13. なんで?アタシはお姫様でしょう? ※過去
一人で勝手に帰り、ベッドで泣き疲れて寝てしまったドロシーが起きると両親達が心配して事情を聞いてくれた。その中にお母様はいなかったが感情が昂っていたドロシーにはどうでもいいことだった。
「お義母様!このドレスがチェルシーに贈られたものだなんて嘘よね?!」
ボイルと別れた後変な貴族に絡まれて嫌な目に遭ったと告げれば可哀想にとお義母様に抱き締められた。
涙を流しながらこのドレスはドロシーのものだと言ってほしいと目で訴えるとお義母様は大きく頷いて肯定した。
「だって宛名も差出人もなかったもの。このドレスもアクセサリーも全部あなたのものよ。あなたのために誂えたようなものばかりじゃない。チェルシーなんかには勿体ないものばかりだわ。
きっとその貴族はドロシーの気を引きたくてそんな無礼なことを言ったのね」
「でも、それを言ってきたのおじ様だったわ。トルートル?なんとかっていう」
「老いても不器用な貴族はいるものだ。きっと未だに結婚できない独り身なんだろう。次に会ったら私がガツンと言ってやろう」
「本当?!お父様ありがとう!」
やっぱりお父様は頼りになるわ!
「ドロシー。相手はトルートル?なんとかと言っていたが爵位は聞かなかったのかい?」
「えーっと、ね。こうしゃくだったかな?あの時お母様もいたからお母様に聞いてほしいわ」
お母様がどうしてるのかと聞いたら帰ってからずっと寝込んでいるんですって。お義父様は「娘もろくに守れず情けない!」と怒ったけどアタシのことは責めなかった。
やっぱりアタシは悪くないんだと確信した。
数ヶ月後のある日、起きたら両親達がいなくてまた観劇か買い物に行ったのかと思った。ズルいわ、と思ってアタシも出掛けようとしたらチェルシーとすれ違った。
「今日は出掛けるなってお父様達が言っていたわよ」
「ふーん?そうなの」
それは見た目も悪くて醜聞しかないチェルシーだからじゃない?だって存在するだけで家の恥だもの。
そう思っていたら両親達は国王様に呼び出されて出掛けたんだって執事が教えてくれたわ。もしかしてボイルがアタシとの結婚を許してもらおうと直談判?をしたのかな?もしそうならアタシもそこにいるべきよね?
「なんでそんな能天気な考えが浮かぶの?」
だってアタシは王妃様になるんだもの。アタシがいなくちゃ話にならないわ!!
引き留めるチェルシーや使用人を振り払ってアタシは王宮へと急いだ。
王宮に辿り着くとまず最初に門番に止められたわ。両親達が中にいるって言ったのに全然入れてくれないの。呼ばれたのは両親達だけなんですって。
だからボイルに会いたいと言ったら先触れを出してないから通せないと返された。もう!融通がきかないわね!
「ドロシー!」
「ボイル様!!」
そこへボイルがアタシを助けに来てくれたから直ぐ様抱きついたわ。これだけ親密なアタシを追い返そうとした門番は罰を受ければいいのよ!
しっかりあの門番にひどい目に遭ったのだと聞こえるように報告して中に入ると、王子宮というボイルのプライベートエリアに案内してくれた。
これはもうアタシが王妃になるの確実じゃない?!とウキウキしながらボイルの部屋に入りソファや飾られてる品々を見て広くて豪華なベッドにダイブした。
「ドッドロシー!!」
顔を赤くしたボイルが慌てて引っ張り起こしてきたけど体勢を崩したように見せかけて一緒にベッドに落ちた。
真横にいるボイルは真っ赤でまるで初夜をこれからするみたいな顔をしてる。ドキドキしながら目を閉じればボイルの唇と重なった。
「えっご両親が父上と会ってる?」
結構いいところまで行ったんだけど、不細工な従者が邪魔してきて雰囲気をぶち壊された。折角既成事実を作れると思ってたのに。
ギロリと従者を睨みつけたけど彼はオドオドすることも申し訳なさそうに泣くこともなかった。生意気で嫌になっちゃう。
アタシが王妃様になったら即クビにしてやるんだから。
訪れた理由を話したら、両親達が来たことをボイルは知らなかった。なので「きっとアタシとボイル様の結婚を認めるようにお願いしてるのよ!」と都合のいいことを言った。
「え、なんで?僕達の関係は内緒だって言ったじゃないか」
「え?あっそうよね!でも、ほら!うちのお母様達勘が鋭いから隠しててもバレちゃうのよ」
しまった、と思いながらなんとか言い訳をするとボイルは仕方ないな、と諦めてくれた。そうでなくてもアタシ達はファーストダンスと三回も踊ってるのだ。
後でお義母様に聞いたら三回目は婚約者としか踊れないんですって!キャーッ!!と思わず叫んじゃったわ。
だってボイルがアタシを婚約者たって認めてくれたってことでしょう?王妃様の席はすぐ目の前にあるんだわ!
