二人の魔女見習い
医者に言われた通り、数日をおとなしく過ごした。
傷もほとんど癒えて、その間、大きな事件もなく穏やかだった。
ロビーで、ジョーンズがみんなに結婚する話をすると、マイケルやロイ、デニスは驚いたが、手を叩いて祝福してくれた。
ところが、アニスだけは口を手に当てて、タンジーを睨みつけた。それから大きく口を開けると、タンジーを罵った。
あまりに汚い言葉なので、その場にいたみんなが凍りついた。
タンジーは、アニスの口から聞きたくないセリフをたくさん聞いたので、卒倒しそうだった。
後でこっそりとロイが、
「タンジー、あのお姫様は裏路地で育ったのかな。ジョーンズは結婚を解消してよかったと俺は思う」
と、真剣な顔で告白してくれた。
タンジーでさえ、アニスとの結婚を踏みとどまってくれてありがたいと思った。
「それで、これからどうするんだい?」
マイケルがジョーンズに聞いた。
ジョーンズの隣に座っていたタンジーはそっと立ち上がり、アニスを見つめた。
アニスはどきりとした顔で、すぐに目を逸らした。
「その前にとても大事な話があるの。ミス・アニス」
アニスは声をかけられぎょっとした顔になった。
「な、何ですか?」
「そんなにおびえなくていいわ。実は、アニスはわたしと同じ魔女見習いなの」
「え?」
ジョーンズが目を丸くする。
「今まで黙っていてごめんなさい。これ以上隠しごとはやめたいと思って。ね、ミス・アニス」
アニスは、泣きそうな顔をしていた。
「あたしは確かに魔女見習いですよ。ですけどね、あなたみたいなすごい魔法は使えないんです」
アニスは言うなり、目の前にあるカップを魔法で持ち上げようとした。ところが、カップからカエルの足がにょきっと出て、ぴょんぴょんと飛び跳ねていった。
「あっ、ま、待ってよ」
アニスはイスを倒して飛び上がると、カップを手に持って悲鳴を上げた。
「あつっ、熱いっ、ちょっと、誰か助けてっ」
タンジーは呆気にとられていたが、すっと手を振りおろすとカップは元に戻った。
アニスが尊敬のまなざしでタンジーを見つめた。
「すごいね、あなた」
「…というわけで、アニスも一応、魔法が使えるの」
男性四人はぽかんと口を開けていたが、ジョーンズが一番、複雑な顔をしていた。
「それで、わたしが何を言いたいか。わたしはこれからお師匠さまを探しに行こうと思います。お師匠さまなら今後のことを教えてくださるはず」
「お師匠さま?」
ロイが首を傾げた。タンジーは頷いた。
「ジョーンズ」
タンジーは、ジョーンズの手を取り、みんなを見渡した。
「ジョーンズには話したのだけど、わたしと兄はある者から命を狙われています。目を奪われたのもそのせい。けれど、ジョーンズが一緒に戦ってくれると誓ってくれました」
「ああ」
ジョーンズが手を握り返してくれる。
「どこへでもついて行くよ」
「カッシアはどうする? 領地を誰が統治するんだ」
マイケルが真剣な表情で言った。
「弟のサザンウッドに頼みたい」
ジョーンズが頼むと、マイケルが唇を噛んだ。
「それは、俺に頼んでいるんだな」
「ああ」
「分かったよ…」
マイケルは頷き、ジョーンズは彼の肩を叩いた。
「弟はお前に任せた。カッシアを頼む」
「ああ」
「俺はジョーンズと一緒に行くよ」
ロイが当然のように答えた。そして、
「お前はマイケルと一緒に戻るんだ」
と、弟のデニスに言うと、デニスは、マイケルを守ると言った。
「おいおい、僕は一人でも大丈夫だ」
「お供させてください、マイケルさま」
「こいつ」
と、マイケルが、デニスを小突いた。みんなで笑ったが、アニスだけはおどおどとしていた。
「あたしはどうなるの?」
「あなたはわたしと一緒に来て欲しいの」
「嫌よ、あたしはあなたみたいな魔法を使えない」
「あなたは、わたしが守るわ」
タンジーがアニスの手を取る。アニスの手は柔らかで華奢だった。
「ミス・アニス、負けてはだめよ」
アニスは目を伏せた。長いまつげを震わせて涙をこぼした。
「あなたはよく泣くのね」
タンジーが優しく言うと、
「泣き虫だっていじめられたの」
と、鼻をぐずぐず言わせた。
「魔法を教えてくれる人はいなかったの?」
「兄が教えてくれたわ」
「お兄さんが…」
アニスは頷いた。
「兄は優秀な魔術師で、二十歳になるとすぐに村を出て行った。以来、兄とは連絡が取れないの」
「魔術師…」
タンジーは呟いた。




