15:ダンジョンに潜る準備
「なんだと? この宿にも被害が出ているのか?」
オレがオベールさんに夕方の出来事を報告すると、オベールさんはそう返してきた。
現在はとっぷり日も暮れた頃で、オレはオベールさんに夕方押し入ってきた男たちのことを、報告していたのだ。
オベールさんは大人のメンバーとともに、酒を傾けながらその話を聞いていた。
コロンは退屈そうに、横でオレたちの話に耳を傾けている。
「その男たちは懇意にしている宿屋を繁盛させるために、ライバルになりそうな他の宿にちょっかいをだしているって噂だ。この宿もその一つなんだろう」
オベールさんの話では、どうやら夕方押し入ってきた男たちは、懇意にしている宿のライバルになりそうなこの宿に、嫌がらせにきていたようだ。
「その男たちの顔は覚えているか?」
「もちろんです」
「なら明日衛兵を連れて、レッドバジリスクの集まる酒場に行ってみよう。おそらくそこにその男たちもいるはずだ。貴族である俺が訴え出れば、衛兵も動かないわけにはいかないだろう」
こうしてオレたちは、レッドバジリスクの集まる酒場に行くことになった。
「おう・・・オベールじゃねえか? この酒場になんの用だ?」
翌日オレたちが目的の酒場に行くと、ぼさぼさ頭で、ちょび髭を生やした冒険者の男が、数人の冒険者を引き連れてオレたちの前に出てきた。
もちろんオレたちも今日は、コロンはもちろん、希望の盾のメンバーも揃っている。それに加え衛兵も五人ほど連れてきている。
「実は昨日オレの泊まっている宿に、ちょっかいを出した連中がいてな・・・・」
「ちっ! 例の四人を連れてこい!」
するとまるでオレたちの行動を予測していたかのように、昨日押し入ってきた男四人を、数人の男たちがしょっ引いてきた。
そして四人の男は、衛兵に突き出された。
「子爵様に同様の事件が他にも起きていると聞いているんだがな。他にかかわった奴はいないよな?」
「「ひっ!」」
オベールさんがそう脅すように言うと、酒場にいる何人かの肩が跳ねる。
「もし他の宿で次に同様な事件が起これば、俺も黙っちゃいねえから・・・覚悟しとくんだな」
そうオベールさんが言い終わると、オレたちはその酒場を後にした。
その後は同様の事件は起きていないようなので、オベールさんのその時の脅しが効いたのかもしれない。
オベールさんがなぜ貴族でありながら、冒険者を続けているのかはわからないが、この異世界における貴族の力が、絶大であるということはわかった。
だからと言って立場的に窮屈そうな貴族に、自分から進んでなりたいとは思わないが・・・・。
この数日間、道具屋や薬屋に行ったり、武器や防具の修理を頼みに鍛冶屋に行ったりと、ダンジョンに潜る準備をしながら毎日を過ごした。
ちなみに薬屋ではポーションを買うわけだが、この異世界のポーションの効果はそこまで高くはない。
ポーションには回復魔法のように、傷が瞬間的になおるような奇跡的な効果はないのだ。
傷の治りが早くなるとか、傷が化膿しにくくなるとかその程度のレベルだ。
だが無いよりはあった方が良いようなので、一般の冒険者はいくつか所持しているようだ。
まあオレには通販ショップで薬を買うという手段があるので、そこまで必要があるとは思えないのだが。
そして残念なのが装備事情だ。
基本鍛冶屋にはRPGで出てきたような、鋼の鎧などは売ってはいない。
実戦で使えるのは地味な皮鎧か、胸当てやプレートなどの部分鎧程度だった。
スーツアーマーやタワーシールドなどの重い装備をかかえて、何日もダンジョンをさ迷うようなリスクを冒す冒険者は、この異世界では今のところ見かけない。
重い装備はダンジョン探索においてはご法度なのだ。
ダンジョンでは基本的に徒歩となるので、重い装備はスタミナを無駄に奪い、強力な魔物や、罠から逃走する際に、命取りになりかねない。
それが特別に軽い、ユニーク装備などであれば、話は別になるのだろうが・・・・。
騎士が魔物討伐や戦争において、馬上で全身鎧を着ていたりはするそうだが、スーツアーマーやタワーシールドを見かけるのはその時くらいだろう。
今までにオレがそういう装備を見かけたのは、オーク討伐戦だ。
あの時は馬を失った騎士が、全身鎧で普通に動き回っていたが、あれは身体強化の恩恵を受けられるエリートである彼らだから、可能なことなことのだろう。
まあそんな彼らもダンジョンで、あの動きにくいスーツアーマーを着ているかどうかは、明確でない。
基本この国の騎士は、ダンジョンになど潜らないそうだから、そんな心配をする必要もないのかもしれないが。
「よし! 明日はいよいよダンジョンに潜るぞ!」
そして準備が整ったオレたちは、ようやくエミソヤのダンジョンに、潜ることになったのだった。
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