70、 『ライク』じゃなくて『ラブ』
「えっ…… うそっ! 」
思わず腰が抜けて、 巻きかけのテープを放り出してペタリと座り込んだ。
「マジかよ…… お前、 これっぽっちもその可能性に思い至らなかったの? 」
コタローが心底あきれた顔で見つめてくる。
「えっ、 だって…… コタローが優しいのも面倒見がいいのも昔から変わらないし、 それはただの幼馴染としてだって……」
「うわっ、 お前の鈍感力、 半端ないな。 さすがの俺でもちょっと凹むわ。 …… まあ、 俺がそういう風にしちゃったんだろうけど…… 」
コタローが背筋を伸ばし、 居住まいを正した。
「ハナ、 もう一度言うぞ。 俺は、 お前のことが好きだ。 幼馴染や友達に向けての『ライク』じゃなくて、 女の子としてのハナに向けた『ラブ』の方だ。 マジだ、 分かったか、 コノヤロー」
指先でオデコをビシッと突かれて後ろにのけぞる。
ーー うそっ!
コタローが私のことを女の子として好き?!
いつから? なんで? どうやって?
だけど、 これは嘘や冗談じゃない。
だってコタローがこんなことで私に嘘を言うはずがないってことを、 私は知っているから。
「コタロー、 私…… 」
「ちょっと待って」
「えっ? 」
突かれたオデコを撫でながら口を開いたら、 言葉にする前に阻止された。
「返事はまだいい」
ーーえっ、 どういうこと?!
「俺さ、 今日の試合で優勝したんだよ」
「…… はあ」
「8月の全国大会に出るんだ」
「…… はあ? 」
急に話題が逸れて、 頭が追いつかない。
つまり、 だから、どういうこと?
「えっと…… つまり、 私の気持ちは聞きたくないと? 」
「いや、 それはもう分かった。 喜べ、 俺たちはめちゃくちゃ両想いだ。 俺の方がお前の1000倍は好きだけど、 それでも一応両想いには違いない」
「はぁああっ?! 」
ウルッてきてたのに、 涙がスンと引っ込んだ。
背中をバシッと思いっきり叩いて「フザけるな! 」って怒鳴ったら、 コタローは叩かれたくせにニコニコしながら、 足を崩して右膝を立てた。
巻きかけのテープをピリピリ剥がしながら、 チラッと視線だけ上げて言う。
「気持ちを確かめ合って、 両想いになってさ…… それはめちゃくちゃ嬉しいけど、 それだけじゃ何も変わらないだろ? 」
「えっ? 」
コタローが剥がしたテープを丸めてポイッと投げると、 それは綺麗な放物線を描いて、 ストッと花柄のゴミ箱に落ちて行った。
「ほら、 俺たちって生まれた時からずっと一緒で、 普通の恋人同士がする事なんて大抵済ませちゃってるじゃん」
「それは…… 」
確かにその通りだった。
出会って自己紹介をして意識して、 手を繋いでデートして、 お互いの家にも行くようになって家族にも会って……。
そういう一通りの事は、 意識する前に全部済ませてしまっている。
キスでさえも……だ。
「考えようによっては、 今まで通りで何も困らないんだよ。 むしろ『幼馴染』のポジションは終わりがないぶん居心地がいいくらいだろ? 違う? 」
「…… 違わない」
それは私も考えていた。
『カレカノ』にはフワフワと浮かれたイメージと同時に、 嫉妬や羨望といったドロドロしたイメージがセットでくっついている。 そして常に『終わり』がチラついている気がする。
拗れて別れたら、 もう元の関係には戻れない。 今までの喧嘩の比ではない。 それはやっぱり嫌だ、 怖い。
「これから俺たちに必要なのはさ、 周りの言動に惑わされない強い気持ちと、 前に進む覚悟だ」
「覚悟? 私たちが? 」
「うん。 もちろん俺も今まで以上に努力するけど、 ここからは主にハナの頑張りが必要になると思う」
「えっ、 私?! 」
コタローは「ほらな」と、 ちょっと困ったような顔で鼻の横を掻くと、 思い切ったように口を開いた。
「なあハナ、 お前、 俺と同じ高校に来いよ」
「えっ? 」
ーー ええっ?!
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