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七つの瓶  作者: リコヤ
赤 -陽気な踊り子は大地の鼓動を知る-
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 もうとっくに到着していると思ったのに、《ウルファ》の人達はまだ着いていなかった。いくら全速力で来たってこっちは徒歩だもの、抜かしたりなんてできないはず。おかしいな、馬車じゃないのかしら。

 葡萄畑にいたオーダンさんがわたし達に気づいて、作業の手を止めて不思議そうにやってきた。それはそうよね、さっき見送ってくれたばかりだもの。

「どうかしましたか?」

「やーそれが」

 門倉さんが説明しようとした、その時。


「信じらんないほどバカだねアンタはッ!」

 見事なソプラノが響いてきた。通りを見ると、幌付きの馬車が一台、こちらに向かってきている。……もしかして。

「右と左を間違えるだなんて!だッからよけいな回り道ばっかりするハメになるのさ!」

 男の人の声が応えた。

「いーじゃないか右と左くらい!おかげで楽しいだろっ?」

「用のあるときはまっすぐ向かえッてんだよ!」

「……俺、男の方と気が合いそー」

 門倉さんがぼそっとつぶやいた。そうでしょうね。門倉さんもこれまでの印象は軽くてのんきな人だもの。


「え、え?なにごとですか?」

 オーダンさんがうろうろとうろたえている。わたしは、あえて説明しようとは思わなかった。だって、本人達が来ているんだもの。百聞は一見にしかず、いったいなにを語れというの?


 馬車は醸造所の入口で止まった。幌にあの旗と同じものが縫い付けられている。ただしこちらは長い間光と風雨にさらされてきたせいか、ずいぶん色あせているけれど。

 手綱を取っていた男の人が、軽い身のこなしでとんと降り立った。すごく大きい人だ。オーダンさんもわたしも、空を見上げるかんじになる。背が高いだけじゃなくて、ゆったりした衣装をまとっているけれど、がっしりしているのがわかる。

「すいません、オーダンさん家はこちらであってますかね?」

「は……はい、わたしがオーダンですが……」

 前に出てきたオーダンさんの手を、男の人ががしっとつかんだ。あれは握手か。


「いっやー、やっと来れた!」

 にかっと笑って、握った手をぶんぶんと振り回しながら続ける。

「《魔の氾濫》でえらい遠いところまで移動しちまって、やーっと治まったと思ったら今度は通行証やら何やら!遅くなっちまってすんません!」

 ああ、『来なくなった』んじゃなくて、来れなくなった……なっていたのか。

 全世界共通の通行証の取得にはいろんな審査があって時間がかかるし、しかたないわね。わたしの通行証も、いろんなところにねじ込んで最速の発行にしてもらったとはいえ一ヶ月かかったし。

「自分の方向音痴もつけ加えな、まったく!」

 ソプラノの声の女の人だ。ああ、なんだか姐さんって呼びたいきりっとした雰囲気がある。彼女が踊り子なのかしら。


 オーダンさんは振り回された手を解放してもらい、それでようやく状況がつかめたみたい。

「そうでしたか……遠いところから、ありがとうございます」

 しみじみと嬉しそうに頭を下げるオーダンさん。手、大丈夫かしら。


 だが、頭を下げられた《ウルファ》の二人の様子が変だった。気まずそうに顔を見合わせている。文化が違うと誤解が生まれやすいと聞くけど、これはさすがに違うはず。


 やがて思い切ったように、男の人が言った。

「俺らはなんのために来たんでしょうかね?」

 え?

 わたしも、オーダンさんもぽかんとした。

 男の人の表情は大まじめだ。やっぱりまじめな表情で、女の人が取り繕うように続けた。ちょっと顔をしかめている。

「歌と踊りは先代から教わったんだけどね、ここへ来て踊れって、それだけでね。肝心な部分を知らないんだよ、あたし達」

 え……えぇえ~~!

 《ウルファ》は文字を持たず、すべて言葉で伝えていくと言う。でもだからって、これはあり!?

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