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妹を救うついでに、銀河の治安も守ることにした  作者: 銀河猿


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第1話 妹を救うついでに、銀河の治安も守ることにした

「カナン・ラディスト、帰還しました」俺は任務を終え、銀河治安局の拠点――宇宙要塞『ギラクシア』へと帰還した。予定時刻より、今回も早い。

「また記録更新?……局のシステム、壊れたのかと思ったわ」

出迎えてくれたのは、俺の専属オペレーター、ニュー・リームだ。

雪のように白い髪を腰まで伸ばし、トレードマークの黒いカチューシャがよく映える。

俺より一つ年上の17歳だが、細身で華奢なその体つきは、どこか守ってやりたくなる危うさがあった。

「一つの惑星に執着する理由はない。任務を最速で片付けて、次の現場へ行くだけだ」

16歳で少尉まで登り詰めた俺の言葉に、ニューは小さくため息をついた。

「わかってるわよ。……リキューちゃんのため、だもんね」

「ああ。それで、あいつの様子は?」

「特に変化はないわ。いつも通りよ」

「そうか。少し会ってくる」

ニューに短く告げ、俺は集中治療室へと足を向けた。

リキューは、俺の四つ下の妹だ。

以前は金髪をなびかせてよく笑う、太陽のような子だった。

だが一年前、事態は急変した。

眠ったまま起きない彼女を医務室へ担ぎ込み、あらゆる検査を繰り返した結果、下された診断名は――『黒夢病ナイトメア』。

宇宙に遍在するダークマターを取り込みすぎたことで脳に異常をきたし、深い眠りに落ちる奇病。

前例はほとんどなく、現在の医療では延命が限界だった。

唯一の希望は、三つの材料から生成される『メザメ薬』。

・一枚で一日の活動を支える白い花『シロミツソウ』

・蓄積した疲労を瞬時に拭い去る透明な水『リラックスイ』

・万病に効くとされる伝説の『ヤクシカの角』

調査員になってから数多の惑星を巡ったが、いまだにその欠片すら見つかっていない。

除菌工程を終え、俺は入室した。

多くの医療器具に繋がれた妹は、金髪の中に病の影響である黒髪が混じり、点滴だけの生活で見る影もなく細り果てていた。

俺はそっと、そのおでこを撫でる。

ソフトモヒカン気味に短く整えた俺の髪とは対照的な、伸ばしっぱなしの柔らかい髪。

「リキュー、今回の任務だが……」

返事はない。それでも俺は、語りかけ続ける。

俺たちの両親は別の基地で長期任務に就いており、数年も会っていない。トップクラスの実力者である姉も、任務で飛び回っている。

今、この子のために動けるのは、俺しかいないんだ。

(必ずお前を目覚めさせる。……もう少しだけ待っていてくれ)

自室に戻ると、ニューが待っていた。

「お疲れ様。リキューさんと話せた?」

「ああ。今回の任務の報告をしてきた」

「そう。……でも、あんまり無理しないでね? 私のことも、もっと頼ってほしいの」

最初は「危なっかしい弟分」として接していたはずの彼女の瞳に、

最近はどこか違う色が混じっている気がした。

だが、その意味までは分からない。

「……充分助かっているよ。これからも頼む」

「もう! 殊勝なこと言わないでよ、私が好きでやってるんだから!」

ニューにデコピンを食らわされ、俺は少しだけ口角を上げた。

その時、基地内に鋭いアナウンスが響く。

『カナン・ラディスト少尉、ニュー・リームオペレーター。直ちに第四作戦室へ向かえ』

「仕事だ。行こう」

「……うんっ!」

第四作戦室には、三人の男たちが待っていた。

「待っていたぞ、カナン」

声をかけてきたのは、基地長のローマン・キャリン。

父の旧友であり、一般人だった俺が調査員になることを許してくれた恩人だ。180センチの巨躯に茶髪、現役時代を思わせる筋肉質な体つきは圧倒的な威圧感がある。

「おっつー、カナン! 今回の装備も最高に仕上げといたぜ!」

そう言って肩を叩いてきたのは、坊主頭の整備長代理、テスカトル。

俺の装備の扱いに惚れ込み、半ば専属と化している「テス」さんは、今回も不敵に笑う。

「……いつも一緒ですね、二人とも」

最後の一人、情報官のケール・オーリンズが、眼鏡の奥で眠そうな目をこすった。

赤紫の長い髪を後ろでまとめ、大きな欠伸をする。普段は寝てばかりの彼女だが、俺の任務の時だけは必ず姿を現す。

「あんたは相変わらずね、ケール」

「ニューこそ……。あたしは……カナンに会うために起きてるんだから……。ねぇカナン、チューしていい……?」

「え? それくらいなら別にかまわな――」

「ダメに決まってるでしょ!!」

ニューが俺の口を塞ぎ、ケールを引き剥がす。いつもの光景だ。

「……コホン。そろそろ任務の話をしていいか?」

ローマン基地長が咳払いをし、スクリーンを指した。

表示されたのは、青い海と緑の大地が広がる惑星。

「今回の任務地は、第3軌道惑星――『アースパンゲア』。ここで『害虫』の反応が出た」

ケールが気だるそうに補足する。

「場所は『ニシミヤコ』。住人は我々と同じヒト種……。範囲は南北87キロ、東西20キロ……。広範囲だから、初めての長期任務になるかもしれないわねぇ……」

「長期か」

俺は拳を握る。それだけ長く滞在すれば、材料が見つかる可能性も上がる。

「テスさん、装備の予備は?」

「おう、最高のセットを用意してやる! 長丁場でもバッチリだ!」

俺は最後に、ケールへ視線を向けた。

「ケールさん、例の薬の材料の情報は……」

「うーん……今のところ、有力な情報はまだないみたい……」

「そうですか……」

落胆する俺に、ケールがふらふらと寄りかかってくる。

「ごめんねぇ……。でも、もし見つけたら一番に教えるから……」

「いいえ、いつもありがとうございます。助かります」

「よし、作戦最終確認だ」

ローマンの声が室内に響く。

・惑星アースパンゲアの『害虫』駆除。

・作戦期間は七日間。

・正体を隠し、現地民として振る舞うこと。

「一時間後に出撃だ。……解散!」

作戦室を出る際、ニューが俺の手をぎゅっと握った。

「大丈夫。私がサポートするし、カナンなら心配ないよ!」

「ああ。……行ってくる、ニュー」

初めての長期潜入任務。

妹を救うためなら、関係ない。

――目覚めさせるためなら、

俺は銀河の幽霊として――この星に潜る。

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