002 婚約破棄②(ダイヤード18歳)
楽しんでいただけると幸いです。
【 】の中は日本語と考えてください。
パーティー会場の壁際で、ユークリッドたちを冷ややかな目で見つめる学園の制服を身にまとった男女がいた。
男性は、マクダーラン国王の長男だが母親が側室のため、継承権第二位のダイヤード・コール・カットイングだ。
女性のほうは、その婚約者であるブルーライツ侯爵令嬢のレミール・ブルーライツである。
「それにしても、ユークリッド殿下はあんなにも独善的な考えを持つ方だったでしょうか? 学園ではもう少しましな方だったように思えたのですが?」
「ハハッ。レミにしては直截的な物言いだね」
「あら。ダード様の好みに合わせましたのにお気に召しませんでしたか?」
レミールは扇を口元に当て、小首をかしげてみる。その拍子に綺麗にまとめられた淡い茶色の髪が揺れる。
「その仕草といい、どれだけ俺を【萌え】死にさせるつもりだ!」
ダイヤードは蹲りたい衝動をこらえ、左手で胸を押さえる。抱きしめたい気持ちを抑えることに必死でレミールの「もえ……?」という言葉は耳に入らなかった。
「フー。フー。…… ンンッ。ユークは俺が王太子に指名される可能性が高まったことで焦っているのだよ。今となってはユークの取り柄は剣術ぐらいしかないことが証明されてしまったからね。リューデック王国との繋がりよりカールデット公爵家との関係を強化しようと考えているのではないかな」
なんとか立て直したダイヤードはレミールの質問に答えた。
「まぁ。カールデット家も今では落ち目ではないですか。そのことをユークリッド殿下はご理解されてないのでしょうか?」
「それでも筆頭公爵の格は捨てたものじゃないさ。それに知識はあったとしても実感はしてないのだろう」
「私には理解しがたいですわね。ただ、『ドラゴンを意のままにする不幸』と言いますものね。私も気を付けないといけませんわ」
これは、ドラゴンを意のままに操っていたと思っていたら、ドラゴンの気まぐれだったため不幸になるという意味である。自分より身分や地位が上のものを思い通りに使おうと思うと痛い目にあうといった戒めの諺だ。
ここでレミールが使ったのは、ユークリッドが身の丈に合わず王家の威光を振りかざしたところで、何らかの沙汰が下るだろうといった皮肉だろう。
「何だか面白い話をしているね。僕も話に混ぜてくれないかな?」
ユークリッドとレミールの後ろから声をかけてきたのは、リューデック王国の王太子で、ナディア王女の兄であるカートニー・フル・ラガレットだ。
「これはカートニー王太子、ナディア王女の晴れ姿を見にいらしたのですか?」
ダイヤードとカートニーの話が続きそうだと判断したレミールはカーテシーのみで済ます。それに対してカートニーは微笑みながら頷いた。
「もちろん。僕がディーの為の卒業パーティーに参加しないなんてありえないよ。…… それにしても誰も注目してないだろうし、いつもの口調で構わないよ。ダード王子」
ダイヤードはレミールの首が微かに左右に揺れるのを確認した。
「ひ、久しぶりですねカート王太子。ですが流石に無理というものですよ。誰も注目して無いからこそ、こちらは注意をするべきです。
それにしても忍び込むだなんて相変わらず【シスコン】ですね。」
卒業パーティーは昼から卒業生と在校生や学園関係者のみで行い、その後休憩をはさんでドレスやタキシードを着てから保護者を交えての夜会に突入するのが通例だ。
握手を交わすダイヤードの横でレミールは「フフッ」と笑っている。
「【シスコン】の意味はいつになったら教えてくれるのかい? ディーへの僕の愛を表した言葉なら、最高なのだけどね」
「似たような意味なので安心してください」
軽く笑みを浮かべながら答えたダイヤードは、「最低だがな」と内心では思っていた。
対するカートニーも今までの会話から正確な意味をほぼ把握しており、何か意趣返しに使えないかと考えていた。
微笑みながら二人を見つめているレミールは、この【シスコン】問題がどのように発展していくのかワクワクしていた。
「さすがにナディア王女の姿を見るためだけに不法侵入を犯したわけじゃないのでしょう?」
「ダード王子が面白い舞台を催したと聞いたのでね。見物をしないと損だろう? 見た感じ僕たちにとっては喜劇かな」
「いったい誰に聞いたのでしょうかね。それにしても広間の真ん中で公演するとは…… 予想外でしたよ」
そう言うと横のレミールを目線だけで窺ってみた。
「まぁ。ダード様は私がお茶会に参加し始めの令嬢だとお思いですの? 心外ですわ」
レミールはわざとらしく傷ついた顔をする。男なら庇護欲を掻き立てられるだろう。
「クッ。…… お、俺がレミを疑うわけがないじゃないか。お、恐らくナディア王女の仕業だろう」
ダイヤードも例にもれず庇護欲を掻き立てられてしまう。
「本当に君たちは仲が良いね。政略結婚では珍しいよ」
「フフッ。ありがとうございますわ。ダード様の悪癖はいつでも私を楽しませてくれますの」
扇で口元を隠し、横目でダイヤードを見ながらレミールは返答する。
「……素の感情を隠しきれなくて悪かったな」
「ダードの粗雑な口調と豊かな表情が拝めるのが数少ない友人の証拠と思えば、僕にとっては嬉しい事柄ではあるけどね」
「ええ。へらへら笑って、締まりのない顔をされるよりかはましですわね」
ダイヤードの拗ねた表情を無視して二人は悪態をついた。
「これ以上は泣くぞ」
「ハハッ。これはすまない。…… おっと、そろそろ介入したほうがいいのではないかい? ディーの海よりも深い忍耐にも限度があるからね」
カートニーは目線で役者に目を向けた。
「だな。では三人で行きますか」
ダイヤードの口調を窘めるような目のレミールをエスコートしながら、カートニーと舞台の中央へと歩き始めた。
(ま、まさかこのシチュエーションって、乙女ゲームってやつか? え!? ここってゲームの世界なのか?)
レミ「私が登場ですわ!」
ダイ「おめでとう! レミの【小悪魔】っぷりが表現できてるといいな」
レミ「【小悪魔】?」
ダイ「可愛い! 会話では表現できない可愛さだ」
レミ「茶番はさておき、この世界は何語で話されているのですの?」
ダイ「それはもちろん、我が母国語に決まってるだろ」
レミ「カートニー王太子も我が国の言葉を話していたのですの?」
ダイ「そりゃー王太子だもん。周辺国の言葉くらい話せないと」
レミ「今後他国に言ったらどう表現しますの?」
ダイ「表現ってどういうこと?」
レミ「【 】は日本語で使って、『 』は慣用句で使いましわよね」
ダイ「……(汗)」
レミ「他の国の言葉は何かっこを使いますの?」
ダイ「…………た、他国には行かない!」




