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自信と執念

 優しい微笑を浮かべたまま、レピュテイシャンはカチアに視線を向ける。

「宰相が戻ってきたら今晩にでもメルとの婚約をお願いするけど、カチアはどうしたい?」

 突然、話の矛先が自分に向けられたことに驚くカチア。

 だが、何を言われたのか一瞬理解ができなかったようで、動揺しているのは明らかだ。

「メルに気を使う必要はないぞ。そんなこと彼女は求めないからな。カチアが一緒にメルと来てくれるのなら、君も俺が守る。メルと同じように、カチアを守る魔道具も渡す」

 メアリールは自分が聞けなかったことを聞いてくれているんだと嬉しくなったが、慌ててカチアに言葉を付け足す。

「いきなり決めろと言われても困るわよね。ゆっくりで構わないから……」

 そう、カチアは先程初めて彼らが本物の魔族だと知ったのだ。

 そんな彼らのいる国に永住することを、今いきなり決めろと言われても困るだろう。

 だがカチアは、顔を上げてメアリールを見た。

「メアリール様がお許しくださるのなら、私はどこにだってついて行きます。失礼ながら、私はメアリール様の姉代わりだと自負しておりますから」

 にっこりと微笑んだカチアに、メアリールは泣きそうになる。

 幼い頃にメアリールの元に来てくれた彼女は、どんな時もずっと一緒だった。

 貴族令嬢である彼女には他に生きる道もあったというのに、メアリールが別邸に住むと決めた時も、嫌々ながら城に足を運ぶ時も、必ずそばにいてくれた。

 親や弟妹よりも近い存在。

 メアリールは思わずカチアに走り寄った。

 そのまま勢いよく抱きつくと「ありがとう、カチア。私、貴方がいないと生きていけない」と涙ながらに言葉を掛ける。

「フフ、最高の謝辞ですわね」

 そんなメアリールを抱きしめ返すカチア。

 隣ではキアラが羨ましそうな声をあげる。

「いいな~。私もメアリールをギュッてしたい」

「俺だってしたいのを我慢しているんだから、お前には絶対にさせない」

「……貴方達、感動の場面が台無しです」

 これが魔族の王族なのかと思うと情けないです。と溜息を吐くパズに、だからお前がいるんだ。ガンバレ。と他人事のように声をかけるレピュテイシャン。

 そんな魔族三人を見て、メアリールとカチアは一緒に笑う。

 この三人がいれば、ブリック国でもやっていけると思う。

 二人はまだ見ぬ、レピュテイシャンの国を想像して笑みを深めるのだった。



「ふざけるな! どうして私がメアリールを諦めないといけないんだ」

 ガシャン、ガシャンと物の壊れる音が響き渡る、王族の一室。

 たまにこのような音が鳴るのをこの辺りを担当している使用人は知っているが、それはあくまで第三王子の私室からだった。

 どう考えても本日の音は、反対方向にある第二王子の私室。

 どういうことだと驚く使用人。

 もしかして、第三王子が第二王子の部屋にいて暴れているのかと懸念する者もいた。

 それほど、彼の普段の行動からは想像できないのだ。

 少しナルシストではあるが、優秀な第一王子。穏やかで優しい第二王子。癇癪もちの我儘王子。これが王族を近くで見ている使用人達の総意である。

 だからこそ、今第二王子の部屋から聞こえる騒音に、誰もが怖がるよりも先に首を傾げるのだ。


 ハッハッハッと肩を揺らしながらも、ガシャンと最後に机の上にあるグラスを投げ捨てて、ソファに深く腰掛けるオーラン。

「王ともあろう者が、宰相の口車にまんまと乗せられるなんて……愚かだ」


 先程、メアリールにオリバーとの婚約を解消させ、自分との婚約を申し込んだ。

 メアリールは動揺のあまり混乱し、レピュテイシャに渡された魔道具により、その身を繭によって包まれてしまった。

 メアリールは、ただ驚いたのだ。

 オリバーとの婚約が解消された以上、自分と王族とは最早関係ないと思っていた矢先に、私に求婚されたから。

 私が嫌だったわけではない。王族が嫌だったのだ。

 それなのにレピュテイシャンの魔道具が突然発動してしまい、可哀そうに彼女は閉じ込められて、どんなに怖かっただろうか。

 目の前の者に縋りついた彼女は、それがレピュテイシャンだとは気付かなかったはずだ。

 宰相はその様子を勘違いし、あろうことか自分の娘を他国に売り渡したのだ。

 彼の魂胆など目に見えている。

 あの信じられない威力を発揮した魔道具を、欲したのだ。

 そして何やら父上と話をしたと思ったら、レピュテイシャン殿下に婚約を打診されていると飄々と語った。

 驚く私達を無視して、父上や駆け付けた上層部を上手く丸め込み、あっという間に皆の賛同を得たのだ。

 信じられない。

 なんだ、あの手際の良さは?

 いや、あれは彼の手腕というより詐欺だ。

 魔道具の威力を見せつけた後で、あれを敵に回すと厄介だとか、あの力欲しくはないかとか、人心をくすぐる言葉を囁き、まんまと自分の思惑通りにしたのだ。

 最終決定は後日だというが、あの様子ではメアリールとレピュテイシャンの結婚は、余程のことがない限り覆りはしないだろう。

 メアリールの父親があんな人物だったとは、彼女は本当に可哀そうだ。

 そう思って、彼女を救出する為にオセアン兄上とオリバーに手を貸してほしいと頼んだのだが、上層部の様子を見た二人は消極的になり、無理だと断ったのだ。

 情けない。二人共、メアリールが好きだったのではなかったのか?

 しかも二人一緒に、お前も諦めろと言ってきたのだ。

 冗談じゃない。

 最早、彼女を助けてあげられるのは私しかいない。

 私は絶対に諦めない。諦めてたまるものか。

 メアリールは私の隣で、一生私の為に生きるのだから。



 親子同時に、ゾクッと身震いをする。

 首を傾げるメアリールに、宰相はなんだか嫌な予感がするね。と苦笑する。

「大丈夫です。俺がいますので。メルは俺が絶対に守ります」

 二人の隣では、胸をドンっと叩いて任せろと言うレピュテイシャン。


 真夜中、もう二人共就寝しただろうとこっそり別邸に使いを出した宰相は、パッと明かりがついた別邸に驚く。

 おいで、おいでと手ぐすね引く別邸に、苦笑しながらもその足で向かう。

 待ち構えていた娘と他国の王子に、揶揄った口調で「詳細がそんなに気になりますか?」と聞いてやると「当たり前だ。俺と大事なメルの将来がかかっているんだからな」と照れもせずに、真剣に言う王子様に苦笑が漏れる。

 それほどまでに娘を想ってくれているのかと、親心としても嬉しくなった。

 娘はさぞ照れているだろうと、そちらに視線をやると、娘もまた真剣な顔をしていた。

 どうやら、父親が気付かないうちに娘も本気になっていたようだ。

 とりあえずは一服しようと、談話室に向かう。

 そこでもレピュテイシャンは、メアリールをエスコートする。

 すぐそこですけど、と突っ込みたくなるが、野暮なので黙って部屋に向かうことにした。

 居ずまいを正した宰相は、チェルリア国の意向を伝えた。

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