戦い
ナーダスが魔法円を組んでいる間、アニスは魔法でジョーンズの傷を治そうとした。しかし、傷は深く強力なハーブが欲しかった。
「アニス…?」
ジョーンズの意識が戻った。アニスは、彼の手を握りしめた。
「わたしはここよ」
涙があふれる。
「ジョーンズ、死なないで」
「タンジーはどこだい? 彼女が危険な目にあっている…」
「ごめんなさい、ジョーンズ、あなたを巻き込んでしまって、後悔しているわ」
「アニスっ」
ナーダスが叫んだ。
「油断するな、いつまた襲ってくるか分からないぞ」
「ええ」
アニスは涙を拭いた。今はそんなことを言っている場合じゃない。
憎まれてもいい、ジョーンズだけは助けなくては。
「奴がくる」
いつの間にか、フェンネルが魔法円の中に入っていた。
「鍵を安全な場所へと思ったが、魔女の力は思った以上に強い。それも、この男の魔力を全て奪われたせいだ」
ジョーンズは、かろうじて起き上がれるまで回復していた。
ジョーンズは何者なの?
アニスは、ジョーンズを支えながら、彼の横顔を見つめた。
その時、生温かい風が吹いて来た。フェンネルが身構える。
お師匠さまのこんな姿は初めて見た。
アニスは身を引き締め、ジョーンズを守るようにかばった。
「右だ」
稲妻のような鋭い攻撃が魔法円に襲いかかる。杖で攻防していたナーダスの腕から血が吹き出した。
「ナーダスっ」
「僕は大丈夫だ」
そういう間に、どこからか黒い巨大な狼が現れて、魔法円を取り囲んだ。
フェンネルが目を閉じて、呪文を唱える。狼は一匹ずつ失神したが、フェンネルも苦しそうだ。
ジョーンズが目を見開き、アニスを見つめた。
「タンジーを…助けなきゃ」
「ジョーンズ、タンジーはもういないのよ」
「嘘だっ」
ジョーンズが、突然、アニスの体を突き放した。
「君は、タンジーを憎んでいたな」
「それは…」
「タンジーは思いやりのある娘だった。君のことも心配していたのに…」
「ジョーンズ、お願いっ、話を聞いてっ」
「集中するのだ、アニス」
フェンネルが叱咤する。その時、あたり一体に霧が出てきた。何も見えなくなる。
アニスが顔を上げると空からメランポードが現れて、魔法円を突き破って中に飛び込んできた。魔女の手には鋭い短剣が握られている。
「ジョーンズっ」
アニスは、ジョーンズをかばって腕を切られた。
「アニスっ」
ジョーンズが叫んだ。
魔法円が破られ、ナーダスが意識を失う。
アニスは腕をかばい、ジョーンズに笑いかけた。
「わたしは大丈夫よ」
ジョーンズは唇を噛みしめていたが、振り向くとアニスから離れて走り出した。
「ジョーンズっ」
アニスは悲鳴を上げた。
「待って」
アニスは後を追いかけた。ジョーンズは、メランポードへと向かっていく。
魔法円を突破してきたメランポードは、フェンネルの持つ鍵を奪おうとしていた。フェンネルは攻防しようと、彼の杖が剣へと変化した。
メランポードに飛びかかり、彼女は落ちていた石を盾に変化させて、木を引きよせた。木はたちまち尖った剣に変わる。
激しい打ち合いが始まる。
「助太刀するっ」
その時、森の中から狼にまたがったフランキンが現れ、彼も杖をメランポードに向けた。
フランキンの攻撃で、メランポードの体が吹き飛ばされる。しかし、彼女は怒り狂い、吹き飛ばされざまにフェンネルに切りつけた。
「お師匠さまっ」
フェンネルの手から落ちた鍵をジョーンズが拾った。
メランポードは、タンジーへと変身してジョーンズに懇願した。
「ジョーンズ、鍵を返して」
ジョーンズが、動揺して立ち止る。そのすきに、変身前の姿でジョーンズに飛びつき、するりと鍵を奪った。
「タンジー…」
ジョーンズは茫然としていた。何が起きているのか彼にはよく理解できていないようだった。
「ノアを返してっ」
アニスが叫んだ。タンジーに飛びついて彼女の腕にしがみついた。鍵を奪おうと、タンジーの体に蔓を巻きつかせて、身動きが取れないように封じる。
「助けてっ、ジョーンズっ」
タンジーが叫ぶ。アニスはその口を手でふさぎ、鍵を奪った。
「やめろっ」
ジョーンズが、アニスの手をつかんだ。アニスは、ジョーンズの手を振りほどいた。
「離してっ」
アニスが鍵を持つと、鍵は光り輝き、ノアの姿が現れた。
「兄上っ」
ノアは人間の姿に戻るなり、がくりと膝をついた。




