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Re:ガンマン  作者: アダス
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「これは一人の殺し屋の物語」Ⅰ

「ねえ、お兄さん、今日、私たちと遊ばない?」


耳に心地よい低音のBGMが流れる薄暗いラウンジ。照明は落とされていて、天井から吊るされた小さなランプがぼんやりとテーブルの上だけを照らす。俺はその光と影が混ざった空間の中で、ソファーの背もたれに体をゆったりと沈め、片手で握ったビール瓶をそっとテーブルに置いた。空調は程よく冷えていて、外の蒸し暑さを忘れさせるが、それでもこの席に流れる空気は、酒と香水の香りが混ざり合い、少し重く、濃密な時間を作っていた。


その濃密な空気の中に、前方から二人の女性が現れた。ソファーに座る俺の視線を絡め取るように、赤いワンピースを着た長い髪の女と、スパンコールが煌めくミニドレスを着たショートカットの女だ。長い髪を緩く巻いた赤ワンピの女は、柔らかく腰に手を当て、わずかに体を揺らしながら笑い、その目はまるで何か面白いことを仕掛けようと企んでいるかのように輝いていた。ショートカットの女もまた、唇の端をくいっと上げ、こちらを挑発するように見つめてくる。二人の視線が同時に俺を捕らえ、まるで網にかかった魚のように動きを制限される感覚があった。


俺は手元のビール瓶に差し込んだストローから軽くビールを吸い込み、喉を湿らせた。冷たい液体が体内に流れ込むと、少しだけ落ち着く気がした。しかし、その落ち着きも長くは続かないことは、直感で分かっていた。


「悪いな、彼女(嘘)が一応いるから、やめとくわ。」


軽く肩をすくめ、曖昧な笑みを浮かべる。こういう夜の誘いに深入りすると、必ずろくなことにならない。俺の仕事柄、表面上の駆け引きや遊びの罠には何度も巻き込まれてきた。だから、今もこの一言でやり過ごそうとしたのだ。しかし、赤ワンピの女はそれを聞き流すことなく、唇の端をわずかに上げて、挑発的に囁いた。


「その彼女さんに、いたずらメッセージ送っちゃった♥️」


一瞬、頭の中が停止した。耳を疑い、視線を落とすと、彼女の手には見覚えのあるスマホが握られていた。俺のだ。いつの間にか、ポケットから抜き取られていたらしい。しかも画面ロックは解除されており、メッセージアプリが開かれている。


「ぶっ!……マジで?」


驚きで口の中のビールを吹き出し、慌ててハンカチで拭った。液体の一滴がシャツに垂れ、軽く焦る。視界が少し揺れる感覚に、心臓が跳ね上がるのが分かった。


「マジで♥️」


ショートカットの女がいたずらっぽく笑いながら、スマホの画面を俺に見せる。画面にはコミュニケーションアプリ「Rainレイン」で送られたふざけたスタンプと、軽いノリのメッセージが表示されていた。相手の名前欄には“彼女(嘘)”──いや、実際には俺の直属の上司の名前が入力されている。


心臓がわずかに跳ねた。冷たい空調に包まれているはずなのに、体内に熱がこもる感覚があった。視線を上げ、赤ワンピースの女を見ると、楽しげに目を細め、こちらの反応を待っている様子だ。ショートカットの女も同じく、口元に含んだ笑みを崩さず、状況を楽しんでいる。


(やべぇ……どうやって言い訳すりゃいいんだよ。)


思考が頭の中を駆け巡る。今この場で取り繕わなければ、後の処理がとんでもなく面倒になる。上司に無意味な誤解を与えるのも、間違いなく避けなければならない。しかし、今はこの二人の女の視線がそれを許さない。軽く肩を揺らしながら、冷静を装おうとする自分と、内心で焦る自分がせめぎ合う。


俺はビール瓶を握り直し、ストローを口に差し込んでごくりと飲み込む。液体が喉を通る感触で、わずかに頭の中がクリアになる。だが、目の前の状況は一向に変わらず、二人の女は悪戯に満ちた笑みを崩さない。


視線を落とすと、スマホの画面に映るメッセージがじりじりとこちらを追い詰める。スタンプはハートや顔文字で埋め尽くされ、文章は短いながらも挑発的だ。指先がわずかに震え、心臓がまだ高鳴っている。


(どうする……?言い訳できるか……いや、無理だ。)


頭の中で何度もシナリオを繰り返すが、どれも上手く収まらない。目の前の二人は、それを見抜くかのように楽しそうに笑い、俺の焦りをさらに煽る。


軽く肩を落とし、曖昧な笑みを浮かべたまま、俺は再びビールの瓶に手を伸ばした。冷たさが手に伝わり、少しだけ心を落ち着ける。しかし、状況は変わらず、二人の女の視線は依然として絡みつくように離れない。


(やべぇ……どうやって言い訳すりゃいいんだよ。)

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