「でも他の人には言っていないよね?」
「ええ。誰にも言ってませんわ。両親はその、バレちゃったけど……ごめんなさい。怒ってる?」
「…いいや。僕も落ち度はあるから」
やっぱりボイルは優しくて格好いい。好き!
「でもそうなると、計画を早めないといけないか」
「そうなの?」
アタシと結婚するためにボイルは色々頑張ってくれてるみたい。
「でも、パズラヴィア侯爵家と本当に解消できるのか…?」
「デイリーン様は隠れてこそこそアタシのことを苛めてきた悪い人ですよ?あの人は間違いなくボイル様のことも陰で悪口を言っていますわ。
結婚したいのならボイル様が嫌だと思うことを言ったりしないもの!アタシのことだって今はまだ友人なのに嫌がらせをするなんて後ろ暗いことがある証拠だわ!」
「そんな……」
思いつくままあることないことを口にすればボイルは顔を真っ青にさせた。
「それに、トゥルーなんとかこうしゃく様がアタシのことを気に入ってくれて、デイリーン様の悪事を暴いてくださるって約束してくださったんですよ」
「トゥルーメル公爵が?!」
そうそう。確かそんな名前だったわ。驚くボイルに結構有名な貴族だったんだと思ったけど気にかけてくれてたのは本当だからこのくらいの誇張は問題ないわよね?
それよりもデイリーンに引き裂かれてボイルが望まない結婚をさせられる方が問題だわ。アタシはデイリーンのせいで王妃になれないのかもしれないと思ったら悲しくて涙が滲んだ。
「アタシ嫌です。ボイル様と結婚できないなんて!ボイル様がデイリーン様と結婚なんてしたらアタシ、アタシ、ショックで死んでしまうかもしれません」
ハラハラと儚く可憐に泣けば同情したボイルがソファから立ち上がり抱き締めてくれた。
今は病気になんてかかってないし、失恋で死ぬほど弱くもないけどボイルは信用してくれ従者が見ているのにキスをしてくれた。
デイリーンさえなんとかできればきっとアタシ達は結婚できる。
デイリーンと別れられれば国王様もアタシ達の結婚を認めてくれるはずだわ。
そう言い含めてデイリーンにされた嘘の嫌がらせをたくさん報告してボイルと別れた。
「あーあ。アタシ王子宮に泊まってみたかったなぁ。王宮のお食事ってどんなものか食べてみたかったのにぃ」
廊下を歩きながらアタシは不満を口に出した。何が『勉強があるので退出を』よ!
今は友人兼恋人だけど未来の王妃になるアタシが来たのよ?!今日くらい勉強を休んだっていいじゃない!
ボイルも従者の言いなりで気分が悪いわ。帰ったらスイーツをたくさん食べようっと。
プリプリしながら歩いていたがまだ外に出れない。
来た時とは違う狭くて武骨な石畳の廊下に前を歩く従者に聞いたら「あなたは非公式の客人なので人目を避けなくてはなりません」だって。
だから裏道を通れって言われても暗いし狭いしなんだかカビ臭いわ。早く外に出たいとソワソワしているともう一人従者の格好をした男が現れた。
彼と不細工な従者の話に聞き耳を立てていると不細工の代わりに新しい彼がアタシを案内してくれるらしい。
「生かしておけとのことです」
よくはわからないけど不細工な従者は怒ってアタシに挨拶もなく去って行ったわ。
残ったのはアタシと新しい従者だけ。
近くで見てみたら目鼻立ちはちょっと地味だけど中性的で結構格好よかった。細い目と泣きボクロがセクシーに見えたわ。
へえ。こんなイケメンがいたんだと知ったアタシは外に出るまでずっと話しかけたの。暗いから怖かったのもあるわ。
名前はコネット。女の子みたいな名前ねって言ったら家名だって返されたわ。なら名前を教えて?って聞いたのに全然教えてくれないの。
仕方ないから恥ずかしがり屋の彼にアタシの名前を教えてあげたのね。そしたら、
「ドロシー・ゴゴホット・ポッドホット?変な名前だね」
「変じゃないわ!アタシは二つの家の子供だからそういう名前なの!自己紹介したんだからあなたの名前を教えなさい!」
「その家名を名乗る許可を与えたのは誰なの?」
とか言って全然教えてくれない。
名乗ったら名乗り返すのが常識なのになんてマナーがなってないのかしら!それでも王家に仕える従者なの?!
