↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re:ガンマン  作者: アダス
Epilogue
76/80

Epilogue Ⅰ

……あれから十年。


錆びついたような冬の光が、商店街のアーチをゆっくりなぞっていた。

平日の昼下がりにしては人通りが多い。年末が近いせいか、どこかざわつく空気が街全体に漂っていた。


その空気を割るように、『ラブリー・エンジェル』のドアベルが軽く鳴った。


入ってきたのは、スーツ姿のサルタナと、

その腕にそっと手を添えて歩く――

ワンピース姿のサルタナの姉だった。


十年経っても二人の間の距離は近く、

時間が彼女たちを別の方向に連れて行ったにもかかわらず、

いまだに双子のような呼吸の合い方をしている。


「あ〜ら、いらっしゃい。

十年ぶりじゃない、お二人さん。」


カウンター越しに立つのは、以前と変わらないオカマッスル店長――ノブ子。

胸板は以前より分厚く、腕もひと回り太く、

けれど目の奥にあるあの優しい光は、昔のままだ。


ノブ子の背中越しに、世里奈の姿が見えた。

殺し屋業界の重鎮だか今は穏やかな表情で皿を拭いている。

だが――


(アイツの姿は……ない。)


「まだ進道は帰っていない……ようだな。」


そう口にすると、世里奈は皿を置き、

ふっと笑顔を浮かべた。


「ああ、進くんから『あと少しで来る』って連絡はあったよ。」


昔と変わらない声。

でもどこか、大切なものを守る人の声になっていた。


そのとき、世里奈の後ろ――

彼女の影に、小さな二つの頭が隠れているのが見えた。


「ん?」


つい声が出る。


(……子供ができたのか。

知らなかった。いや、“知らされていなかった”のか。

まあ……いい。)


二人は世里奈のスカートをぎゅっと掴みながら、こっちをちらちら見上げている。

目元は世里奈の面影を残しつつ、どこか進道の鋭さも宿している気がした。



---


この平和な風景を見ていると、

あの日の出来事――

あの血と鉄と怒号が渦巻く夜が、

まるで遠い夢か、悪い冗談だったのではないかと錯覚する。


十年前。

オレも進道も、命が尽きる寸前まで戦い続けた。

限界をとうに越え、

自分でも驚くほどの意思で、

あの白い化け物――イーゴリとぶつかり合った。


その代償は小さくない。


オレは故郷を捨て、

殺し屋として築いた地位を失い、

“戻れない場所”がいくつもできた。


進道は――

永遠だと思っていた“安全”を失った。

家族のため、自分のため、

そして倒れた仲間たちのために、

今なおロシアへ飛び、残党を潰し続けている。


あの日が、オレ達の人生のピークであり、

そして大きな分岐点だったのだと思う。


正義なんて、今さら名乗る気はない。

名乗れる資格があるとも思わない。


けれどあの瞬間、

オレ達は確かに、

暗く輝くステージの真ん中に立っていた――

主役として。


たとえそれが血まみれの舞台でも、

光と影が混じる混沌の世界でも。



---


舞台を降りても、

主役じゃなくても、

物語は続く。


そして――

これからも続いていく。


理不尽は消えない。

失った時間を返すこともできない。

世界は、気まぐれに牙を剥く。

ハッピーエンドなんて、約束されていない。


……だが。


かつて共に戦い、傷つき、

それぞれの道を選んで生きてきた人間たちと、

今こうして小さな店で酒を交わせるひとときくらい――


幸せを感じても、罰は当たらないだろう。


そんなことを考えていたちょうどその時。


――カラン。


ドアが開く音が、

ゆっくりと、懐かしい空気を引き連れて店内に響いた。


オレは自然と、そちらへ顔を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。