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69、 お前のことが好きなんだ


驚いた顔のコタローの手を引き、 ベッドサイドに腰掛けさせると、 私はその足元にひざまずく。



「私もね、 動画を見てちょっとだけ練習してみたの。 だけど、 使ってたのはこのテープじゃなかった。 やっぱり本人に聞かなきゃダメだね」


コタローから奪い取ったテープを両手に持ち、 コタローの足にあてがう。


「えっ、 お前、 練習って…… 」



恥ずかしくて顔を上げることが出来ない私は、 コタローの足を見つめたまま、 早口でまくしたてる。


「テープの持ち方はコレで合ってるよね? シワやたるみが出来ないように、 人差し指、 中指、 薬指を使って持つんでしょ? 違う? 」


「あっ、 ああ……正解。 テープのテンションが一定になるように引き出すんだけど…… 俺はその前に、 まずはテープの(かど)をハサミで丸く切って…… 」


「ええっ?! 私が見た動画では、 そんなこと言ってなかった! やっぱり最初からコタローに聞くべきだったな、 失敗」


「失敗って、 お前…… 」



頭上から、「ヤバいな…… ツンデレが過ぎるだろ……」というコタローの(つぶや)きが聞こえてきたけど、 私はそれを無視して、 コタローの足元に片膝(かたひざ)を立てて座る。


そこにコタローの右足を置くと、 改めてテープを両手で持った。



ーー あっ、 これはあの時の……。


これはいつの日か武道場で私が逃げ出した時の、コタローと色葉先輩の体勢。 こっそり観に行った試合会場で、 2人がふざけ合っていた時の体勢。 私はそれを見て……。



私が人差し指でコタローのふくらはぎをツーッとなぞると、 コタローは身体を()け反らせてピョンと足を浮かせた。


「おいっ、 ヤメロよ! 俺がこういうの苦手だって知ってんだろ! 」

「知ってるよ」


「そんじゃ、 やんなよ」

「他の(ひと)には簡単にさせるくせに」


「はあっ? そんなんさせるかよ! 」

「覚えてないならいいよ」


「ハアッ? 意味分かんね」



ーー 色葉先輩にはさせたじゃん。


そして私は、 それを見て……。



「ねえ、 コタロー」

「んっ? 」


私はコタローに言われた通り、 コイツの足首を90度に固定した状態でテープを巻いていく。



「私ね…… ずっと色葉先輩が(うらや)ましかった」


コタローの足がピクッと動いた。



「色葉先輩は美人で大人っぽくて、 剣道もテーピングも出来て……。 私の方がコタローと一緒にいたのに、 色葉先輩の方が、 私よりずっとコタローの近くにいるみたいに感じた。 色葉先輩の方がコタローの役に立ってて、 コタローに相応(ふさ)わしいって…… 」


「……。」



「私はコタローのために何もしてあげられなくて、 悔しくて…… そのくせ何の努力もせずに、 自分が変わろうともせずに……勝手に()ねてた」


「……。」



「コタロー、 私はね…… 色葉先輩に嫉妬(しっと)してたんだよ。 私はコタローを…… 」



そこまで言うと、 コタローの右足に手を置いたまま、 黙り込んだ。

耳も首筋も、 全身が熱でカッカしている。

顔を上げることが出来ない。



「うん…… 知ってた」


「ハハッ…… うん、 そうだよね。 コタローには全部お見通しだよね。 だって私ってば、 甘いもの禁止令が解除になっても黙ってて……。 私ばっかり意識しちゃって…… 馬鹿みたいでしょ? 」



手も膝も震えてきて、 なんだか泣きたくなってきた。 巻きかけのテープが、 手のひらで汗ばんでいく。



「意識すんのが遅いんだよ、 馬鹿ハナ」

「はあ? 人がせっかく真剣に…… 」


「お前は? 」

「へっ? 」



「お前は俺の気持ち、 お見通しじゃなかったの? 」


思わず顔を上げたら、 そこにはじっと見下ろすコタローの真剣な眼差(まなざ)しがあった。



「俺、 めちゃくちゃ頑張ってアピールしてたんだけど」

「え…… 」



「俺、 色葉先輩の告白を断ったよ」

「…… 知ってる」


「そっか…… すぐに噂になってたもんな。

「うん…… 」



「俺、 手を繋ぐのも、 貢ぎ物をするのも、 ハナだけだぜ」

「……。」


「キスだってさ…… ハナじゃなきゃしないよ」

「でっ、 でもアレは、 対価交換で! 」


「対価交換なんて、 ハナとキスする口実に決まってんじゃん。 そもそもハナのためじゃ無かったら、 だれがわざわざチョコなんか取ってくるかよ」


「あ…… 」



「じいちゃんが言ってたんだけどさ、 男は女を落とすためにせっせと(みつ)ぎ物をする生き物なんだってさ。 動物界でもさ、 (オス)が気に入った(メス)に求愛するとき、プレゼントをする習性があるんだよ。『婚姻贈呈(こんいんぞうてい)』って言って、 そういう求愛神経回路が組み込まれてるんだって」


「神経回路…… ? 」



「まあ、 つまり……さ」


コタローは勢いよくベッドから下りると、 私の横で正座をして、 (ひざ)に手を(そろ)えた。



「ハナ…… 俺は、 お前のことが好きなんだ」


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