プロローグ
フェルン村に、神のような腕を持つ狩人がいるらしい。
そんな噂が王都に届いたのは、つい最近のことだった。
近年、ヴァルディア王国では奇妙な怪物による被害が各地で相次いでいる。
獅子の胴体。
山羊の頭。
そして蛇の尾。
異様な姿をしたその怪物は人や家畜を喰らい、時には村ひとつを壊滅寸前まで追い込んだ。
ある日突然現れるようになったその生物は、いつしか『キマイラ』と呼ばれるようになった。
王国は国民に山へ近づかないよう警告を出し、騎士団による討伐隊を何度も編成したが、結果は惨敗。
生還者すらほとんどいない。
そんな中、奇妙な噂だけが王都で広がり始める。
キマイラをいとも簡単に仕留める狩人がいるーー
名前も顔も分からない。
だが、生き延びた者たちは皆同じ証言を口にする。
『ローブを纏い、フードと仮面で顔を隠した狩人』だったと。
その言葉を聞いた王は命を下す。
「必ずその男を見つけ出し、討伐隊に加えるのだ!」
捜索隊は目撃情報を頼りに各地を駆け回った。
だが、その狩人は影すら掴ませなかった。
本当にそんな狩人は存在するのか。
それとも絶望した民が生み出した幻想なのか。
捜索隊は半ばその存在を疑い始めていた。
しかし彼らはまだ知らない。
その狩人が、王国最北の森で、今まさに弓を引いていることを。




