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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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72話 修学旅行の後日談

「それでは、恵麻、聞かせてください」


 修学旅行が終わって一週間、前と同じ会社の一室で、私は紅葉さんと対面していた。

 今日は前にお話した時より緊張しているけど、紅葉さんの前ではお仕事モードに切り替えて、いつもと同じ声色を意識して口を開く。


「本来は報告書が必要ですが、今回は口頭だけで報告させてください」

「そのつもりですわ。このことはあくまで、私と恵麻だけのお話です」


 それは事前に伝えてはいたけれど、改めてそのことを確認させてもらった。今回のことは奏のプライバシーに関わる話で、記録に残すようなことじゃない。紅葉さんもそのことを了承してくれて、まずはほっと息をつく。

 そして私は奏について調査した結果を言葉にする。


「奏は、女の子が好きみたいです」


 そう言うと、紅葉さんは口に付ける前のカップをピタリと止めた。


「……予想、ではないわよね?」

「奏本人の口から直接聞きました」

「それは女の子だけが好きという意味?」

「そうです。分かりやすい名称を付けるなら、バイセクシャルではなくレズビアンです」

「ふむ……」


 紅葉さんは紅茶を口に含んで、しばらく考え込む。


「最初から説明してくださる?」


 そうして私は、調査したことを順番に話す。

 奏の夏休みの動向、その中で、奏が大学生の女性とホテルに入るのを目撃したこと。その後、修学旅行中に私がそのことについて聞いてみたこと。そこで聞き出した、そうなった原因について。

 その経過を、紅葉さんはまっすぐ私から視線を外さずに聞いていた。それは私の言葉の裏面まで覗き込むような視線だったけど、それをしっかりと受け止めながら、わかりやすいように話す。


「……というのが、経緯になります」


 そう言葉を切って、初めて紅茶が満たされたカップを手に取り、乾いた喉を潤した。それは全てお話しました、という合図。


「要するに、奏は高校生になる前の春休みにとある男性と出会って、とても傷ついたことがある。それが直接の原因だと?」

「はい、内容までは教えてくれませんでしたけど」

「……もしかして、その時にはすでに奏を狙っていた男性がいたのかしら」

「その可能性もありますが、男性側の調査までは難しく」

「そうですわよね、わかっています」


 この世界で、男性のプライバシーはなによりも重視される。もちろん公に調べることなんて出来ないし、そのことが男性にバレてしまえば企業でさえも糾弾される。……実際は公に出来ない方法で調べたりとかはしてるんだけど、リスクが大きいからよっぽどのことがなければ調査することはなかった。


「もしかして、奏は幸太郎様にも怯えていたのかしら……」

「奏は幸太郎君ならそんなに怖くないと言っていました。だけど自分から話しかけたくはないと」

「高校に入って幸太郎様にアピールしなかったのは、そんな理由があったからですのね」


 紅葉さんはそう言って、私の話に納得してくれたみたいだった。

 コトリと、紅葉さんがカップを置く。


「恵麻、よくやってくれました。仲の良い友人の内情を調べるのは辛かったでしょう」

「……はい」

「その対価には、十分な報酬を約束しますわ。もちろん、幸太郎様の5枠目も。奏との約束で、4枠目が決まってからになりますが、それが決まれば恵麻にはすぐ幸太郎様のお役目の補助をしてもらいます」

「はい……嬉しいです」

「そうでしょう、そうでしょう。あれは本当に素晴らしい体験でしたからね……恵麻も期待しててください。あら、もうこんな時間」


 紅葉さんはうっとりとその時のことを思い出していたけれど、壁にかかった時計を見てはっとした。


「紅葉さんはこれから会議ですよね?」

「えぇ、重要な会議がありまして……私、恵麻に言いましたっけ?」

「紅葉さん、急いだほうがよろしいかと。私もこの後は予定がありますので」

「そうですわね、ではまた学校で」




 紅葉さんと別れていつも通り会社の自動ドアから外に出ると、本格的な夏の日差しが肌を焼いた。

 日傘をさして、人通りのない道を進む。まっすぐ駅まで歩いて、休日の混み合っている電車に乗った。窓の外を見ながら電車に揺られて、いつも降りる駅より一つ手前の駅で、ドアが閉まる直前に電車から降りる。

 同じように電車から降りる人がいないことを確認して……つまり私の後を付いてきた人がいないことをしっかり目視してから、改札を出て駅のすぐ隣に併設してあるカフェへと入った。


 カフェの中は冷たい空気で満たされていて、汗が引いていく。ほっ、と息を吐き出して、カウンターでアイスティーと季節限定のレモンのミルクレープを注文した。

 店員さんからトレイを貰って店の奥に進むと、一番端の席で、一人の女の子が本を読んでいた。存在感が凄くて自然と視線が惹かれるような美少女。それは私の親友、奏だった。


「上手くいった?」


 と、私に気づいた奏が、イタズラっぽくほほ笑む。夏っぽいTシャツにデニムスカート、銀のアンクレットに可愛いビーチサンダルがとても似合う。いつもそうだけど、奏は何を着ても完璧に着こなしていて、そのスタイルと自信が羨ましい。


