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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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16話 代行戦争~体育祭編~2


 短距離走では無事1着をとれた。柚ちゃんのクラスの子は陸上部というだけあってギリギリ勝てた感じだけど、1組の子は思ったより遅かった。あれで100m走者なんだ、もっと速い人いなかったのかな?


「菜月、エマ、お昼一緒に食べよ」


 お昼休みになって私は二人を誘う。体育祭の日は学食もやっておらず、基本お弁当。私もお弁当を作ってきていて、菜月も市販のパンの袋を取り出している。


「あ、私お母さん来てて……できれば二人と会いたいって言われるんだけど。お弁当も作ってるみたいで」


 スマホを胸に抱えたまま、エマは少し言いにくそうに言った。


「エマのお母さん? うわー、久しぶりかも! 私も会いたいな!」

「あ、あんまり恥ずかしいこと話さないでね! きっと私の話聞くつもりだから」

「私はエマのお母さんのお弁当食べれるならなんでもいい」

「もう、なっちゃんはすぐそれだー」


 この体育祭は親御さんの見学が認められている。そもそも百合が原高校は大きな体育公園と隣接していて、なにかイベントがあれば体育公園内の体育館や競技場を使うことがほとんど。公共の施設であることから、一般の人たちでもふらりと入ってこれる気軽さがある。

 男性が複数参加するイベントではあるから、今回使っている競技場周りの警備数はもの凄くて、ちょっと物々しくはあるけど。

 私達は競技場から出て、近くの広い原っぱへと移動する。青々と茂った大きな樹の下、レジャーシートを敷いて、まさにエマをそのまま成長させたって感じのお母さん……小松麻子(こまつまこ)さんが手を振っていた。




「「いただきまーす!」」

「い、いただきます」


 私と菜月の元気な声、それに対照的なエマの少し恥ずかしそうな声が響いた。


「たくさん用意してきたから、いっぱい食べてね」


 そう言われて、遠慮なく麻子さんの大きなお弁当に手を付ける。だし巻き卵を食べてみると、中からはじゅわっとダシの味が溢れた。


「お、美味しい!」

「やっぱり麻子さんのご飯最高ー!」


 菜月も箸が止まらないようで、揚げ物全般を凄い勢いで食べている。


「……」


 それとは逆に、お母さんのはいつでも食べられるから、と私のお弁当を食べているエマはなんだか居心地悪そうにしていた。

 エマのお母さんは前の世界と同じくスナック経営をしていて、特に家庭料理が上手いと評判だ。

 私は変わらずスナックがあることを聞いて、そういう夜のお仕事ってこの世界でもあるんだ。と少しだけ驚いて調べてみたけど、夜の飲み屋さんくらいなら全然あるらしい。

 この世界の女性はだいたい働いている。だから深夜までやっているスナックは、愚痴を吐き出すにはちょうどいい場所だし人気も高いみたい。


「奏ちゃんも菜月ちゃんも久しぶりね、可愛くなっていて驚いたわ」

「麻子さんもお元気でした?」

「っていうか麻子さんこそ全然変わってない気が……」


 うすうす思っていたことを菜月が代わりに言ってくれる。


「ふふ、若い子がたくさんいるからかな? 私も若返っちゃったみたい」


 茶目っ気そうにそういうけど、麻子さんはもう40近かったはずだ。でも外見は20代後半って感じで、これが美魔女ってヤツなのかな、と思ってしまう。

 麻子さんとは夜の仕事ということもあり、しばらく会っていなかった。よく会っていたのは私が小学生の頃で、エマの家に遊びに行くとなれば、それは麻子さんのスナックに遊びに行く、ということだった。

 麻子さんはお菓子もジュースもいくらでも用意してくれるから、私も菜月もエマの家へ遊びに行きたがって、夏は特に毎日のように入り浸っていた気がする。

 小学校高学年になって、さすがに遠慮を覚えてからは回数は少なくなったけど……いつも笑顔で出迎えてくれた記憶が強くて、この世界でもいてくれて本当に良かったと思う。

 凄い勢いで食べる私達を、麻子さんは優しく見ていてくれた。お弁当の中身が一通り少なくなって、お腹が膨れて落ち着いてくると、最後にはデザートのフルーツが出てきて歓声を上げる。


