強い魔力
アニスは目を覚ました。
エルダーが自分の頬にくっついて寝ていた。
「エルダー」
ぬくもりを感じて、アニスは彼女を抱きあげた。
「ありがとう。もう、大丈夫みたい」
マロウが効いたようだ。傷がふさがっている。
杖で支えながらゆっくりと起き上がった。この杖は手にしっくりくる。捨てるのは惜しいとそれを持って歩き始めた。
「宿の方角へ飛んでくれる?」
エルダーの後を追って森を出る。そんなに奥深くまで入ったわけではなさそうだった。額ににじむ汗を拭い、歩いて森を抜けた。
「助かったわ」
エルダーにお礼を言って、森の方へ振り向いた。
「マロウ、マロウよ、傷ついた森に、豊穣の力を分け与えよ」
マロウに呪文をかけて、吹きかける。
杖をトン、と叩くと森に向かって風が吹いた。マロウの魔法により、新芽が吹き始める。
「少し、アニスらしくなったかしら」
エルダーににこりと笑いかける。
「さ、行きましょう」
アニスは、夕べの雨でたまった水たまりを見て、映る自分の姿に驚いた。
「これはひどい…」
顔は血で汚れ、ドレスが焦げてドロドロだ。水でそっと顔を洗い、綺麗にした。
足元にダンデライオンが咲いていた。
「きれいな色」
杖を振ってみると、たんぽぽ色のシンプルな飾りけのないドレス姿の自分になる。
「上出来ね」
アニスは満足すると、宿へ向かいながら立ち止った。宿から馬に乗った男性が今すぐ走り出そうとしていた。
「ロイだわ」
アニスは駆け出した。
ロイのそばに追いつくと叫んだ。
「どこへ行くの? ジョーンズはどうしたの?」
「くそくらえだ」
ロイの顔つきは険しく言葉を吐き捨てると、馬の背を蹴って走りだした。
「ちょっと待って、ロイっ。待ってっ」
ロイはあっという間に見えなくなった。
「何があったの?」
エルダーを肩に乗せて、アニスは宿へ入ろうとした。
「アニス。君がアニスだね」
呼ばれて振り向くと、タンジーの兄、ナーダスが立っていた。打ちひしがれた顔をしている。
「どうしたの?」
ナーダスの手を優しく包むと、彼ははっと顔を上げた。
「白い魔女だったんだね」
「わたしはまだ、魔女見習いなの」
ナーダスは悲しい目をしていた。タンジーは彼の頬を優しく撫でた。
「本当にどうしたの?」
「妹を止めないと」
ナーダスは呟いた。
「え?」
「タンジーを止めないと大変なことになる」
アニスは胸騒ぎがした。ジョーンズの姿が見えない。
「ジョーンズは? さっき、ロイが馬でどこかへ行ってしまったの」
ナーダスは首を振った。
「僕にはわからない。だけど、危険が迫っている」
「危険…。ねえ、あなた、杖はどうしたの?」
「タンジーに壊された」
「そんな…」
アニスは驚いた。
アニスとタンジーにかけられた魔法を解いた魔術師の杖を壊すなんて。
彼の手には、割れたシトリンのかけらがあった。
アニスは深呼吸をして、ナーダスに優しく声をかけた。
「水晶はだめになった? この杖はどうかしら」
アニスが持っていた杖を差し出すと、シトリンが輝いた。
「あなたに譲るわ、わたしは必要ないから」
ナーダスが杖にシトリンをはめ込むと二つは共鳴した。
「使えそうだ」
ナーダスの目に輝きが戻る。
「よかったわ」
アニスは顔を引き締めた。
「強い魔力を感じるわ」
「妹だ。婚約者から力を奪っている」
「え?」




