その後
あれから数日が経ち、僕の平穏な生活gは戻ってきた。伊月がいなくなって騒がしさはなくなってしまったけど、これこそがあの死体探しの本来の目的だったのだからよかったのだ。
【ガンガンガンガンガン】
それにしても外がうるさい。今日は朝からうるさかったのだ。話を聞いたところどうやら隣の住民が退去作業を進めているらしくて、その音で全く執筆に集中できない。伊月のせいでただでさえ原稿が遅れているのに、これじゃいつまで経っても終わりやしない。普段なら文句なんて言いやしないけど、ちょっと音を抑えてもらうくらいなら隣人に十分保障された権利だろう。
「すいませーん。隣のものなんですけど、ちょっと音小さめで作業してもらえませんかね。今ちょうど、仕事が佳境にいるもので、協力していただけないですかね。」
そういえば、隣人ってあったことないけどどんな人が住んでるんだろう。マッチョの兄ちゃんが出てきたら、非力な僕じゃ鼻息で吹き飛ぶだろうし、物音ぐらい我慢するべきだったかなあ。そんなことを考えていたら、ドアが勢いよく開いた。
「ちょっと、幸太郎。君のためにも整理してるんだから、文句は言わないでくれよ。」
はい? 伊月がなんで隣に?
そんな思考よりも先に反射的に自分の足が動き、伊月の腹にヒットする。
って、こいつ幽霊じゃないなら痛みだって普通に感じるんじゃ……。
急いで吹っ飛んで行った伊月を追いかける。
「おい伊月!大丈夫か!」
「自分で蹴っておいて大丈夫かって何なんだよ幸太郎。」
ぐうの音もでない正論である。それにしても、伊月は僕の蹴りを受けても全く何もなか
ったかのように立ち尽くしている。理屈がどうしてもわからない。結局、藤原美月の件で背景事情のだいたいが解明したものの伊月に関しては不可解な点があまりにも多く残っているのである。どうやって部屋に侵入していたのか。両親はどうしているのか。それに今もどうして僕の蹴りを食らって平気なんだ。
「そりゃあ、僕だっていうのははばかられるけどさ。正直、幸太郎が貧弱すぎて全くいたくないんだよね。それに僕、去年、空手のインカレでベスト8入ってるし。」
そんなバカみたいな力技で僕は半ば騙されていたのかと思うと、自分の愚かさにため息がこぼれそうになる。インカレでベスト8ってことは日本で8番目に強い女子か。
「って、イン『カレ』⁉お前大学生だったのか‼」
「そうさ、子ども扱いしないでよね。今日から大人のレディと一緒に住めるんだから幸せにをかみしめて生活してよね。」
「今日から一緒に住むって、あの約束はお前のじゃなかったし、幽霊でもなんでもなかったじゃないか。そんなの無効だ、無効。」
「いや、約束は『美月』の死体を見つけたら養ってくれるだったはずでしょ。もう大人なんだから約束ぐらい守ってもらうからね。あと、そうそう隣の部屋から幸太郎の部屋の押し入れに開けた穴はもうふさいでいいから。」
絶句している僕をよそに藤原伊月は小悪魔のような笑みを浮かべるのだった。
藤原伊月
山岳事故で死んだ自分の姉を探している。
少女とみられることが多いが、成人済みである。酒が好き。友達には幼く見られるのは馬鹿にされているようで不愉快だと言っているが、本当はまんざらでもない。短大に通っている途中に空手の師と出会い、センスが開花。空手歴二年目にして全国ベスト8になる。運動神経はよくないもののとにかく体が頑丈なことが取り柄。めっちゃ飯を食う。姉とは長年仲が良くほとんど喧嘩をしたこともなかった。姉が自分に対して心配しないように書き留めた後姿を消したのをきっかけに姉を探しに行く。姉がよく気に入っていた場所で死体を見つけてからは、混乱を極め子供のころ姉と秘密基地にしていた小屋に死体を保管するようになる。たまたま隣が幸太郎の家であることに気づき押し入れに穴をあけ侵入。意図して壁に穴をあけたことはいまだに幸太郎には言えていない。自分の外見が良いことを自覚しており、たびたび幸太郎を誘惑して遊ぼうとしているものの見向きもされない。
幸太郎と出会い、諸々に感謝はしているものの、美少女に尽くせるのは幸太郎もうれしいだろうと本心で思っている。高校以来初めての異性の友達が幸太郎。
斎藤幸太郎
元有名作家。自身の母が死んだタイミングでそれを供養するように怪談話を書いたところそれが大ヒット。それ以来は特にジャンルにこだわらず様々な小説を書いているもあまり伸びていない。小説家の間では作品に品やこだわりが見えるとして評価が高く、隠れファンも多い。本人は気にしているものの人並みにコミュ力にはたけており、同業の友達ができないのは知り合うことで次回作を純粋に読めないかもしれないと思われているから。
伊月と出会い、久しぶりに友達らしい友達ができたと内心喜んでいる。伊月の顔を整っていると思っているものの、恋愛感情はとりあえずまだない。




