攫おうとしたみたいだな。実力行使は俺の好みだけど、男に袋詰めにされた挙句、抱えられる趣味はない。丁重にお引き取り願ったのだが、そいつがこれを落としていった。我が国の魔道具ではないな」
私はじっくりとその道具を見る。
確かに中の魔石は本物だが、道具があまりにもお粗末だ。
私の手の大きさ程の箱型に、六個の魔石がランランと輝いている。下の方には何やら細かな穴が開いている。
「これは……どんな機能を発するのですか? こんな大きな物、邪魔ですよね」
「通信機、らしいな」
「え? 私達が作ったピアスのあれですか?」
私は驚いて、まじまじと手の中にある魔道具もどきを見つめる。
えらく変化を遂げたものだと、ある意味感心してしまう。
「その前に作った、大きめのイヤリングがあっただろう。その魔石を取り出して、作り直した物じゃないか?」
「そんな……道具が退化するなんて。より大きくなり持ちにくくなるなんて、どんな利点があってこんな物を作ったのでしょうかね?」
「単に壊れたのだろう。あれは繊細だからな。使い方が荒いとすぐに壊れる。本来なら一個の魔石で十分機能するのだが、この魔石の力は弱まっているだろう。使用する為に六個も入れたら、そんな大きなものになったんだろうな」
レピュテイシャン様はなんてことないように、チョコレートを口に入れながら話をする。
「では、貴方を攫おうとしたのは、そういう魔道具を直させるため?」
「いや、俺とお前が作っているのは知らないはずだから、単に魔道具発祥の国の王子を攫って、取引を持ち掛けようとしたのだろうな。安易で馬鹿で、好きだなぁ」
ニッコリ笑うレピュテイシャン様に、私はちょっとイラっとする。
「……滅ぼしますか?」
「いや、駄目だろう。隣の国がなくなったら、流石にこの国にも余波がくる」
余計なことはするなと言われて、私はますますムッとする。
「……面倒くさいです。メアリール様だけ攫って滅ぼしましょう」
欲しいのはメアリール様だけなのだから、この国も近隣国もこの際一気に片付けようと言うと、レピュテイシャン様は呆れた目を私に向けた。
「だから駄目だって言ってんだろう。なんで俺がわざわざ留学なんてものをしていると思っているんだよ」
「……メアリール様を公的に娶る為です」
「正解。絶対に邪魔するなよ。俺もお前の勉強の邪魔はしないから」
確かにレピュテイシャン様は、メアリール様を手に入れる為に涙ぐましい努力をしている。
それは、彼女を悲しませずに手に入れる為だ。
私は意味が分からなかった。
何故そこまで人間の女なんかに固執するのかと。
だが、メアリール様に会って私は少し理解した。
彼女の話を初めてしてくれたレピュテイシャン様の姿を思い出す。




