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七つの瓶  作者: リコヤ
赤 -陽気な踊り子は大地の鼓動を知る-
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 学校から帰ってきたわたしを、父が玄関で土下座して待っていた。

「なにをしてるの、お父さん?」

 びっくりして一瞬ひるんでしまった。この時間なら、まだお店のほうにいるはずなのに。

 顔を上げた父は真っ青を通り越して白かった。なんだかわからないけれど、イヤな予感がした。

「旅行に行ってくれないかな?」

 ……土下座して言うことじゃない。

「なにがあったの?」

 座ったまま、父はもそもそと答えた。

「うちが……おじいちゃんがこの仕事を始めたきっかけは、知ってるよね?」

「もちろん。『七つの瓶』でしょう」

 おじいちゃんに何度も話してもらった、わたしの憧れの話。


 『七つの瓶』――赤、橙、黄、緑、青、藍、紫それぞれのラベルのついた、七種類の瓶。

 すべて集めると願いが叶う、不老長寿の薬、お金持ちになれるーーなど、いろいろな噂があり、正体がよくわからない謎の品、と言われる。

 だけれども、それはちゃんと存在する。実際に揃えた人も、実はそれなりにいるからだ。祖父もその一人。

 なのにさまざまな噂があるのは、どんなものなのか、なにが起こったのか誰も話さないからだ。なんとか話してもらえても、具体的なことは一つも聞けない。

 ただ、揃えた人が幸せな人生を送ったことだけは確かなことだと思う。だって、祖父は幸せだとよく口にしていたから。

 揃えた人がそれなりにいて、実のところ七つのうち三つは入手困難だけど流通している。なのに『七つの瓶』は幻の品とされている。

 なぜならば、揃えることが難しいからだ。

 どこで手に入るのか、揃えた人は絶対に話さない。祖父もそうだった。

 祖父曰く、楽しみが減る。

 瓶をすべて揃えた祖父は貿易商を始めた。小さいし扱っている品数も多くはないけれど、取引相手は誇張なしに世界中にいる。うちでしか扱っていないものがあるくらいだ。それは祖父の人脈から発生したものだとか。

 そういうわけで、『七つの瓶』が橘貿易の出発点だ。


「ところがその話を嘘だと言われて、笑われてね。その上今橘貿易が繁盛するのはその威光のおかげだって言われて」

 返事をしたくなかった。続く言葉が予想できたから。

「むかっとして、じゃあ『七つの瓶』を集めてみせると言っちゃったんだ」

 わたしは盛大にため息をついた。やっぱりね。「言っちゃったんだ」なんてまったく、いい大人が、しかも商売人が言う台詞かしら。


 ……ん?ちょっと待って。お父さん最初、旅行に行ってくれないかって言ったよね。イヤな予感に、わたしは固まってしまった。

「まさか……」

「集めてきてくれないかな?一年で」

 耳を疑った。今、なんて言った?

「無茶言ってるのはわかってる!学校も休んでもらわないといけないしね……!でもお父さんが行くわけにはいかないんだ。おじいちゃんの威光で今があるんじゃないってことを証明してみせないと……だからって従業員に頼めることじゃないし」

「一年っていうのは……?」

「無期限だとなんの証明にもならないから……って」

 頭がぐらぐらした。

「ごめん瑠璃、でも頼む!できなければ橘貿易は吉備津商会に吸収されるって話になってるんだ……!」

 なんなのその勝手な話は!信じられない。


 それでも嫌とは言えなかった。将来はお父さんの跡を継ぐつもりだったから、そんなことで橘貿易がつぶれてしまうのはおおいに困る。それに従業員だって。

 『七つの瓶』を求める旅に、世界を巡る旅に、いつか出たいと思っていた。でもそれは、こんな形じゃないはずだ。

 ちっとも嬉しくない。

「気持ちはわかるよ。でもこういう縁だと思って」

 その原因はお父さんじゃないの!

「それにほら、おじいちゃんて前例があるんだから、大丈夫だよ」

「……不可能ではないのは確かだけど、期限のあるなしは大きいと思う」


 それでもわたしは旅の支度をした。一年以内に七つ揃えなければならないから、気になること、わからないことはできるだけ調べた。そのために学校を休んだほどだ。ああ、もう。

 門倉さんに会ったのは出発直前。吉備津商会の社長がわざわざ見送りにやってきて、彼を紹介されたのだ。社長の遠縁に当たる人で、レナト同盟に所属している戦士だそうだ。

 監視兼護衛だと言う。

「ども、ヨロシクっ」

 門倉さんは、最初からこんな軽い調子の人だった。話してみたら『七つの瓶』についてはまったく知らないので、監視の役目はできない、護衛役でも行動を制限したりしないから、と言う。話し相手と思え、と。

 うーん、吉備津商会の社長さんの真意が見えない。


 ともあれ、わたしは門倉さんとともに一つ目、赤の瓶を目指して故郷を旅立ったのである。

初めましてなので、2話連続投稿してみました。

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