12. パーティーでもお姫様…じゃない? ※過去
『待ってボイル様!どこに行くの?』
『ごめんドロシー。僕達は三回も踊ってしまったようだ。これ以上は醜聞になるからやめておいた方がいい』
本当に申し訳なさそうに去っていくボイルにアタシは頬を膨らませた。なんでアタシよりもあのおばさんを支えてるの?そのおばさんは誰なのよ?
『アタシは未来の王妃様なのに……三回踊ったくらいなんなのよ。もっと踊りたかったのに』
文句を言ってもボイルはもういないので仕方ないから近くにいた格好いい令息に声をかけた。が、隣にいた令嬢が睨んできたので泣いたフリをして距離を取った。
近くの紳士に『あの方、アタシを睨むんです。怖いわ』と肩を震わせたが紳士は笑みを浮かべたまま何も言ってくれない。
なんで誰も答えてくれないの?と薄気味悪い気持ちになって辺りを見回せば学園で仲良くなった伯爵令息を見つけたので声をかけた。
彼にも婚約者がいるが可愛げがなくて嫌いだと言っていた。ふらりと目眩がした演技をして彼に抱きつくと、令息は鼻の下をこれでもかと伸ばした。
アタシの胸は触りたくなるほど柔らかくて大きいの。胸を押し付けるようにお願いしたらダンスの申し出を受けてくれたわ。
なのにどこからともなく彼の父親?がやって来てあろうことか息子を殴りつけた。
『馬鹿者が!貴様を嵌める手段だとなぜ気づかない!目眩がするほど具合の悪い令嬢がダンスをねだるわけないだろうが!!』
そんな駆け引きはよくある話なのに、伯爵はわざと言葉にすると息子の首根っこを掴んで人混みの中へと消えていった。
残されたドロシーはポカンとするしかなく、周りも気まずそうにドロシーから距離を取った。
つまらないから今日はもう帰ろうかな、と思っていたら品のいい口髭を生やした紳士のおじ様が声をかけてきた。
『アタシと踊りたいの?でもごめんなさい。今日はもうそういう気分じゃないの』
見た目はそこそこだけど年上過ぎるのよね。他を当たってちょうだい、と手を振れば周りから悲鳴があがった。
無礼だぞ!と青い顔で言う人達にもしかして偉い人?ともう一度紳士を見上げた。さっき見た王家の人達ではないからわからない。
だったらどうでもいいわね。と思いつつ「ごめんなさい。嫌なことがあってイラついていたの」と涙を貯めた目で紳士を見上げた。
両手を胸にあててわざとではないんです、どうか見逃してほしいと目で訴えたら『そうか。それは災難だったね』とあっさり許してもらえた。
やっぱりアタシの美貌と演技力はすごいわ。
『君は確か先程ボイル王子殿下と踊っていたね?失礼だがどういったご関係なのかな?』
『ボイル様とは結婚を約束した……じゃなかった、とっても仲のいい友人なんです!』
いけないいけない。つい本当のことを言うところだったわ。
『ほう。ファーストダンスを踊った上に三回踊るほど仲のいい友人なんだね』
『ええ、そうですわ!』
さっきから三回、三回ってなんで回数を気にするのかしら?あ、でもファーストダンスは婚約者と踊るものなんだっけ?
なら問題ないわね。アタシはボイルと結婚するんだもの。
『だが、ボイル王子殿下にはパズラヴィア侯爵令嬢という婚約者がいたはずだが、そのことは知っているのかな?』
『……ええ。デイリーン様にたくさん嫌がらせをされたんです。だからアタシ、怖くて怖くて……』
なんでデイリーンの名前を聞かなきゃならないの?その話は嫌!という不機嫌な態度で返せば、どんなことをされたか教えてほしいとか言ってきたので大まかに教えてあげた。
忘れちゃった嘘もあったけどどうせわからないしいいわよね?
『フム。そんなことがあったのか。このことは教師や学園長に報告したのかな?』
『?ボイル様に言いました。ボイル様はアタシのために何とかしてくれるって言ってくれましたから』
『そうか。そこの君、学園長を呼んでくれるかい?』
早く帰りたいわ、と髪を弄りながら話していたら紳士がいきなり学園長を呼ぼうとして焦った。
まさか嘘かどうか確認するつもり?!バレたら大変だわ、と慌てたが紳士は学園長にドロシーへのいじめがあったか確認するようにと告げただけだった。
そのことにホッとすると紳士は別の従者を連れてきて彼について行き嫌がらせをしてきた令嬢の名前を報告しろって言うの。
そんなの面倒臭いからここで言うわって言ったら彼女達の名誉に傷がつくかもしれないから控えてほしいですって。
未来の王妃であるアタシにケンカを売ったんだからそんな安っぽい名誉くらい傷ついても構わないじゃない。
そう思って言おうとしたらお母様が慌ててやって来てアタシの口を塞ぎ紳士に向かってお辞儀をした。
すごく丁寧な自己紹介をするとお母様は『娘が、何か失礼なことをしましたでしょうか?』と震えながら聞くの。
なんでそんな怖がってるの?紳士のおじ様はずっとニコニコしてるのに。
『ご息女がボイル王子殿下と親しく見えたので話を聞いていただけですよ』
『この方がアタシをいじめていた人達を捕まえてくれるんですって!』
ね?と同意を求めたら紳士は『確認するよう学園長に助言しただけですよ』と淡々と答えた。
てっきり悪女デイリーン達を捕まえてくれるものだと思って期待してたのにつまらないの、と口を尖らせればお母様は恐縮して紳士にお礼を述べた。デイリーンをぎゃふんと言わせてないのにお礼を言うなんて早すぎるわ。
『あなたのご息女は随分と奔放なようだ。今年でおいくつかな?…その年で婚約者がいると知りながら、王子殿下とファーストダンスどころか三回も踊るとは……ゴゴホット男爵家では何を教えてきたのかな?』
『それは、その……』
『それにだ。君はなぜチェルシー嬢に贈られたドレスやアクセサリーを身につけているのかな?
