第332話 「長谷川くんが蓮司を脱がしたのっ!?」
「わー!」
「わ、わぁっ!」
「ひょ、ひょわぁっ!」
歓声が上がる。
前から早霧、ゆずる、草壁の順番だった。
そんな女子三人の視線は俺と長谷川に向けられている。
いや正しくは、浴衣に着替えた俺と長谷川にだった。
「れ、蓮司っ! す、すご、すごい良いねっ! すご、すごく、すごく良いよっ!」
「興奮するのかカメラを撮るのかどっちかにしろ!!」
――パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ!!
早霧が俺にスマホを向けて鼻息を荒くして淡い色の瞳を輝かせながらカメラアプリのシャッターを連打している。
褒めてくれるのは嬉しいが、自分の服にも基本無頓着な早霧の口からはすごいしか出てこなかった。
もっとこう、なんかあるだろうが……。
「ご、ごうっ! す、すごい……か、かっこいいよっ! に、似合ってるっ……」
「ゆ、ゆずるちゃんっ!? あ、ありがとうっ……! ゆ、ゆずるちゃんも最高に可愛いぜっ!!」
「わ、わたしジャージだよ!?」
「ジャージ、でもだぁ……!!」
そして俺達の隣では、長谷川とゆずるが初々しいやり取りをしている。
そうそうこういうのだぞ早霧。
早霧ももうちょっとこんな感じで恥じらいを持ってくれ。
いつも恥ずかしがる時は手遅れなの、どうにかならないだろうか……?
「ど、同志……そ、そのぉ……て、手錠はもう……しないのですかぁ……?」
「恥じらえば良いってもんじゃないぞ草壁」
「ひょわぁっ!?」
違う意味で恥じらいながら、一切恥じらっていない草壁が聞いてくる。
長い前髪で両目は見えないが、その下の頬は期待で真っ赤だった。
もちろんこの期待は、手錠による期待である。
「流石に手錠つけてたままじゃ着替えられないだろ……」
「は、長谷川さんが優しく脱がせたとかぁ……」
「は、長谷川くんが蓮司を脱がしたのっ!?」
「やめろ草壁! これ以上早霧に変な事を吹き込むなっ!!」
そもそも手錠が邪魔で服が脱げないのに変な誇張が混ざった。
それによって早霧がまた対抗意識を燃やそうとしているし、てんやわんやである。
草壁は俺と同じように、じぶけんの中でもツッコミ役に回ってくれると思っていたんだけどなぁ……。
「まあまあ赤堀。多少の事実の曲解ぐらい、ゆずるちゃんにかっこいいと言ってもらえれば全部帳消しになるだろう!」
「ならないけど!?」
上機嫌な大男が普段よりも語彙力のある喋りでニコニコしている。
そうなったら長谷川にも風評被害がいくというのに、本人はゆずるに誉められた事で頭がいっぱいなようだった。
「……でも蓮司。手錠したまま部屋の外に行ったよね?」
「ここで外したらまた早霧が手錠を悪用しそうだったから隠してきただけだぞ!?」
まだ早霧が疑いの目を向けてくる。
部屋に手錠を置いたらまた早霧が罠をしかけるか、草壁が自分で付けてしまいそうだったから外で外したというのに酷い言い分だった。
ていうかそもそも俺が長谷川に脱がされたというありもしない状況に対抗しようとしないでくれ頼むから。
「そ、それにしても……お部屋で浴衣というのも何て言いますかぁ……えふ、なんか良くない気分になりますよねぇ……」
「言い直そうとして失敗してるからな!?」
草壁が話題を変えたようで変えれていなかった。
でも内心で言いたい事は分かってしまったのである。
俺だって早霧が部屋で浴衣だったり水着だったりして二人きりならば、変な事を考えてしまうからだ。
そう考えると、かなり頑張ってるなぁ……俺。
「あっ! じゃあさ!」
そんな何度もあった昔話と言う名の濃厚過ぎる一カ月間を思い出していると、早霧が両手をパンと叩いた。
こんな時、早霧が提案する事といえば――。
「ゆずるん! ひなちん! 私たちも、脱がせっこしよっか!!」
「えぇっ!?」
「ひょぇっ!?」
「な、なにぃっ!?」
「着替えるのが目的だからなっ!?」
――間違いなく突拍子も無くて、とんでもない言葉だったんだ。




