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冒険者ギルドの記録員  作者: 六花葵
第一巻
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記録10-7 消耗戦のギミック、と悪意に満ちた火力測定

朝食を済ませると、ルミエルは期待に胸を膨らませた様子で元気よく飛び出していった。

 窓の外の天気を確認する。昨日と変わらぬどんよりとした空模様だが、どういうわけか、今日は実に素晴らしい秋晴れのように感じられた。


この「馬鹿な方法」を採用する場合、現在のキャンプ地を拠点とすることになる。エルフは持ち前の敏捷性で知られる種族だ。こうした斥候のような仕事なら、二人一組で互いに援護し合えば十分だろう。残りの人員は、重要人物であるルミエルを護衛するためにここに留まる。


「一組、二組、三組……おや、カティア様は結局、自ら外回りを率いることになったようですね」


人選を巡って愁眉を開かぬエルフたちの表情を眺めながら、私は手元のカップに温かい紅茶を注ぎ足した。チーム内で巻き起こる葛藤を、温かい茶を啜りながら部外者として高みの見物を決め込む。そこには言葉にできないほどの、えも言われぬ清涼感があった。


いけない。よもや私は、この「安全圏からの観劇」という悪趣味を味わうために、この職務から離れられないのではないだろうか? ……もしそうなら、いささか危険な思想かもしれないな。

 名目は「王女の護衛」だが、残留組の安堵したような顔を見るに、本音は温泉と食事があり、泥濘の中でコンパスにならなくて済むこの家から一歩も出たくないだけなのだろう。


方針が固まれば、あとは着実な実行あるのみだった。

 それからの日々は、毎日交代で一組が昨日の進捗地点から新たな探索を開始するという、徹底したローテーションが組まれた。


朝に探索班を送り出し、残留組は交代で休息を摂る。

 夜に探索班が帰還し、食事と入浴を済ませれば、彼女たちはたいていそのまま泥のように意識を失ってしまう。

 深夜は翌日に出勤しない者が不寝番に就く。初日の夜以来、深夜には必ずといっていいほどアンデッドの襲撃があった。数はまばらだが強度は低く、エルフの衛士が一人いれば十分に対処可能なレベルだ。


だが、あくびを噛み殺しながら機械的に剣を振り下ろして骸骨を砕き、終わるや否や、肩を揉みながら温かい寝床へと這い戻る彼女たちの姿は、「王女を護る戦士」というよりは、魂が抜け落ちた疲れ果てた労働者のそれに見えた。


そんな日々が繰り返されるが、事態が進展している様子は一向にない。

 今日も私は、自分の小屋で悠然とティータイムを楽しんでいた。最初の頃はルミエルが時折遊びに来ていたが、日が経つにつれて彼女にも余裕がなくなってきたらしい。


一方のレシーナは、まさに「眠れる巨龍」という言葉を体現していた。生活の雑事に煩わされないこの環境で、彼女の眠りは三食を忘れるほど深い。だが、気のせいだろうか。この期間に彼女の体躯が少しばかり成長し、逞しくなったように見えた。


数えてみれば、今日でルミエルたちが持ち込んだ予備の食料は底を突くはずだ。これ以上は帰還用の備蓄に手を出さねばならなくなる。

 私は腰を上げ、ルミエルの小屋へと向かうことにした。


「あら、レスト? 何か用かしら」

「王女殿下にリマインドをと思いまして。皆さんの安全食料備蓄分は、今日で底を突きました。これ以降は、帰還用の消耗分に手をつけることになります」

「そう……そうなのね……」


ルミエルは遠くを見つめた。そこには偵察時に設置された定点の一つ、信標ビーコンが立っている。特定の呪文を唱えれば、天を衝く光柱を放つマーキング魔法だ。カティアの話では、あの場所はキャンプ地からすでに十キロメートルも離れているという。つまり、彼女たちは少なくとも三百平方キロメートルを超える面積の捜索を完了させたことになる。


前世で住んでいた都市の市街地ほどの広さを、彼女たちはわずか数日のうちに、しかも自らの足で「死角なし」に踏破してしまったのだ。ファンタジー世界の種族というのは、やはり科学では説明のつかない存在なのだと、改めて深く痛感させられた。


「でも……レスト。あなたには、まだ余分な食料があるのでしょう?」

ええ、もちろんです。一日三食はおろか、アフターヌーンティーに夜食までつけたとしても、年単位で提供し続ける自信はありますよ

「そう……。でも、物資は無限ではないわ。こんなところで消耗し尽くすわけにはいかないものね」


これほどの広範囲を捜索しても、得られたのは悪い報せばかりだった。この階層への入り口すら消失し、今や一行はこの空間に閉じ込められた形となっている。

「けれど、転機は近いと感じているわ。レスト、あなたも感じないかしら? 灰色の霧が晴れ始め、足元の泥濘が乾き、空が一日ごとに明るくなっているのを」


確かにその変化は感じていた。だが、それが吉と出るか凶と出るかは断定できない。

「このダンジョンは心象世界で構成されているわ。現象を維持するにはエネルギーが必要なの。自然発生したダンジョンでない限り、エネルギーには必ず終わりがある。私たちが毎晩処理しているアンデッドたちは、その消耗を加速させているはずよ」

「そこに気づいてからは、カティアたちを休ませることにしたわ。アンデッドを利用して、この階層の維持機構そのものを自壊させるのよ」


なるほど……階層のギミックを逆手に取ったパワープレイか。理には適っている。

 ……だが、果たして事態はそう単純だろうか? 物資の枯渇と劣悪な環境、そして夜間の襲撃。これらは準備不足の者を脱落させるには十分な「仕組み」だ。だが、第一階層であのボスが待ち構えていたことを考えれば、ここがただの消耗戦で終わるとは考えにくい。


「王女殿下に方針があるのなら、それに従いましょう。物資に関しては、後ほどまとめて請求させていただきます。では、私は部屋に戻って事態の進展を待つとしますよ」


―――その夜。


良いニュースは、本当に「転機」が訪れたこと。

 悪いニュースは、その転機がその場で三百六十度回転したこと。つまり――危機へと逆戻りしたわけだ。


私は飲みかけのコーヒーが入ったカップをそっと置き、長いため息をついた。椅子の背もたれにかけていた上着を手に取り、重い腰を上げる。遠くからは、空気を震わせるほど重厚な足音が響いてきていた。

 白昼のように明るい月光が照らし出す中、遠方から巨大な骨の塊が、ゆっくりとキャンプ地に向かって移動してくるのが見えた。


「……言わんこっちゃない。ギミック階層の最後には、いつだって『火力測定(DPSチェック)』のボスが控えているものだ」


レシーナ、起きろ。親戚のお出ましだぞ

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