頭にきて馬車に乗るまで一言も喋らなかったらドアを閉める前に彼と目が合った。
「あんたさ。トゥルーメル公爵様がチェルシー・ポッドホット様に贈ったドレスをネコババしたんだってな」
無礼を謝るなら許してあげなくもないわよ。って優雅に構えていたら思ってもみないことを切り出され「は?」と思わず返してしまった。
一瞬なんの話?と思ったが、盗んでもいないのに勝手に決めつけられ詰られた話だとわかったドロシーは感情のままに叫んだ。
「人聞きの悪いこと言わないで!あのドレスはボイル様がアタシを想って贈ってくださったのよ?!」
「へえ。ならなんで宛名が書いてなかったんだい?」
「それは、アタシ達の関係はまだ隠してなきゃいけないから……あ、」
そこまで言って失言に気づく。コネットが鼻で笑うのでアタシは負けじと睨んだ。
コネットはボイルとアタシの関係を知ってゆするつもりなんだわ。
世間に公表されたくなければ金を出せとか言うつもりね!おあいにくさま!アタシ達はゆすりに屈するような関係じゃないわ!
バレたらバレたで問題ないもの!デイリーンがざまぁされるのが早くなるだけよ!
しかしコネットはドロシーの予想とは違うことを脈絡なく話し出した。
「王家にも王領という領地があるのは知ってるか?その中には王子領もあり、陛下の御子全員に領地が与えられている。
もちろんボイル殿下が治めている領地もある。あの方はすべて人任せにしているようだがね。
放置していても一定の益が得られる場所だし部下達がなんとかしてくれる。変な欲をかかない限りは手堅い小遣い稼ぎさ。
だが彼の方は違った。自分にできることはなんでもしようと動いてらっしゃる。剣で自分を鍛えることも、勉強も、精神を養うことも、王家の役割をこなすことも、自ら領地に赴き民の声を聞くことも手を抜かず精力的にこなしている」
いきなり語りだしたコネットにドロシーは困惑して距離を取った。暗がりで顔は見えないがなんとなく怖いと思った。
「その方が治めている領地の名を知っているか?」
もったいぶるコネットにアタシは胸騒ぎがして後ろに下がった。嫌だ。もう帰りたい。聞きたくないと思った。
「アジベイル領。そこは赤い宝石を多く産出している。ルビールはとても美しく加工もしやすいためアクセサリーに多用されているが中でもアジベイル領で採れるルビールは濃すぎず薄すぎず、ムラもなく人の肌に映える宝石として有名だ。
歴代の王妃様がつける宝飾品としても有名だし、その色に近いルビールを手にすれば幸福がもたらされる、と言われている。
王家が扱う宝石を盗んだらどうなるか。そのくらいならあんたも知ってるだろう?」
「そ、そんな…!でも、でも!アタシ知らなかったわ!何も知らなかったのよ?!だって宛名がないのだから誰が受け取っても同じじゃない!だからアタシがつけても……キャア!」
ガン!と馬車が倒れるかと思うほど思いきり蹴られ悲鳴をあげた。
「あんたが奪って身につけたアクセサリーはな、彼の方がチェルシー嬢に形でお礼をしたいからとわざわざご自分で選びトゥルーメル公爵に渡したものなんだよ。
それをあんたはチェルシー嬢からかすめ取り穢した。彼の方の気持ちを踏みにじったんだ!」
馬車に足をかけ、入ろうとしてくるコネットにアタシは恐怖を抱いて端まで逃げた。
「やっぱ、さっきの従者に渡せば良かったな。上の命令だから仕方ないけど」
死ねば良かったのに。そう聞こえて体に氷が刺さったように冷たくなった。なんで?アタシがコネットに何をしたっていうの?
ガタガタと泣きながら震えているとコネットは溜め息を吐き、かけていた足を下ろした。
「今日は助かっても次はどうだろうな?」
「なに?何を言ってるの……?」
訳がわからない言葉に思わず聞き返した。
「あんたは敵を作りすぎた。今助かってるのは上の方々の気まぐれにしか過ぎない。こう言ってもあんたには通じないんだろうけど」
「敵って何?!どういうこと?!」
ドロシーの問いには答えず、コネットは壊れてしまいそうなくらい大きな音を立てるように思いきりドアを閉めた。
読んでいただきありがとうございます。
蛇足(
コネット
王妃側の従者




