13:エミソヤの街
エミソヤの街に入ると、街路は冒険者でごった返していた。
さすがは冒険者が集まるダンジョン街だと感心する。
そのせいか素行の悪い冒険者も、ちらほらと見かけた。
この街の関所周辺には主に宿屋が密集しており、あちこちで宿屋の看板を見かける。
関所の手前には広場もあり、毎朝食材などの市場が開かれているそうだ。
「まずは当面の拠点となる、宿探しから入るぞ」
関所付近の馬小屋に、馬と馬車を預けると、さっそく徒歩で宿探しを開始するようだ。
拠点となる宿探しは、ダンジョン探索においては大事なのだという。
ダンジョン探索はそれこそ何日もかけて行うため、宿の状態によっては、パーティーメンバーにストレスがたまり、もめ事や、ダンジョン探索におけるチームワークに問題が出てしまうようだ。
「宿屋 街の南亭・・・まんまじゃん・・・」
「ああ。とりあえずこの宿に泊まれないか交渉してみよう」
しかしどこも良い宿は満室で、なかなか宿泊先が見つからない。
「あとは冒険者ギルドのある、ダンジョンに通じる裏門にも、宿屋が密集していたはずだ・・・」
「でもあの辺は特に冒険者に人気のある場所だよ?」
ライザさんの言うように、ダンジョンと冒険者ギルドに近い裏門周辺の宿屋は、立地的に人気が高いのも頷ける。
「やはりこの辺りも、宿の空はないようだな・・・」
当然裏門周辺の宿も全て満室で、宿泊することは出来ないようだ。
最悪しばらくの間だけ、オベールさんのチェックリストにある、悪い宿に泊まる手もあるようだが、それは最終手段にするという。
「いつもこんな感じなんですか?」
「いや。今回は特に酷いな・・・・」
オレたちの到着とこの状態が重なるのに、何か不自然さも感じるが、とりあえず泊まる場所が見つからないことにはどうしようもない。
「あの・・・泊まる宿をお探しですか?」
するとエプロン姿の小さな少女が、そう声をかけてきた。
少女の髪の色は茶色で、三つ編みにしており、頭には白い三角巾をつけている。
オレより頭一つくらい大きいことから、10歳くらいでないかと予想できる。
「ああ。まさか空いている宿があるのか?」
「あります! あります! ぜひうちに来てください!」
「とりあえず宿の名前を聞いてもいいか?」
「酒飲みケンチャン亭です・・・」
酒飲みケンチャン亭? ケンチャンって前世でよく聞いた人のあだ名だけど、まさか転生者ということはないよな?
「聞いたことのない宿だな? 新しい宿なのか?」
「はい。最近できたんですけど宿泊客がなかなか来なくて・・・」
「みんなどうする?」
オベールさんは皆に向き直り、そう尋ねてくる。
「とりあえず泊まってみて、駄目だったらまた探してみましょう」
「私もヨッシーの意見に賛成かな?」
「じゃあとりあえずその宿に案内してくれ・・・」
「わああ! ありがとうございます!」
こうしてオレたちは、少女に案内されて酒飲みケンチャン亭へと向かった。
「小さいが思ったよりも綺麗な宿だな?」
案内された宿は、掃除が行き届き、それなりに良い宿に見えた。
なぜこんな宿にお客さんがこないのだろうか?
料理が不味い可能性もあるが、それは食べてみないことには何とも言えない。
「あら! お客さんかい!?」
オレたちが宿に入ると、小太りなおかみさんが出迎えてくれた。
「とりあえずお試しだ。宿代はいくらになる・・・?」
「宿泊は一人頭銀貨一枚だよ。うちは食事処もやってるんで、食事は食堂で注文しておくれ。一人部屋を希望なら屋根裏が空いているけどね?」
「レティー。一人部屋は屋根裏になるが問題ないか?」
「はい。それで構いません」
こうしてオレたちは、とりあえずお試しで、酒飲みケンチャン亭に泊まることになった。
「あたしはこの宿の女将で、ニナってんだ」
「私は娘のリナだよ!」
宿の女将のニナおばちゃんと、娘さんのリナちゃんが、自己紹介を始める。
「厨房にも不愛想なこの宿の主人がいるんだけどね! あんた! お客さんに挨拶ぐらいしな!」
「うるせえ~! 今仕込み中だ!」
「ちっ! またあの人は・・・・。
主人はチボーってんだ。すまないね顔も見せないで。客が久々に来たもんだからはりきってんだよ」
どうやら宿の主人である旦那さんは、料理に夢中のようだ。
その様子から、料理の味には期待できそうだが・・・・。
ただこの宿の名前に、一つもケンチャン要素はないけどな。
「それじゃあ俺たちは、この街で街長を務めているレオンス子爵に挨拶に行ってくる」
部屋に荷物を置くと、貴族であるオベールさんは、街長を務めている子爵に、ライザさんとイスマエルさんを伴って、挨拶に行くそうだ。
夕食もあちらでいただくそうなので、オレたちはオベールさんたちの帰宅を待たず、宿屋の食堂へ向かうことになるだろう。
「う~ん・・・食事はまあまあかな・・・」
夕食時になると、勧められるままに食堂で料理を注文してみた。
期待していたわりに味は少し物足りないが、貴族ならまだしも、この味で不満を言う冒険者もそういないだろう。
だとしたらいったいどういった理由で、この宿にお客さんはこないのだろうか?
オレたちは食堂のカウンター席に座り、食事をしている。
「魔族のお嬢ちゃんは、ずいぶんと良い食べっぷりだね!」
コロンはオレの左の席で勢いよく食事をかき込んでいる。
「この味ならまあまあってことはないだろ?」
「舌が肥えすぎなんだよヨッシーは・・・」
そのさらに左では、ベルトランが食事をしており、さらに左ではレティーくんが、綺麗な所作で食事をしている。
どうやら二人は、この味が気に入ったようだ。
「お代わりも沢山あるから食べてね~」
小さなリナちゃんは笑顔でそう言うが、オレにはこれでお腹いっぱいだ。
まあオレじゃなくて、コロンに言ったんだろうけどな。
ドカ~ン!!
「性懲りもなくまだ営業してんのかこのボロ宿は!?」
その時宿の扉を勢いよく蹴り開け、ガラの悪そうな冒険者が数人乱入してきた。
いったいこの男たちは、なんだというのだろうか?
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