28 鳳凰暦2020年8月20日 木曜日夜 鈴木家(2)
『……それにしても、『魔塔』のボス戦でそんなにマジックスキルスクロールって落ちるのか? 入ったことがないから感覚が分からんな?』
「さあ、どうなんでしょうね? 僕はそもそも、どのくらい落ちるのかって部分が分からないので」
『そりゃそうか……』
「あ、でも、1層のボス部屋前は渋滞してましたけど……」
『そういう話は聞いたことがある。1層ボスからスキルスクロールが落ちるまで周回して稼ぐって話だろ? 地獄ダンの奥にずっとこもるよりは簡単って話だな。ただし、運に左右されるんだが』
ああ、築地さんもそこは知ってるのか。
やっぱり先輩お姉さまよりもいろいろとくわしいよな。
平安の中央本部の人で経験年数もずっと長いから、先輩お姉さまよりくわしいのは当然だけど。
「……ちなみに、平坂家だと、ギルドオークションの落札価格なんかは把握してるものですか?」
『まあ、平坂家がその気になったら……ギルドの持ってる情報のほとんどは手に入るだろうよ。あと、自分たちで落札したデータは当然、管理してるだろうな。落札できなかったものも含めて、だ』
「なるほど……」
さすが、というべきか。当然、と思うべきか。
ギルドの情報は……平坂家がその気になったら奪えるのか……。
もちろん、ギルドだって流せない情報ってものはあるんだろうけど。
三大ダンジョン旧家という力は僕の想像以上かもしれない。
三大ダンジョン旧家がギルドにダンジョン管理を委託しないと、ギルドはまともに運営できないだろうし。上下関係は明らかだ。
……ゲーム的設定とすれば、って考え方では判断できない部分だな。
そもそも平坂家とかが絡むゲームイベントはなかったか……あったとしても僕のDW引退後だ。掲示板とかで見た記憶も……ないよな?
『これは余計なお世話かもしれんが……』
「……なんです?」
『平坂家に狙われたら、ヨモ大とか、ギルドとかと違って、なめてかかってはこないぞ、たぶん。相手が高校生でも、だ』
「ふうん……そうですか。何か、ありましたか?」
ヨモ大とギルドを平坂家の比較対象にするって……築地さんは僕をなめてたって話になるけど? あと、小鬼ダンで僕が担任を焼いた話も知ってるのか……。
まあ、確かに……なめられてたのは間違いないか。
それで問題なかったから気にしてなかった。僕は損してない訳だし。
『平坂家がおまえの情報を中央本部まで調べにきた。わざわざ平安まで、な。しかもHSホールディングスのそこそこの役職者で、おそらく何かのスキル持ちだな。高校生相手にそこまでやるのが平坂家ってことだ』
「……HSホールディングス? HS鉱業ではなくて?」
『そうだ。なんだ、取引の相手はHS鉱業か? グループ全体で平坂家の方は動いてるみたいだぞ?』
……さすがにびっくりした。
平坂家が僕のことを調べたのか? わざわざギルドの中央本部まで行って?
HS鉱業じゃなくてグループ本丸のHSホールディングスから?
たまたま必要なスキル持ちがそっちにしかいないって話か?
それとも、平坂家が本気というのは築地さんの予想通りなのか? 高校生相手にそこまでするっていうのはどうなんだ?
いや、それ……。
まさかと思うけど、平坂さんの相手にふさわしいかどうかって話で調べたんじゃないよな?
あのお祖父さんの様子だと、その可能性も否定できないのが怖い。
孫娘を大事にしてたのは間違いない。
でも、そのためにこういう権力を振り回すもんかな? そういうタイプとも思えるし、そうじゃない気もするし……。
『まあ、気をつけろよ、鈴木』
「そうですね。気をつけます」
無法地帯のダンジョンで平坂家が本気になったら、さすがにいろいろと厳しいかもしれない。
僕と岡山さんはともかく……他のクランメンバーはまだ、圧倒的とまでは言えないからな。
地獄ダンの12層格を相手にしてるから、簡単に負けることはないはずだけど。
前の犬ダンでのお手本である程度、こっちの力を予想してるとしたらまだ甘く見てるだろうとは思うけど……。
どこかでもっと……敵対するのはマズいと思わせるべきだろうか……?
……難しい判断だな、それは。
力を見せる加減がよく分からない。
見せすぎても警戒されるし、もっと狙われるということも考えられる。
『それより、そっちに行ってる桜の様子は?』
「ああ、桜ちゃんなら……今はぐっすり寝てるんじゃないかな? 今日は午後から奈津美と一緒にプールへ連れて行ったので疲れてるだろうし」
『プール⁉ 鈴木、おまえ……ウチの桜に何かしたら……』
「小学生相手に何かある訳ないでしょう……」
『いや、ウチの桜は将来絶対に美人になるからな! おまえがどんなに稼いだとしても桜を嫁にはやらんぞ!』
「親バカだ……切りますよ。それじゃ」
『あ、おい、鈴……』
僕は親バカの相手をしてるヒマはない。
……ていうか、プールの話をすると岡山さんの水着姿が頭に浮かぶからな。健全な高校生男子の身体って本当にダメだ。
桜ちゃんが泊まり始めた時は、母さんが岡山さんのふとんを僕の部屋に用意しようとしたし……。
家族全部が一体となって僕の心の城を攻め落とそうとしてる気がする。
いや、父さんはそこまでじゃないか。
でも、この前の契約の時に来た岡山さんのお母さんまでそっち側だったし。いいのか、それで?
娘の気持ちは考えてな……い訳でもないのか。まあ、一度、大好きだと言われたんだけど。あの時、岡山さんのお母さんも現場にいたよな……。
……何か、真剣な対策を考えないとな。僕の心がもたない。
僕はスパイ用スマホに充電用コードをさしながら、そんなことを考えていたのだった。




