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「良い所にいたな、ジェナン! ライラ! 」 


 本部の玄関の豪華すぎるエレベータが開いて現れたのはシンだった。隣の伊藤は頭をかきながら一礼するとそのまま本部の外へと駆け出して言った。


「しばらくここで世話になることになった。それなりに挨拶は済ませておけよ 」 


 そう言ってシンは二人を置いてハンガーへ向かおうとしていた。


「ちょっと待ってください! どう言うことですか! 」 


 驚きの表情でライラは駆け出そうとするシンをつかみとめた。


「聞いてなかったのか? 俺達はしばらく嵯峨惟基中佐貴下での作戦行動を行う 」 


「しかし、それでは…… 」 


 ジェナンの言葉に、シンはにっこりと笑って答えようとする。


「西部から西モスレム経由なら帰還は出来るだろうが、この難民や近代戦も知らないゲリラ達を見捨てるわけにはいかないだろ? 」 


 微笑みながらも、シンの目は少しも笑ってはいなかった。


「わかったよ。私はそれで良いわ。ジェナンはどうなの? 」 


 ライラの一言はクリスとジェナンを驚かせた。


「本当にいいのか? 父親の仇なんだろ? 」 


「今するべきことがある。そうじゃないの? 」 


 ライラはまぶたを涙で腫らしてはいるが、きっぱりとそう言い切った。


「嵯峨中佐を闇討ちするつもりじゃないだろうな? 」 


 意外な決断をしたライラをシンは心配そうに見つめた。


「そんなことはしませんよ。でも、あの男が何をするのか見たいんです 」


 ライラは沿う言い切ると、嵯峨の消えた野戦病院を見た。


「もし、それが父上の死を無駄にするようなことになったら……寝首ぐらい掻くかもしないけど 」 


 そうしてライラは無理をして微笑むとゲリラ達が北兼軍に志願する為に並んでいる列を押しのけて格納庫へ走り出した。


「女は強いですねえ 」 


 そう言うとシンは腰の雑嚢からタバコを取り出す。そしてジェナンの方を一瞥した後、いつものように何も無いタバコの先に火が灯った。


「僕が見てきます! 」 


 そう言い残してジェナンは格納庫の前の人垣に消えた。


「しかし、嵯峨と言う人物。一体何を考えているのやら…… 」 


 独り言のようにシンはつぶやいた。クリスはその表情の少ない顔を覗き見た。


「確かに。私もこの数日取材をしてわかったことは、彼は私のような凡人には想像も出来ない人物だということですよ 」 


「そうは言っていませんよ。確かに今の状況を作り出した采配には敬意を表しますよ、揚げ足取りなんていうことは戦場では当たり前の出来事ですから 」 


 そう言い切る若いイスラム教徒の将校を見つめるクリス。その男が思った以上に思慮深い性格だとわかって好意を持って彼の話に聞きいる。


「だが、彼は何のためらいも無く悪名を浴びてでも自分の、いや所属する陣営の優位な状況を作り出す。正義を語り、大義を説いて人を惹きつけるのは容易いことですよ。人間には美名のために死ぬことを喜ぶ連中はいくらでもいますから。しかし、彼は美辞麗句を用いずにこれだけの兵力を集めた。王家の威光などもう何の役にも立たないことを知っているはずの彼に何故…… 」 


「君子豹変す、そんなところではないですか? 」 


 そう後ろから声をかけてきたのは伊藤だった。


「伊藤さん、驚いたじゃないですか 」 


「すいません、ホプキンスさん。まあ、俺も初めてダワイラ博士を案内してあの人に引き合わせたときは同じように思いましたよ。あの人は迷いを見せない。迷っていると見えるときは、大体そう見せた方が得な時くらいのものでね 」 


 格納庫前の広場に白いアサルト・モジュール『クロームナイト 』が着陸した。ゲリラ達は歓声を上げ、そこから降りる少女と熊をまるで救世主に出会ったように歓迎している。


「たぶんここまではすべてが隊長の筋書きの上で進んでいるんでしょう。だが、もう一人の脚本家が出てきたときにどうなるか…… 」 


 伊藤の面差しに影が差した。


「吉田俊平少佐ですか? 」 


 クリスの言葉にシンがはっとなり伊藤を見つめた。


「この状況だ。共和軍のエスコバル大佐は間違いなくバレンシア機関を動員して北兼台地への侵攻を阻止にかかるでしょうね。そして、その為に自分の手を切ることになるかもしれない刀を手にする可能性は無いとは言えない 」 


 『バレンシア機関 』と言う名前にクリスははっとした。遼南共和国政府に対する12度の人権問題抗議議案がフランスの提唱で地球の国連に定義され、そのたびにアメリカの拒否権で抗議は実現してはいないものの、そのうち5つの大量虐殺容疑で知られる非正規特殊部隊。ある意味共和軍の切り札と言える部隊の投入は北兼南部6県確保にどれだけの関心を共和政府が示していると言う証拠にもなり、クリスは興味を持った。

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