表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AGAPE  作者: 銀の鍵
第一章『怠惰』
9/13

第三話『愛は掲げられた』─1

 湿気(しけ)った土を掘り起こして、大きくぽっかりと空いた……寂しさのある穴をふたつ作る。実際にこれをするところを見たことは無かった。だから、なんとなく……それでも真剣に執り行う。

 穴に、ひとつずつ……亡骸を仕舞う。丁寧に、できる限り、やすらかになることを願って。

 ハミルと、ファルザクだ。

 死んだ二人を横にして、そして土を被せていく。この行為に、実際どんな明確な意味があって、どんな明確な意義があるのかは知らない。だからせめて、必死に、こころの底から……やっぱり、変な言い方になってしまうけれど、これ以上苦しまないことを願う。

 土で覆って、それから手を合わせる。

 わたしの横に膝をついたイシュマエルが手袋を外して、そしてその手から放つ光が二人の埋められた地面に染み込む。


「嫌な言い方に聞こえるかもしれないが、土壌の汚染防止だ。……呪いなんて、そんな戯言を生まないためのおまじないだと思ってくれればいい」


 その言葉が何をを意味するのか、埋葬と同じようによくは分からなかった。けれど、ともあれ死者を安らかに眠らせるための行為であるということだけは……分かったような気がする。

 ちょうど良い、ある程度の大きさのふたつの石に、ハミル……ファルザク……と、尖った小石で名を刻む。てのひらが少し痛むが、昨日の痛みに比べれば風に吹かれた程度であった。

 そんなわたしに、イシュマエルは言う。


「ハミルは……わかる。きみを犠牲にしようとしたが、彼女は人間で……何より被害者でもあった。だがファルザクはそうではないだろう」


 正論だった。実際、そういった論理を抜きにして、個人的感情だけで考えても……弔いたいとは思えなかった。けれど、それでも……。


「わたしの都合になっちゃうから……それだと」


 ほんとうに正しいことが何かは分からない。だから、できるならすべきだと、そう考えたのである。


「それにしても……」


 辺りを見渡す。

 ビルとビルの隙間。空は僅か……糸しか通らないくらいにしか見えない。

 硬い、灰色の地面の剥がれている、そんなやっと見つけたごくごくわずかな土のある場所。

 ふたり分の場所を見つけられただけでも幸運──不幸中の幸いであったが、この地獄はほんとう、どこまでも悪魔の手が入っている。

 別に、不愉快だとかは思わない。

 ただ、ほんとう……。


「よくもまぁ、こんなに造ったよね」


 なんて、独り言のようにイシュマエルへ語りかけた時だった。遠くの方から、騒がしい声々が聞こえてくる。

 悲鳴ではない。ただただ大勢が各々に話しているような……そんな音。そんな音の中で、最近聞いたことのある声が高く張り上げられているようにも感じられた。いつ……聞いた声だろう。地獄のなかで聞いた声であるのなら、択は随分絞られる。

 立ち上がり、声のする方を目指す。騒ぎの声は一体どんな事態によるものなのだろう。

 また、昨日のような……。


「ああいう──」


 なんて言い表せば良いのか、不快にならない言葉は見つからなかった。


「──パフォーマンスは、よくあるの?」

「まぁ、年に数回といったところだな。ああいうのはリスクが──知っての通り高いが、上手くいけば名が知れて、そしてマモンや三魔衆なんかの耳に届く可能性があるからな。それに、他の悪魔への牽制けんせいにもなる。ハイリスクハイリターンだ」


 口の掘られていないジャックオーランタン、その目から聞こえる言葉が並べ終わるのとちょうど時を同じくして、わたしたちは路地裏の出口に辿り着く。


「あ……ゴエティアの」


 メインストリート──昨日、わたしがイシュマエルと共に歩き、そしてハミルの手を引き駆けていたあの道。そこはたくさんの悪魔でごった返していた。

 人通りが多いという訳ではない。集まっているのだ。そんな悪魔たちの視線の先に立っているのが……フルフルだった。

 声高らかに何か語る──悪魔をなるべく多く集めようと呼びかけている? ようで、そんなフルフルの隣には影のように黒い巨漢(きょかん)のバルバトスが立っていた。


「あ」


 と、声が出たのはフルフルと目が合ったからだった。

そしてその瞬間、フルフルのもとからわたしのもとまで、悪魔たちの合間を小さな雷のような光が駆け抜けた。悪魔は驚き、結果小さく細い道が開く。


 ──来い。ということだろうか。


 明確な意図が分からないまま、間もなくつぶれそうなその道を、身をかがめて駆け抜ける。後ろからイシュマエルの制止する声が聞こえた。実際、しまったと思ったが──引き返すべきか迷ううちに、わたしは群衆の先頭に辿り着いていた。

 バルバトスがこちらを見ていたので小さく手を振る。すると同じように、バルバトスも手を振り返す。

 それを見ると、フルフルを満を持したように。


「さて——思ったより集まりましたね。こればかりはこの身分、影響力に感謝しなくちゃ……ねぇ? バルバトス」


 ……余談を挟んで、今度こそ彼は声を上げる。


「改めて自己紹介をします。私の名はフルフル。ゴエティア、フルフルの柱、その今代でございます」


フルフルは「こちらはバルバトス」と、バルバトスを指し、短く紹介を挟んでから語り始めた。


「本日語りますのは…まぁ、言ってしまえば新たな……いや、元々そんなものは無かったのですから、最初の政治プランについてです」


 小さな祭りのような温度感だった悪魔たちは、少し静かになる。

 聞いてやるからまず金よこせこの没落貴族──なんて、何のひねりもない低俗なヤジが飛ぶが、フルフルとバルバトスの首が声の方を向くとすぐに押し黙る。……まぁ、わたしもこのふたりにいきなり見つめられたら何も言えなくなるだろう。そもそもとして罵倒なんてしないけれど。


「まったく。そんな期待外れだなんて思わないでくださいよ。たしかにゴエティアというのは雑に金を配って、もう無い権威を示す──そんな、くだらないことをしていましたが、わたしがするのはそんなその場しのぎじゃない。いまから話すプランはみなさんにとってひっじょぉー……に、得になることですから」


 得──その言葉を聞いて悪魔たちの視線が一気にフルフルへ集まる。

 フルフルは嬉しそうに目を細めて、それから改めて、口を大きく開きこう言った。


「私が提案するプランというのは、まぁ……()()()の体制、とでも言いましょうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