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エゴイスト




 ケガをしているタンジーを抱き上げると、宿の方へ向かって歩き出した。

 タンジーは、ジョーンズの首にしがみついた。


「どうした? どこか痛むのかい?」

「いいえ」


 タンジーは首を振った。ジョーンズの優しさに泣きそうになる。


 どうして急に気持ちが変わったのだろう。


 アニスがいるのに。

 自分を選んだジョーンズの気持ちが分からなかった。


 宿に戻ると、マイケルたちが心配そうに待っていた。

 タンジーのケガを見て、ロイが駆け寄ってくる。


「何があった」

「タンジーが襲われた。目を奪った奴だ」

「目が戻っている……」


 デニスが目を丸くして、タンジーを見つめた。


「綺麗な目だ」

「それよりも、ケガの手当てをしなくては」


 宿に頼んで、すぐに医者を呼んだ。町の医者は、七十歳を過ぎた男で、タンジーの両肩を見て顔をしかめた。


「これは誰にやられたんだね?」


 タンジーが黙っていると、医者は呆れ顔で言った。


「言わないつもりかい?」

「わたしを傷つけた相手はもういません」

「ふむ」


 医者は手当をすると、医療道具をカバンにしまって立ちあがった。


「できるだけ動かないで、二、三日は休むように」

「先生、ありがとうございました」


 タンジーがお礼を言うと、医者と入れ替わりにジョーンズが部屋に入って来た。


「大丈夫かい?」


 手のひらを握りしめる。


「大丈夫よ」

「医者は二、三日休むように言っていた」

「ジョーンズ、話があるの」


 タンジーが言って、膝の上で両手を組んだ。


「怒らないで聞いて、ノアをわたしに返して」

「それはなぜだい?」


 ジョーンズの目は穏やかだった。タンジーは目を見ていられず、顔を伏せた。


「タンジー、顔を上げて。僕は平気だ。君は目を取り戻した。では、次に何をすればいい? 僕は離れないよ」


 タンジーは、がばっと顔を上げると、ジョーンズの頬を両手で包む込んだ。


「あなたを危険に巻き込みたくないの。ミモザはわたしの精霊だった。彼は黒い力に支配されていた。ミモザは、わたしよりずっと強い魔力を持っていたのに、彼でさえ太刀打ちできなかったのよ」

「タンジー、僕たちはこれまでずっと一緒に戦って来たんだよ」

「いいえ、あなたはわたしに巻き込まれただけ。ごめんなさい」


 ジョーンズの頬は温かく、滑らかな肌をしていた。

 頬をそっと撫でながら、彼を失いたくないと強く願った。


「アニスと結婚して、領土に戻って」

「タンジー」


 ジョーンズは、タンジーを黙らせるため、彼女を自分に引き寄せた。


「少し、黙って」


 タンジーはあまりに驚いて息を止めた。

 ジョーンズの心臓の音が体を通して聞こえる。彼の心音は穏やかで一定だった。


「もう、アニスの話をしないで欲しい。これから皆を呼んで、僕と君が結婚することを告げる。もし、それでも僕から離れるというのなら、危険を承知で領土に戻って式を挙げる。そして、二度と君をカッシアから出さない。僕は本気だ」


 タンジーはそれでも首を振った。


「では、君のケガが治ったら式をすぐに挙げる。ここに司祭を呼んで」

「ダメ、待って。お願いだから、ジョーンズ」


 タンジーは懇願した。


「僕が嫌いか? それほど憎いのか」

「違うって言ってるじゃない」


 タンジーの目が潤んで、涙がこぼれた。


 もし、二人が結婚をした後、アニスとして元の姿に戻れた場合、本物のタンジーに、ジョーンズを奪われるのが嫌だった。

 自分のエゴイストに吐き気を感じる。


「アニスと何か関係があるのか?」


 ジョーンズがためらったように言う。


「え?」


 タンジーは顔を上げた。


「いや、なんでもないんだ…」

「少しだけ待って欲しいの。いつか、全てを打ち明けられる日が来ると思う。だから、もう少しだけ待って」

「分かった。式を挙げるのは少し待つ。だが、僕の気持ちは変わらない。君は僕の妻になる人だよ。どんな姿をしていてもだ」


 薬指にキスをして誓ってくれる。アニスの姿なら何度も頷いて、今すぐ結婚するのにとタンジーは思った。





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