「うー、ちょっと食べすぎたかも。リレー大丈夫かなぁ?」

「大丈夫大丈夫、リレー最後だしまだ時間あるよ」


 最後って言ってもあと二時間くらいしかないけどな、と思っていると麻子さんがふんわりした感じで話す。


「それで二人とも、学校での恵麻のことを聞かせてほしいなぁ。奏ちゃんも菜月ちゃんもいるから心配はしてないんだけど」

「……お母さん」

「少しくらいいいでしょ? だって恵麻全然学校での話してくれないんだもの」


 と麻子さんに期待のまなざしを向けられて、私と菜月はアイコンタクトを取る。というのも、一つ問題があって。


「恵麻学校で上手くやってる? 男の子とはあんまり関わってないって聞いてるんだけど」


 エマは幸太郎君のグループに入っていることを、麻子さんに内緒にしているようだった。

 それはさっき聞いたばかりのことで、その理由を聞いてもエマは言葉を濁すだけで詳しい話は聞けていない。男の子のいるグループに入るなんて、普通なら親にすっごく自慢するし、その親も鼻が高いものだけど。

 でもエマがそうしたいというのなら私も菜月も告げ口みたいなことはしない。エマは確かに幸太郎君のグループにはいるけど、半分私達のグループでもあるし、その間にあったことなんていくらでもあって、だからそれをちょっと盛りつつお話した。まぁ、エマの恥ずかしい話をいくつかすることになったのは、ゴメンって感じだけど。

 それでも麻子さんは満足してくれたようで、お昼時間の終わり、ほとんど空になったお弁当箱を持って麻子さんは帰っていった。また前みたいに遊びに来てくれていいからね、と言ってくれて私達は手を振って麻子さんを見送る。


「エマ、お母さんに言ってなかったんだ」


 競技場に戻る道すがら、その話題を出したのは菜月だった。


「うん……ごめんね。言ってなくて」


 エマはなんだか沈んでしまっていた。エマは責任感が強いというか、負の部分を強く見てしまうことが多いから、今回も私達に言ってなかったことに悪気を感じているみたい。別に気にしなくてもいいのに。


「それはいいんだけど、どうして?」

「そうだよー、絶対麻子さんなら喜ぶのに」


 菜月の言う通り、私も麻子さんなら喜ぶだろうなって思った。麻子さんは優しいから、それこそお赤飯とか炊きそう。


「だから、なんだよね」


 エマの言葉に、私達は首を傾げる。


「たぶん、お母さんすっごく喜んでくれると思う。それで……きっとお節介しちゃうと思う。幸太郎君にあれ持っていきなさいとか、これ買ったから着ていきなさいとか。今日だって私が幸太郎のグループだって知ってたらその分のお弁当作ってきてたよ?」

「「あー……」」


 そう聞くとなんとなくその光景が思い浮かんでしまう。麻子さんはただでさえ接客業で、しかもお客さんとの距離が近い。エマのためと思って頑張りすぎてしまうのはあり得そう。


「私の家あんまり裕福ってわけじゃないし、あんまり無理させたくないんだ。最近はちょっと鬱陶しくなってきたのもあるけど……報告するにしてもせめて、お役目に誘われてからにしようかなって」


 反抗期ってやつもあるのかな? と菜月を見るとうんうんって頷いている。菜月も同じ考えみたい。私から見ると、エマと麻子さんってほとんど同じような性格なんだけど……だからこそ反発しちゃうのかなとも思った。


「エマもいろいろ考えてるんだねぇ」

「なっちゃん、それどういうこと? 私があんまり考えてないってこと?」


 菜月がちょっとからかうように言って、エマがそれを追いかける。……ゴメン、エマ。私もちょっとそう思った……。

 前の世界のエマは、もっと引っ込み思案でいつも私の後ろに隠れて歩くような、そんな女の子だった。でもよく思い出してみると、エマは観察眼がすごくて、私の気づかないことを言い当てたり、後ろからアドバイスしてくれたりすることも多かった気がする。

 今の話を聞いて、この世界のエマは性格自体は全然違うけど、その本質は変わっていないんじゃないかと思った。男性に前向きになったおかげで、その調査力は男性ばかりにつぎ込むようになってしまったけど、私の世界にいたエマと少しだけ、重なる部分が見えた気がした。


「ねぇ、奏はそんなこと思ってないよね! 私、ちゃんと考えてるよね!」


 菜月を捕まえられなかったエマが私にそう聞いてくる。そんなエマに、私は無言でその頭を撫でた。


「え、なになに。なんでそんな優しい目をしてるの……?」

「エマはそのままでいいからね」

「……まさか奏もなっちゃんと同じ? もー!」


 すっかり不機嫌になってしまったエマを宥めながら、私達は午後の体育祭へと向かった。


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