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「なー、本当に捜し出せんの?」
町の中心部に戻る道すがら、投げやりな調子で門倉さんが言った。
「二十年音沙汰なしで、手がかりはその布一枚でさー。しかも《ウルファ》ったら交易路を年がら年中フラフラしてるんだぜ?すっげ難しいよ?まぁ俺はついてくだけなんだけどねー」
わたしは足を止めて、後ろを振り返った。キッとにらむ。気分が悪い。門倉さんは、なにが言いたいの。
「どうしてそんな志気が下がるようなことを言うんですか?」
「だって事実じゃーん」
門倉さんは子供っぽく口を尖らせている。なんなの。
「それにさァ、一つの瓶にそんなに時間かけていいの?一年以内なんでしょ?」
時間については、正直、痛い。間に合わなくなるかもしれない、と思うと本当に怖い。でも。
「すべて揃えなければ意味がないんです。だから捜すしかありません」
それはオーダンさんのためじゃない、わたしのために。
「ムーリーだーって。元々難しいのがさらに難しくなってんじゃん」
「難しいは『できない』ってことじゃありません」
腹が立つ。門倉さんが捜してまわるわけじゃないのに、難しい、無理だなんて連呼して。そんなことは言っていられない。この旅にはわたしとお父さんだけじゃない、橘貿易の従業員みんなの生活もかかっているんだから。
それにわたしは、不可能なことに挑戦しているわけじゃない。
「なんでさ?」
「祖父が若い頃揃えたことがあるんですよ」
「マジで!?」
ぎょっとした様子で門倉さんは叫んだ。そのあと、ぽかんとしている。そういえば、話したことはなかった。
なにを隠そう、その時の旅行記がきちんと遺っていて、わたしはそれを指針にして旅立ったのだ。おじいちゃん、ありがとう。
ただし旅行記、曖昧な部分が多い。流通していない物の場所の特定は、前後の居場所から推理するしかない。
「いつかわたしもって思ってたんです。こんなに早く……こんな形になるとは思わなかったけど――こういう縁だと思えって、父に言われました」
縁。人とのつながりが、橘貿易の基本だと祖父母や父に教えられてきた。
「だからきっと大丈夫です」
旅立ってから、何度も何度も自分に繰り返し言い聞かせている。
『七つ瓶』とは縁がある。だから、きっと、揃えられる。
それはほとんど祈りに近い。
「そっかそっか。なーるーほーどーねー」
門倉さんはうんうんとうなずいて髪の毛をかき回し、
「悪いこと言っちゃった。ごめん」
さっぱりとした表情でそう言った。まったくだわ。行動は制限しないと言ったんだから、やる気をなくさせるような言葉は慎んでほしい。
「そんで?どっから捜すの」
「ロートメルド……この町から一番近い、交易路の交差する町です」
「ああ、したら《ウルファ》が多いかもね。よーし行こー」
自分のかけ声に自分で「おー」と返事して、すたすた歩きはじめた。切り替えの早い人だ。そしてちょっと勝手な人。
わたしもあとを追うように歩き出した。
よそとの行き来の交通手段はたいてい乗合馬車。もちろんここへ来るのにもそうだった。
ロートメルドは汽車の駅があるんだけど、線路がそこまでなのだ。汽車が登場したのはつい最近……十年くらい前。造るのも操作するのも相当難しいとかで、まだまだ少ない。運賃だってものすごく高い。なにしろラピュタ行きの定期飛空船より高いんだから。馬車よりずっと早いけど、輸送に使うと品物の値段が上がってしまうから商売にはまだ利用できない。
サンヴォロックの町の乗合馬車の停留所は町の中心部に近いところにある。町によっては入口あたりで降ろされてしまうので、宿をとったり情報を集めたりするにはありがたいんだけれど、残念ながらオーダンさんの醸造所へは遠くなってしまう。
ロートメルド行きの乗合馬車を捜して停留所をうろうろしていたら、オーダンさんの家を訊ねたおじさんがまだそこにいて、声をかけてくれた。
「なんだ、オーダンには会えなかったのか?」
「いえ、お会いできました」
わたしは改めてお礼を言った。おじさんはそーかいとうなずいて、
「しっかし一日に二回も同じやつの家を訊ねられたなァ初めてだよ。さっきも訊かれてなァ。しかも《ウルファ》だったんだよ。久々だな」
なんですって!?
「こういうっ……こういう旗を、かかげていませんでしたかっ!?」
わたしは懐から預かった旗を広げて、おじさんに詰め寄った。おじさんはこくこくとうなずいた。
「あ、ああ……そうだな、見たよ、うん」
顔が引きつっているのは、わたしの勢いに驚いたからだろう。
我ながら興奮している。こんな偶然――ううん、縁ってないわ!
「ありがとうございますっ!」
わたし達は来た道を引き返した。




