第334話 『待っててくれ、ゆずるちゃん!』
何か今日は色々な事が起こりまくっている。
朝の早霧生着替えやえっちじゃない腕立てキスから始まって、アイシャの公園での最後のラジオ体操や厚樹少年の涙に太一少年達との友情、そして我が家に自分らしさ研究会の全員が時間差で集合をして――。
「…………」
「…………」
――その会長と副会長が、顔を真っ赤にして正座をして向き合っていた。
何でこの二人は、俺の部屋でお見合いみたいな雰囲気を出しているんだろうか?
「ご、ごう……?」
チラッと。
いつもは元気いっぱいなゆずるが、おずおずと顔を上げる。
服もボランティア活動の為のジャージからお祭りの為の貸し出された巫女服に着替えていて、何て言うか神聖な感じがする。
だけどここは、俺の部屋である。
「ゆ、ゆずるちゃん……!」
シャキッと。
背筋を伸ばした座高も高い大男な長谷川が、正面にいるゆずるを見つめる。
こっちも学校指定のジャージではなく父親から譲り受けたという濃紺の浴衣を身につけていて、ゆずるの衣装と相まってとても和風な感じがする。
でもやっぱりここは、俺の部屋である。
「がんばれ、ゆずるん……!」
「ひょわぁ……ひょわぁ……!」
それを見守っている白髪ポニーテール巫女の早霧と、黒髪目隠れ巫女の草壁。
この二人も超絶似合っているんだけど、ゆずると長谷川に比べて個性が強すぎる。
俺の部屋なのに完全にツッコミ役が俺しかいなくなってしまったけれど、この状況でツッコめる訳がない。
完璧なぐらいにアウェイだった。
「そ、そのぉ……も、もう一度、告白って……?」
「あぁ……!」
ゆずるが顔を真っ赤にしてもじもじしている。
いつもなら長谷川が大歓喜する仕草だが、その長谷川は真剣な表情をしていた。
まるで一世一代の告白をしようとする男の覚悟が伝わってくる。
だけど二人はすでにお付き合いを始めている仲だ。
なんだったらゆずるもゆずるで長谷川の為にお祭りで二人の時間を作ろうとしていたので、どこまでも似た者同士な二人である。
「俺はこの前ゆずるちゃんに告白をして、お付き合いをさせてもらってる……!」
「う、うん……わ、わたしもごうと……お付き合いさせてもらってるよ……?」
このままプロポーズでもするんじゃないかって雰囲気だった。
早まるな長谷川、落ち着けゆずる。
ここ、俺の部屋だぞ?
「小学生の時、ゆずるちゃんと出会ってから、ずっと俺はゆずるちゃんが好きだった! それは今も変わらない!」
「う、うん……わ、わたしも……ごうに助けてもらってから……ずっと、す、すき……だよ……っ?」
「がんばれ……! がんばれゆずるん……!」
「は、長谷川さんもぉ……お、男らしいですよぉ……!」
見守っている巫女二人が騒いでいる。
いい雰囲気なのに、本当にいいのかこれでと考えてしまう。
「だけど、付き合ってから、それが変わってしまった……」
「え……?」
「え……?」
「ひょわ……?」
頭を下げる長谷川。
目を見開いてゆずるが驚いて。
……早霧と草壁はちょっとだけ静かにな?
「だって俺は、付き合って、恋人として一緒にいて、もっとゆずるちゃんの魅力に気づいて、もっとゆずるちゃんを好きになってしまった……!!」
「ご、ごう……っ!」
だって長谷川は、こういう奴だから。
自分に真っ直ぐすぎて、隠し事が一切できない男なのだ。
「だから……待っていてくれ、ゆずるちゃん! 俺は夏祭りの夜、もっと好きになった君にもう一度告白する!!」
「う、うん……! ま、待ってるね……っ!!」
そして長谷川がその大きな手で、ゆずるの小さな手をぎゅっと握りしめた。
純粋な大男が一度は早まってしまった夏祭り前の告白を、もう一度する夏祭りの夜に約束をした瞬間である。
「良かったねゆずるん……良かったね長谷川くん……」
「ひょわぁ……か、感動ですよぉ……」
それに感極まっている巫女服姿の早霧と草壁。
やっぱり女子って、こういうのが好きなんだろうか。
「……本当に良かったな。長谷川、ゆずる」
でも二人が良い方向に進んで、仲が深まるのはとても良い事だ。
ギクシャクしている自分らしさ研究会なんて、自分らしさ研究会じゃないからな。
「なんか蓮司が上から目線だね、ひなちん……」
「こ、後方腕組面ですよぉ……」
「何で良い雰囲気で終わろうとしたのにお前達が梯子を外して来るんだよ!?」
ギクシャクを通り越して、突然の裏切りにあってしまった。




