Epilogue Ⅳ
「まったく、ロシアマフィアは使えねぇな」
『プレミアムタワー』の跡地で、軍服姿の男が瓦礫を踏みしめながら低くつぶやいた。夜の静寂を切り裂くように、軍靴の底が金属や破片に触れてカツカツと乾いた音を立てる。男は立ち止まり、周囲を素早く見渡す。壁の残骸はあちこち焦げ付き、ねじれた鉄骨が不規則に突き出していた。瓦礫の間には割れた窓ガラスや飛び散ったコンクリート、絡まった配線が散乱し、月光に反射してかすかに光る。足元の小さな水たまりに映る自分の姿をちらりと確認し、体重を微調整して前に進む。
「ここで手に入る物は……もう無いだろう」
背後では、同じく軍服の女が慎重に足を運ぶ。手にしたケースを胸に抱え、肩の力を抜かず瓦礫の隙間を踏み分ける。ケースの中の金属の筒がカチカチと音を立てるたび、女は手で押さえながら歩いた。視線は常に瓦礫の向こうを警戒し、崩れかけた壁や影に潜む危険を瞬時に計算する。風に舞う紙くずや砂埃が顔に当たるたび、無駄な音を立てないよう呼吸を整え、静かに進む。
「帰って博士に報告するぞ」
低く、しかし力強い声が男に届く。男は肩をわずかにすくめ、軽く返した。
「あいあい……了解」
二人は沈黙のまま歩き続ける。足音は瓦礫に吸収されるが、金属片が擦れる音や割れたガラスの軋む音まで敏感に耳に入る。夜風が瓦礫の間を抜け、砂や紙くずを巻き上げるたび、二人は瞬時に足を止め、周囲を確認する。男は軍靴の感触で踏む場所を判断し、女はケースの揺れから瓦礫の凸凹を察知する。呼吸は静かに整えられ、訓練された体が自然と動く。
月光が残骸に反射し、二人の紅い腕章を浮かび上がらせる。風に揺れる砂埃が腕章の端に触れるたび、赤色がかすかに揺れ、暗闇の中で強い存在感を放つ。男は立ち止まり、瓦礫の影や鉄骨の突起を一瞬で確認して次の踏み出す足を決める。女も視線で周囲をスキャンし、肩のケースを抱き直して歩みを進める。
瓦礫の中には、かつてのタワーの壁の残骸、折れ曲がった鉄骨、散乱する配線や破片が点在する。風に揺れる破片が月光に反射し、瞬間的に視界を捕らえる。男は一歩ごとに体のバランスを調整し、瓦礫にかかる体重を分散させながら慎重に進む。女もケースを胸に密着させ、筒が揺れないよう指先で押さえ、瓦礫の凸凹を避けて歩く。二人の動きは無駄がなく、まるで一つの連携のように同期していた。
やがて二人は広場に出た。かつてのタワーの基礎だけが残り、崩れた壁や突き出た鉄骨が空に向かって不規則に伸びる。風に吹かれてガラス片や砂埃が舞い上がる中、二人は慎重に一歩一歩を刻む。男は肩の力を入れ直し、女もケースを抱き直す。瓦礫の凸凹に足を取られないよう体重移動を意識し、前進する。
遠くで崩れた壁の軋む音が響くたび、二人は瞬間的に姿勢を硬直させ、視線を暗闇に走らせる。瓦礫に落ちた小石が転がるかすかな音も聞き逃さず、必要ならすぐに反応できる体勢をとる。月光に照らされた紅い腕章だけが、暗闇の中で赤く浮かび上がった。破損した窓枠や散乱するガラス片が光を反射し、軍服の質感や装備の金属パーツが微かに光る。
風が再び吹き抜け、砂埃が舞い上がると、瓦礫に落ちる影と月光のコントラストが強まる。男は一歩ごとに足元の瓦礫を確かめ、体の重心を調整しながら進む。女もケースを胸に密着させ、筒が揺れないよう指先で押さえつつ歩き続ける。二人の動きは無駄がなく、互いに呼吸を合わせたように静かで正確だった。
暗い闇の中、男と女の紅い腕章が月光に照らされ、夜の荒廃した跡地を進む。瓦礫の上に落ちる影が揺れ、風に乗る砂埃や紙くずが舞う中、二人は慎重に一歩一歩を刻み、任務を完遂するべく進んでいく。赤い腕章だけが、荒廃した世界の中で生きていることを示していた。




