31 鳳凰暦2020年8月21日 金曜日 国立ヨモツ大学附属高等学校1年職員室(2)
「この方針は……次の入試でも? そのままですか? あえて、弱い生徒を?」
「校長としてはそのつもりらしい。特に、スポーツテストの結果がよくない者から選ぶつもりだと聞いとるよ。もちろん……あくまでも合格者の中から、だが」
「自分こそは特進にふさわしい! なんて思ってる能力の高いヤツが真っ先に落ちるのか……それはそれでメンタルが歪みそうですね……」
「まあ、そういう可能性はあるが……仕方なかろう」
おそらく、特進の子たちの結果を見れば、そこは黙るだろう。
実際、高千穂たちに他の生徒は何も言えない状態になっとるんだ。その予想は間違いなかろう。
これについては……冒険心の強いトップランカーではなく、豚ダンでの安定した稼ぎに満足するアタッカーにとどめたいという面もある。
在学中はもちろんだが、卒業後の話でもある。
特進に入ればみなが鈴木のようになるというのはさすがに困る。
ああいう、ふたつもみっつも抜け出した存在は……10年とか100年にひとりでいい。
そのあたりについては、校長とわしの感覚は近いのかもしれん。
可能な限り、堅実そうな人材を……特進コースに割り振る。
そうすることで、世界に飛び出そうとするヘッドライナーではなく、堅実なベースアタッカーを卒業生として送り出す。
豚ダンの1層……7層格を基本的な稼ぎの場とするのなら、換金額そのものはそこまで犬ダンの5層との差は出ないはずだ。
犬ダンの場合、途中の4層格や3層格の分の魔石の換金額も加わるからな。
ただしそれはあくまでも卒業後の話だ。
その代わり、時間的な効率はいいのが特進コースということになる。
在学中の、平日の放課後での稼ぎという点では段違いになる。
これは卒業後も同じで……そうやって生まれる時間を使って自分の人生を豊かにすればいいのだ。
ワークライフバランスはヨモ大附属ダン科の教育におけるキーワードでもある。
……政府も、世界でトップを競うようなアタッカーをたくさん増やそうなどとは考えておらんだろう。そういうアタッカーもいてほしいが、多くはいらないというのが本音で間違いない。
「まあ、他にも狙いがあるようですから……」
「そうだな。そっちの方が重要かもしれん。わしらにとっては、な」
わしらというより、校長にとっては、か。
もちろん、わしらもいろいろと面倒に巻き込まれるのは間違いない。
校長としては……アタッカーのランキングに載る『SECRET』の高校生をとにかく増やしたいのだろう。
換金時に差し引かれる小鬼ダンの50%の吸い上げとは違って、特進コースでの40%については月末計算での翌月吸い上げ……鈴木たちが実際にあいつらのクランでやってるのと同じやり方にしとる。
そうすることでできるだけ換金額が多く見えるように、だ。成績にも関係してくるからこの方法が正しいだろう。
……高校生にトップランカーがいるという話題を、ランキングに載ってる高校生の人数が多いという騒ぎに持ち込もうという考え、か。
木を隠すなら森の中、というものかもしれん。
ある程度はうまくいくだろうが、あまりにも抜け出た最上位の鈴木は……。
まあ、最上位の生徒が誰かをマスコミなどの外部の者が特定するのに、複数の人間が候補として存在しているという意味なら現状よりはマシともいえるか。
話題そのものは現状よりも注目をあびるかもしれんが……鈴木自身も、毎日、あの時のように稼いどる訳ではないしな。
……あの一週間は特別に時間をかけたということだろう。
全力を出せばあそこまで届くが、いつもいつも全力とはいかない訳だ。
鈴木の立場なら、クランメンバーの世話の時間もあるだろう。
いつも全力で稼げる訳ではない。
ただ……それだけ、鈴木にとっては武闘会の予選が面倒だったのかと思うと複雑な気持ちではある。
この学校にとって武闘会は最高の見せ場だというのに……。
さっき確認したが、今日は平坂第4ダンジョン――通称『森ダンジョン』に入っとる。他のメンバーも一緒に、だ。
野営申請も済ませとるから、明日も引き続き入るんだろう。
あそこはあまり稼げるようなところじゃないと聞いとる。
どちらかといえば不人気なダンジョンで、年に数回、ギルドから間引き依頼がどこかのクランに出るらしい。
……森ダンジョンへ挑む目的が何かは知らんが、鈴木たちが稼ぎすぎないというのはありがたい。
鈴木本人はおそらくランキングに載るかどうかなど、全く気にしていないんだろうが……こっちとしては、なぁ……。
さすがに校門の中まで不法侵入するようなマスコミはいないと思いたい。
どちらかといえば……鈴木が学年トップだと知ってる他の生徒の口をどうやってふさぐのか、の方が問題だろう。
……鈴木を恨んどる連中もいるから、まあ、無理だろうな。どこかで漏れる。
せいぜい、アンケートで個人情報漏洩の事実確認ができたらダン禁の罰を与えるくらいか。
残念ながらそのアンケートも……仲間で口裏を合わせてしまえばまともに機能はせんだろうし。
学校というのは本当に……何の力ももっとらんな……。
まだ夏なのに冬のことまで考えなきゃならんとは……どこかでわしも愚痴を言いたくなる。
「……岩崎先生。どうかね、今夜、一杯?」
「あー、そうですね。来週から始まるんで、今夜くらいは英気を養いますか」
わしと岩崎先生はそう言いながら、互いに苦笑を浮かべるのだった。