今身につけているすべてチェルシー・ポッドホット嬢に贈られたものだ』
ざわりと周りの空気が重く冷たくなった。お母様が驚きアタシを見て顔を青くする。
『し、知らないわ!これはボイル様……と、とても高貴な方からアタシに贈られたものよ!勘違いしてるんじゃないですか?!』
『そのドレスは私の妻とチェルシー嬢に贈った二着しか存在していない。
その水色の生地は私の領の名産品でね。光沢がとても綺麗だろう?所々に白い糸を混ぜる案は私の妻が考えたことなんだ。そしてその刺繍も私の妻が贔屓にしている針子の力作なんだよ。
そのアクセサリーの石もアジベイル領で採れたものだ。細工は私が出資している工房の仕上げだけどね………それをなぜ男爵家である君が身に付けている?』
柔和で優しい紳士かと思ったらいきなり冷たくてトゲがある言葉でアタシを責めた。そんなの知るわけない。
これはボイルが贈ってくれたものよ!そのはずだわ!と叫んでも紳士は引いてくれない。
確認したのか?と聞かれて答えに戸惑ったけど『そうよ!』と叫んだ。
『このドレスはボイル様がアタシのために贈ってくださったのよ!』
だってアタシの家に届いたのよ?アタシが着て何が悪いの?!チェルシーにあてたものならそう書けばいいじゃない!そうすれば着たりしなかったわ!!
だけど悪いことをしたわけでもないのになぜか怖くなってたたらを踏んだ。
『それに!それにアタシに贈られたものだってお義母様が言ってたもの……っ宛名だってなかったわ!』
『そ、そうです!宛名も差出人もありませんでしたわ!メッセージカードには〝誕生日おめでとう〟ってあったくらいで……』
お母様の援護に笑みを浮かべたがメッセージカードなんて知らなかった。でもそれを言った後何かに気づいたようにお母様の顔色が白くなって黙り込んだ。
『それにっチェ、チェルシーが〝こんなダサいのいらない〟って捨てたからアタシが可哀想だと思って着てあげたのよ!』
そんなこと一言も言っていないけど悪者になりたくなかったアタシは必死にチェルシーが悪いんだと訴えた。
あの子はもらわれっ子で血が繋がってなくて、両親にすごく嫌われてて、勉強嫌いで成績も最悪。みんなの気を引こうと王女様と一緒に誘拐されたなんて嘘をつく悪い子なんだって紳士に訴えた。
ここまで言えば社交界にチェルシーの悪評が広まって夜会に出れなくなる。そうしたらたとえこのドレスがあの紳士の贈り物でも正真正銘アタシのものになる。
チェルシーなんかよりアタシの方が似合っているんだからアタシが着るべきドレスなのよ!と胸を張ると、紳士は不機嫌とわかるような溜め息を吐いた。
『ポッドホット伯爵家には娘は一人しかいない。それはチェルシー嬢だ。なのに君は我が物顔で伯爵家に住みチェルシー嬢に与えられたものを奪っている。そういうことだね?』
まるでアタシが盗んだかのような言い掛かりにショックを受けた。なんでそうなるの?アタシはチェルシーのものを奪ってなんかいないわ!
むしろアタシのお下がりをあげてるのよ?!それを感謝してほしいくらいだわ!
『違う!違う違う違う違う!!アタシは盗んでなんかない!
お義母様が〝チェルシーなんかよりドロシーの方がきっと似合うわ〟って言ったからこのドレスもアクセサリーも身につけたのよ?!こんなに似合ってるのになんで盗まなきゃならないのよ?!』
アタシのせいじゃない!!って叫んだら大勢の人が振り返ってアタシ達を見てきたけど、アタシは追い詰めてくるこの紳士しか見えなかった。
『その腰回り部分が入らなくて布を付け足しているね?素人に直させたんだろう。デザインが崩れているしチェルシー嬢はもっと細いと聞いている。
成長分も考えて多少大きめに作っているはずだがその胸周り……大きく切り取り過ぎではないかね?
他人の君ではそもそもの体型が違うようだ。折角のデザインがひどい有り様だ』
なんで知ってるの?!いくら食べても太らないけどガリガリで寸胴なチェルシーと比べてアタシは胸もお尻も大きいからその分お腹周りもそれなりにお肉がついていた。
コルセットで締めてもチェルシーの細さには届かない。
カァッと真っ赤になったドロシーは赴くままに紳士に指をさした。
『あ、あああなた失礼よ!何様なの?!』
『私かい?私はザルトリウス・トゥルーメル。知らないだろうからわかりやすく付け加えておこう。トゥルーメル公爵家の当主だ』
『え?こう、しゃく?』
あれ?どこかで聞いたことがあるような?こうしゃくって伯爵よりも偉いんだっけ?
『……あの娘は何を考えているんだ。公爵様を先に名乗らせたぞ』
『指をさすなんて無礼な……警備に連絡した方がよろしいのではなくて?』
ザワザワと騒がしくなったかと思えばそんな言葉が聞こえて動揺する。そうか。こうしゃくは伯爵よりも上なんだ。
そう理解したけど謝ることはしなかった。謝れば自分の嘘も認めたことになる。代わりにお母様が平伏して謝るのでドロシーは背を向け逃げ出した。
読んでいただきありがとうございます。
蛇足(
ザルトリウス・トゥルーメル
公爵家当主。口髭がチャームポイント
奥さん社交界の女王
息子王女様の婚約者
学園を管理。ポストは理事