「はぁ~~~奏ぇ! 緊張したよ~~~~!」

「お疲れ様、エマ頑張ったね」


 そんなとびぬけた美少女でも、声をかければ一気に話しやすくなるのは奏の不思議な魅力。私が張りつめた息を一気に吐き出すと、そんな私を奏は笑いながらねぎらってくれた。




「でもよかったのかなぁ。紅葉さんだまして」

「いいのいいの。もともと仕掛けてきたのは紅葉なんだし」


 あー、とチーズケーキを口に入れる奏は、なんでもないようにそう言った。

 実は今日の私と紅葉さんの受け答えは、事前に奏とシミュレーションをしていた。私がこう報告する予定、と説明すると、奏はノートに紅葉さんの受け答えを数パターン予想して、どういう風に話が進むのか、ロードマップを作ってくれた。

 奏が違う世界から来た、という話は現実味がなさすぎるし、紅葉さんに言っても信じてくれるか分からなかったから、事前に内容を作ってもらって、私はそのまま話しただけ。

 実際、紅葉さんの受け答えは奏が予想した内容とぴったりで、私はあの会議室の中で話しながらも内心驚いていた。


 修学旅行が終わってすぐ、『エマが私を調査したのは、紅葉に誘導されたからだよ』と奏に言われて、私はよく理解できなかった。奏のプライバシーを覗いたのは私の意志だし、紅葉さんは成功しても失敗してもいいと言っていたから、この罪悪感だって私だけのものだと思っていたけど、奏はそうとは言わなかった。

 奏は紅葉が仕掛けたことを確信しているみたいで、そういう時の奏はその予想を外すことを見たことがない。『いつか仕返しをしたいからエマも協力してくれる?』 と言われて、私も奏に協力することになった。


 それで奏と話し合って、どうやって話を進めるか考えた結果、当初辞退しようと思っていた幸太郎くんの枠にも入ることになってしまったんだけど……本当にそれでよかったのかなぁと思ってしまう。

 悪いのは私だけなのに、いつの間にか欲しい物は全部私の手の中にある。損したのって奏だけなんじゃないかなぁとも思うけれど、その当人である奏は何も気にすることもなく、目の前で美味しそうに私のケーキを一口味見している。


「……エマ、これでよかったのかなとか思ってるでしょ」

「え、あっ、うん」


 そう思っていたばっちりのタイミングで、奏がそんなことを口にする。


「今はそう思ってるかもしれないけど、ツライのはこれからだよ~。エマには逆スパイみたいなことしてもらうんだからね」

「そうなの? 紅葉さんの情報を教えればいいの?」

「うん、そうだよ。例えば紅葉の恥ずかしい話とか……本当は今のところ何も考えてないけど」

「なにそれぇ」


 奏は軽く脅すようにそんなこと言うけれど、そんなこと聞かれないだろうなって気がする。私を幸太郎君の枠に入れるための理由付けなだけで、こうでもしないと私が本当に枠を辞退しかねないと奏は思ったんだろう。


 本当に、奏は私に甘いんだから。


「ふふっ……」

「どうしたの? エマ」


 そんなことを考えていると、自然と笑みがこぼれてしまった。


「なんでもなーい。奏が親友でよかったなって思って」

「……今更?」


 私が素直にそう言うと、照れ隠しをするように奏はそう言った。

 奏が女の子が好き、というのは実は今でも半信半疑なところ。私達は昔から男の子の話ばっかりしていたし、男の子関係の思い出だってたくさんある。


 でもそれだけが奏じゃない。


 頼りになるところとか、何かと私やなっちゃんのことを考えてくれる優しいところ。すっごい可愛いのにそれを鼻に掛けないことも、高校生になって変わらない部分。

 だから、奏が女の人と付き合うんだったら、それを応援しよう。奏が選ぶ人なら、きっと素敵な人に間違いないから。


「ね、ねぇ。そういえば気になってたんだけど、奏が付き合ってる大学生の人ってさぁ……」

「あ、あー…………えっと、言いづらいんだけど、もう別れちゃった」

「え、ええぇぇぇぇぇえぇぇぇぇえぇっ! なんでっ!?」


 と思っていたのに、奏はなんの後悔もなさそうにそう言って、私はその詳細を聞きだすのであった。




 ケーキも飲み物も無くなった頃。


 私は奏の恋人についてあれこれ聞こうとしたけれど、奏はあんまり教えてくれなかった。というか、まるで知らないみたいな? もしかして悪い女の人に引っかかったわけじゃないよね……と思ってしまうほど。

 でも奏自身がお互いの価値観は違って別れた、と話してくれたから一旦それを信じることにした。


「次奏と付き合う人は、事前に私が面談しないと……」

「なに、エマは私のお母さんなの?」


 と話しながら奏は笑う。別れたというわりには落ち込んでいる様子もないし……なんかそれも不思議だけど。

 それより、今日は私も奏に話したいことがあった。私を5枠目に推薦してくれた奏に、お願いしたいことが。


「ねぇ、傷心のところ悪いんだけど。修学旅行の時、お願いしたいことがあるって言ってたでしょ?」

「あ、その話。もちろん覚えてるよ。なに?」

「えっとねぇ、奏がもう経験済みって知っちゃったから、お願いするんだけど……」


 そうして私は、前から保留していた悩みを奏に話す。きっと奏なら、協力してくれることを信じて。


「幸太郎君とのお役目に付き合う前に、私の処女喪失、手伝ってくれないかなぁ?」


活動報告の通り、しばらくお休みですー。

百合コンテスト用のお話がカクヨムにて上がります! まだプロローグだけですが、フォローしてくれると嬉しいですー。


25%な妹との関係性

https://kakuyomu.jp/my/works/2912051605272475207


こちらも早めの復帰を頑張りますので、お楽しみに。

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