第318話 『じゃあ、ちゅーするね?』
『ねえねえ、聞いてよレンジくん』
『どうしたんだいサギリちゃん?』
『蓮司ったらね早霧ちゃんとちゅーする所をママさんに見られちゃったから、その後恥ずかしくてちゅーしてくれなかったの!』
『あーそれは蓮司が悪いね! 僕なら恥ずかしくったってちゅーしてあげるのに』
『やっぱりレンジくんもそう思う?』
『僕は君に一途だからね、サギリちゃん』
『レンジくん……』
『じゃあ、ちゅーするね?』
『ちゅー……』
「……何やってんだ、お前?」
「……ちゅー」
俺の部屋で。
ジト目の早霧が、両手に抱いたお気に入りの羊のぬいぐるみのサギリと、顔に傷のある灰色オオカミのぬいぐるみのレンジにキスをさせて遊んでいる。
いや、これが遊んでいるのではない事はすぐに理解できた。
そのジト目は、あの後玄関でキスをやめた俺に対する抗議の視線だった。
『ぐへへ、サギリちゃんの唇は美味しいねぇ』
『駄目だよレンジくん、食べて良いのは唇だけだから……』
「……お前、どんな気持ちでそれやってるんだ?」
「……ちゅー」
ぬいぐるみ同士で会話できているのに、俺相手だとちゅーしか言わなくなってしまった。
どれだけキスをしたかったんだろうか。確かに凄く良い雰囲気だったけど、母さんに抱き合ってる所を見られたら話は別である。
ていうかレンジのキャラ、絶対にそんな奴じゃなかっただろ……。
「男の子はオオカミなんだよ?」
「そのオオカミに羊のお前が食べられようとするんじゃない」
平然と俺の心を読んで来たんだけど?
これも幼馴染で親友の特殊能力だろうか……いや単純に早霧も同じ事を考えていただけだろう。
「うがー! 良いもん! じゃあ早霧ちゃんは羊になるもん!」
「羊はうがーって言わないだろ……」
早霧が自棄になっていた。
二人分のぬいぐるみを抱いたまま、早霧が俺のベッドにダイブする。
そしてそのまま薄手の生地の掛け布団に包まり、身体を丸めて顔だけを出した。
羊と言うよりは、亀とかアルマジロに近いフォルムである。
「蓮司がちゅーしてくれるまでここから出ないもーん!」
「なんかそんな神話、あった気がするな……」
引きこもりの女神様を出すために頑張る話みたいなやつ。
まあ早霧は妖精であり女神みたいに綺麗で儚げで可愛くて悪戯好きな存在だけど、こうなってしまってはどうしようもない。
「このままじゃ早霧ちゃんが外に出られないよー……ちゅーしたいよぉー……」
「……お前なぁ」
ずっと甘えてくる。
俺の親友が死ぬほど可愛い。
可能ならこのまま俺もベッドに飛び込んで早霧が降参するまでキスをしたい。
だけどそれは、出来ないんだ。
「まだかな、まだかなぁ……チラッ? チラッ?」
「……お前、後悔するぞ?」
「よく分からない未来の後悔より今ちゅーしたい早霧ちゃんだよ?」
「……はぁ」
警告は、した。
だけどキス甘え状態になってしまった早霧は俺のキスをご所望だった。
何度も言うが、今、俺はしたくてもキスが出来ない。
その理由は、見せた方が早いと俺は諦めて部屋の扉を開ける。
――ガチャリ。
「え、えっとぉ、さぎりん……おじゃま、するね?」
「ゆ、ゆ、ゆゆゆ!? ゆ、ゆずるーんっ!?」
現れたのは、我らがボランティア部こと自分らしさ研究会会長のゆずるだった。




