頑固
「では、全てを話してくれますね」
タンジーは不安でいっぱいだった。
大変なことになってしまった。ジョーンズの運命を変えてしまったのだ。わたしがいるから、迷惑をかけしまっている。
「タンジー、大丈夫だよ。心配しないで」
ジョーンズが手を握ってくる。タンジーは顔を上げられないでいた。
「味方ができて僕も安心している。本当はタンジーの魔法で逃げられないようにしたいところだが、ジョーンズ、君を信用するよ」
兄は、本気だ。
兄の口から何を語られるのだろう。もし、ジョーンズを死に追いやるようなことがあったら、わたしも後を追おうと、タンジーは思った。
「妹にも黙っていたが、僕は、数日前から悪夢に悩んでいた。僕には魔法の力はないものだから、真実を見抜けず、ある日、僕とタンジーは襲われたのだ」
「敵は?」
「敵は、黒い力を持つ者たちだ。悪夢では、冥界の神たちが扉を開けて、我々の世界へ侵入すると、やがて、世界は滅びるというものだ」
「冥界…」
「その扉の鍵が僕だ」
「あなたが?」
ジョーンズが驚いている。タンジーだって、話を聞いた時は、愕然としたものだ。
「僕が扉を開く鍵なら、妹は扉を閉じる鍵となる」
ジョーンズは信じているのだろうか。この話を。
もう一度、ジョーンズの顔を見たい。
タンジーは口を噛みしめた。
「タンジーには精霊がいるのだが、彼が僕を鍵に変えて、妹に飲み込ませた」
「だから、タンジーが鍵を持っていたのですね」
ジョーンズの手がそっと伸びて、タンジーの手を握りしめた。力強くて抵抗しても解けなかった。
「では、鍵は僕が飲みましょう」
「え?」
「タンジーの目は何者かにくり抜かれた。それはタンジーが狙われているからでしょう。鍵を飲み込めば、また、狙われるかもしれない。ならば鍵が飲み込めば」
「ダメっ」
タンジーは悲鳴を上げた。
「君は目が見えない。これからは僕が守るよ」
「あなたを死なせたくない。わたしは死んでもいいの」
「「ダメだ」」
ジョーンズとノアが同時に叫んだ。
「タンジー、お前が世界を守るんだ。お前がいないと意味がない」
「では、兄上、わたしたち二人で逃げましょう。ジョーンズは関係ないわ」
「関係ある」
ジョーンズがきっぱり言った。
「僕は、君と結婚すると決めた。君は僕の妻になるんだ。守るのは僕だ」
「わたしは結婚するつもりはありません!」
「どうしてそんなに頑固なんだ?」
ノアが不思議そうに言う。
当然でしょ、とタンジーは思った。
ジョーンズを、死ぬかもしれない運命に巻き込みたくないからだ。
「世界が滅んだら、何もなくなるんだよ」
世界が滅ぶ。冥界の神たちによって、本当に世界は滅ぼされるの?
「わたしにもっと力があればいいのに」
ぽつりと呟くと、兄がしっかりした口調で答えた。
「だからこそ、お前はジョーンズと結婚するべきなんだ」
タンジーは天を仰いだ。もう、誰か兄の口をふさいでくれないかしら。
「タンジー、僕では不服かもしれないが、精いっぱい君を守るよ」
「自分のことは守れます」
手をするりと抜いて、背中を向ける。ジョーンズが息をつくのが分かった。
こんなことになるのなら、ジョーンズから離れておけばよかった。
「タンジー、さあ、話は着いた。僕を鍵に戻すんだ」
「兄上、これでいいの? わたしには分からない」
「前にも同じことを言ったが、お前の泣き言など聞きたくない」
「兄上…」
「前に進むんだ、タンジー」
兄の言葉は鋭く、タンジーには言い返せなかった。
兄の体に両手をかざして呪文を唱える。この魔法にもだいぶ慣れてきた。
兄の気配が消えて、彼は銀の鍵となった。
「ジョーンズ」
目が見えないため、ジョーンズの声を確認すると、彼は一瞬、息を飲んだ。
「本当に鍵になった…」
「飲み込んで」
「これを飲み込むのか?」
ジョーンズがためらっている。当然だとタンジーは思った。
「無理しなくていいのよ。わたしが飲み込むから、大丈夫よ」
「いいや、僕が飲む込むよ」
しばらく静かになる。
「痛みはないはずよ、魔法で守られているし、ノアには声も届かなければ、見ることも感じることも何もできない。本当にただの鍵よ」
「どうやって呼び出すんだい?」
ジョーンズが、えへんえへんと喉を鳴らした。
「わたしが声をかけたら、答えてくれるわ」
それを聞いてジョーンズはほっとした。もし、このままずっとお腹の中にいたら、どうしようと思ったのだ。
「もう、今日は遅いから休もう」
「へとへとよ」
タンジーが力なく笑った。




