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件は夢を選べない  作者: 弘井 まどり


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 なんでこんなことしようとしているのかと考えてしまいそうになる頭を、周囲を見渡すことで無理やり切り替える。

 集中して、学生や近所の人がいないかを見ていく。最後の最後で誰かに見つかるのは勘弁したいから念入りに。


 問題ないことを確認した後、先ほどと同様にまずは俺からフェンスをよじ登る。

 もう足をぶつけないように助走をつけず、おとなしく両手両足を使って向こう側へと降りたつ。


「あれ?かっこよく飛び越えないの?」


 俺に続いて同じようにフェンスを上っている秀輔がすかさず茶化してきた。

 にやにやと笑う顔が憎たらしい。


「うるさ」

「今度は木がないところでやろうね」

「もうやんねえよ」


 これ見よがしにウンザリした顔をつくる。


 結局のところ変にかっこつけず、何事もきちんとこなす方がなんだかんだかっこよくなるのだ。それを高校生の時に学んだはずなのに、度々疼く中二心に気が付いたら負けているのはなぜだろうか。

 とりあえず今度からは、やるのであれば練習した環境と同じようなところでだけにしようと心を決めた。これ以上の黒歴史は必要ない。


 秀輔がフェンスを越えてくるのを待って、再度校内のつくりを覚えるようにぐるりと目を配る。

 無事誰にも遭遇せずに戻ってこられたからか、どこか懐かしい風景だからか、ほのかに安心感が湧いてきた。


 あとは校門から堂々と出て行くだけだ。


「じゃあ帰ろっか」


 そう言いながら秀輔が歩き出す。

 その隣に並びながらスマホを取り出して、俺は乗換案内のページを開いた。


「おー、てかさ明日何時集合する?」


 先ほど高校のホームページで見た文化祭の情報によれば、一日目の公開時間は九時半から。

 それより前、なんなら生徒が準備を始める時間に間に合うように着いておくならば、普段大学の一限に行く時よりも早くに家を出る必要があるだろう。


 とはいえ、当日にはあまり大掛かりな準備はしないはずだ。大体九時ぐらいに学校につけばいいのではないだろうか。


「そうだね……八時ぐらい?」

「え、八?早くね?」


 到着時刻に九という数字を設定しようとしていた手を止める。

 前日にもこんなに大勢の生徒が残って準備をしているのに、当日もそんなに早く来るものなのか。そんな疑問を込めて秀輔を見る。


「高校って八時半とかからホームルームなかった?」

「あー!ホームルーム!そんなんあったな……」


 そういえば高校までは授業前に点呼や連絡事項の共有を行う時間があったことを思い出す。大学には存在しない時間のため、すっかり記憶から抜け落ちていた。

 久々に聞いたその単語に懐かしさを感じてテンションが上がる。


「俺のとこはみんな八時過ぎには学校きてたし、それにオプセレあるならそれぐらいじゃない?」

「超忘れてた……九時ぐらいからオプセレありそうだよな」

「ぽいよね」


 先ほど会話したばかりだというのに、オープニングセレモニーの存在もすっかり忘れていた。

 一日目の公開時間が二日目より少し遅いのは、これがあるからだろう。羽目を外しすぎないようにと事前に教師から釘を刺されるのだ。


 そしてオープニングセレモニーが終わったらすぐに開会宣言があり、一般客の入場が始まる。俺の高校がそうだったから、きっとここもそうだろう。都立ならどこも似たり寄ったりだと信じたい。

 ならば当日準備をするとすればそれより前、ホームルーム時間を利用して、というのが一番あり得そうだ。


「じゃー八時駅とか?」

「そうしよ」


 結局最初秀輔が言った通り、集合は駅に八時に落ち着いた。

 

 集合したらまず、なるべく生徒が通らないような道で学校まで向かう。そして先ほど侵入してきた場所から誰にも見つからないように校内に侵入をする。

 その後は、水道の傍の建物の陰に隠れて女子生徒が来るのを待つのだ。


 そんな明日の段取りを二人で確認しつつ、不自然にならないぐらいの早歩きで校内を突き進み、再びレンガの中庭の横を通る。

 そこにはまだたくさんの学生が残っており、楽しそうに準備をしていた。


 脇目でわたあめの屋台の正面にある屋台を確認する。


「……まじでやきそばじゃん」

「言ったでしょ」


 そこにあったのは秀輔が言った通り焼きそばの屋台だった。


 ひそめた声からでも秀輔の得意げな様子が伝わってくる。きっとしたり顔をしているのだろう。横を見なくても想像に容易い。


 そのまま足を進めていくと、次に視界に入ったのは道を教えてくれた男子生徒たちだ。

 彼らは足をペンキまみれにした状態でまだ駄弁っている。座り込んでいる人もいるではないか。

 ペンキが乾ききる前に足を洗った方がいいのではと、なぜかこちらがそわそわしてしまう。


「見つかんなかったわー!でもありがとう!」


 最後まで気を抜かず、彼らの横を通るときそう声をかけた。

 しかし返事を待つようなことはしない。


 足は止めずにそのまま通り過ぎる。けれども投げやりな感じではなく、あくまでフレンドリーに。

 笑顔で手を振っておくことも忘れない。

 なんでも悪い印象を残すより、いい印象を残した方が、あとから思い出されにくいのだとか。


 突然話しかけられた彼らはびっくりしたようにこちらを見た後、「え、あ、おつかれさまでーす」なんて言いながら手を振り返してくれる。

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