第333話 「……それで、話って?」
『ゆずるん遠慮しなくて大丈夫だよ! 蓮司も長谷川くんも外にいるから!』
『で、でもさぎりんっ!? お、男の子の部屋でお着替えって緊張するよぉっ!?』
『ひ、ひょわぁ……か、監視カメラとかありませんよねぇ……?』
扉の向こうから賑やかな声が聞こえる。
早霧たちが、俺の部屋の中で着替えている時の話し声だった。
「こ、こんな事があって良いのか……!?」
そして俺の隣では、廊下にうずくまって真っ赤な顔を押さえている大きな、それは大きな大男がいる。
長谷川である。
浴衣を着た大男が、部屋の中から聞こえてくる声を聴いてめちゃくちゃ赤面しているんだ。
「落ち着けって」
「これが落ちついていられる訳ないだろ赤堀ぃっ!? ゆずるちゃん達が! ゆずるちゃん達がこの部屋の向こうでお着替えしてるんだぞ!? そしてその和気あいあいとした声が聞こえているんだぞ!?」
「多分お前のその大声も聞こえてるからな?」
「はぅぁっ!?」
長谷川が両手で自分の口を押さえる。
どこまでもオーバーリアクションな大男だった。
だけど純情で、繊細でもある、初心も初心、初心初心な大男なのである。
『蓮司ー! ゆずるんとひなちんいるんだから、覗いちゃ駄目だよー!?』
『と、扉の向こうに二人がいるんだよねっ……?』
『あ、あのぉ……私達がいなければ八雲さんは覗かれるのOKなんですかぁ……?』
そして何故かとばっちりが俺に来る。
まあこの場でアウェイじゃないのは俺と早霧なのでそれもそうなるだろう。
……俺の家なんだけどな、ここ。
「しかし、流石だな赤堀……。好きな女の子が隣の部屋でお着替えしているのに、そんな冷静でいられるなんてな……」
「まあ、長谷川と違っていきなり同じ部屋で脱ぎだした訳じゃないからな。俺からすれば、ずっと着替えをお着替えって言ってるお前の方が流石だよ」
「ゆずるちゃんの、お着替えだぞ……?」
「真顔で言うの、本当にガチだから止めた方がいいぞ?」
廊下にうずくまっている大男の上目遣いで、俺は喜ばない。
ゆずると長谷川がお互いに好き合っている事は知っているし付き合った瞬間も立ち会ったのだけど、それはそれとして純粋過ぎるのも考えものだった。
それこそ知らない人がみたらその身長差から事案にしか見えないだろう。
それを気にしないのが、俺たち自分らしさ研究会なんだけどさ。
「……それで、話って?」
「……ん?」
「ん? じゃなくて。長谷川も浴衣を譲ってくれるだけでわざわざウチに来たんじゃないんだろ?」
「あ、あぁ! その事か! すまん! ゆずるちゃんの可愛さとゆずるちゃんのお着替えですっかり頭から抜け落ちていた!!」
「……自分らし過ぎるのもどうかと思うぞ」
思い出したように長谷川が廊下の床から立ち上がる。
さっきまで見下ろしていたのに、一気に俺が見上げる形になった。
「そうそう! 赤堀に秘密の相談をしたくてな!!」
「肩を組むな肩を」
切り替えの早い大男は赤面していた過去を忘れて俺の肩をガシッと組んでくる。
そのまま俺の声なんて気にせず、いつものように豪快に笑って。
「夏祭りの後にな! もう一度ゆずるちゃんに告白しようと思うんだ!!」
大きな声で、決意したように、俺の目を見つめてそう宣言する。
それはとても純粋で、キラキラした、真っ直ぐすぎる綺麗な瞳で――。
『ふえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!??』
――そのデカすぎる秘密の相談は、当然扉の向こうでお着替えしているゆずるにも聞かれていたのだった。




