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ラーラの書




 ローワンは肩をすくめた。


「君は確かに死んでいる。死者の匂いがぷんぷんしているからな」


 アニスはそれを聞いて、目を見開いた。


(わたし死んだの? 嘘でしょ)


 自分の両手を見て、それから髪の毛、顔、全身を確かめた。

 そして、ほっと息をついた。


(いいえ、あなたは嘘をついている。わたしは生きているわ)


 ラベンダーは、彼女がかわいそうだと思った。


「ローワン、アニスを傷つけないで」

「アニス?」

「ええ、彼女はアニスと言う名前だそうよ」

「魔法使いだな」


 アニスが頷いた。


 アニスは何が何でも自分は死んでいないと言い張った。


「魔法使いらしい言い分だ。死んでもなお、まだ力があると思ってやがる」


 ローワンの汚い言葉に、アニスが目を剥いた。


(なんて口の悪い妖精なの。わたしは生きているの。お願いがあります。わたしを肉体へ戻す手助けをしてください)

「いいわ」


 ラベンダーは、誰かの役に立ちたかった。


 優しくアニスに手を伸ばすと、ローワンがそれを遮った。


「俺の妻に触ってはならない」


 ラベンダーはむっとした。


「あなたの物じゃないの」

「いいや、俺の物だ」


 ひどい言い草だ。


 また、ケンカが始まりそうになって、アニスは慌てた。


(いいわ、触らない。わたしは穢れているみたい。それもこれも黒い魔女のせいなの。話せば長くなるんだけど…)


 アニスの話をローワンは断った。


「聞く必要などない。行くぞ、ラベンダー」


 ローワンはラベンダーの腰をさらうと、顔をしかめた。


「痩せすぎだと何度言ったか、もう数え切れん」

「離してっ」


 暴れるラベンダーを所有物のように扱い、ローワンが飛び立とうとする。


 アニスは焦った。


(待って、お願いです。わたしは、パースレイン王国の姫です。兄のノアが殺され、暗黒の世界が開いてしまった。世界が滅びる鍵を奪われたのです。わたしは双子の妹なの。わたしは剣で殺されかけたけど、なぜか、生きている。何か意味があると思うの。お願いよ、妖精の女王様、わたしを助けて欲しいの)


 ラベンダーは、パースレイン王国という言葉をどこかで聞いたことがある気がしていた。


「ラーラの書だ…」


 ローワンが呟いた。


 ラーラの書とは、預言者ラーラが書いた預言の書だ。


 ローワンはいつの間にかラベンダーを解放し、考える顔をしていた。


「まずは君を浄化して話を聞こう」


 浄化はラベンダーの得意とする魔法だ。


 ポケットからラベンダーのサシェを取り出す。手のひらに花のかけらを乗せるとそれをこすり合わせた。サラサラの粉になると、アニスに吹きかけた。


 薄紫のラベンダーのいい匂いに囲まれて、アニスが目を閉じた。


(とても、気持ちがいいわ)


 アニスのうっとりした顔に満足して、ラベンダーがにっこり笑う。


 アニスはみるみるうちに浄化され、白く輝き、力が湧いてくる気がした。


(何をしたの?)

「何も」


 ラベンダーも戸惑っている。

 アニスの姿は、髪の毛は白に近い金色になり、肌もいっそう白くまばゆい。


 ラベンダーが手を伸ばし、彼女の手を包み込んだ。


(ああ、ほっとするわ)


 アニスが息をついた。ラベンダーの肩に頬を乗せて、目を閉じた。


(少し、疲れたの)

「ええ、そうだろうと思ったわ」


 アニスの髪を優しく撫でてあげると、アニスがすうっと寝息を立てた。


「早く城へ戻りましょ」


 ローワンに言うと、彼はしぶしぶ頷いた。




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