深い眠りの中あなたに祝福を
「へっ! 上玉が来たぜこりゃあ!!」
盗賊は歓喜の声を上げた。
エルフだけでなく、緑髪の人間の女もアジト入り口前にいたからだ。
「さっさと終わらせて里に帰りましょう」
髪をかき上げながら翠髪の女が笑う。
娼婦館でも見かけないほど美しく、盗賊のボスは、本能を荒ぶらせて下舐めずりした。
「……イーニ。 あの魔術師の男タマキのスマホを持ってるわ回収しましょう」
「あん? 何ぶつぶつ言ってんだ? エルフ」
盗賊のボスはエルフの目線が気になり、首を傾げたが瞬きする間に地面には盗賊のボスの部下達の死体が転がっていた。
「はっ?」
「残念だけど時間がないの死んで。 ウィンド」
盗賊のボスは何が起きたのかも分からずに首を風の魔法で跳ねられて死んだ。
「さてタマキのスマホを回収して金品も奪って帰りましょう」
「そうねイーニ」
イーニは、タマキのスマホを胸元に入れ、盗賊に背を向けて歩く。
エールニも、遺体を埋めるべく風魔法で地面を抉りそのまま盗賊三十名の遺体を埋めた。
「……拷問はしなくていいの? イーニ」
「まぁ。 末端だから何も知らないと思うから今回は証拠隠滅だけで」
イーニはタマキのスマホの録音機能を見て映像を確認した。 どうやらタマキを本当に商品としてしか見ておらず、金を稼ぐための手段として行動していたらしい。
「……ゲスね」
イーニは、眉を顰めて盗賊のボスの遺体を睨みつけた。
「イーニ。 シャヤから連絡。 タマキが死亡したけど蘇生したって」
「……そう。 誰にやられたの?」
イーニは怒りを抑えて、エールニに目線を向ける。
「……それが異世界転移者らしいのよ」
「……転移者ね。 厄介だわ。 タツヤ様やジュンタ様もそうだけど転移者のスキルや成長速度そして既にある知識はバグのようなものね。 でも今は遺体を放置して子供達の安全確保が優先。 エールニ帰るわよ」
「はい」
イーニは、状況を分析しつつエールニに指示を出す。 自身の迅速な判断ミスを自覚しながらイーニはナナシノ国へ帰還した。
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「体が熱い」
体の熱を感じてタマキは目を覚ました。
「ここは?」
タマキは、熱で視界がぼやけながら天井を見た。
「おはようタマキ。 まだゆっくりしていて」
視線を横に向けると、シャヤの顔が見えた。 冷静な顔が少し崩れて眉を顰めている。 どうやらタマキの事を心配しているらしい。
「……シャヤ。 ごめんなさい私負けちゃた」
タマキは、自身が情けなくて涙が出た。 これが夢であっても現実であっても謝罪をしないと気が済まなかった。
「……タマキ。 今は体を治して。 死んで復活した事による筋力と骨の低下。 さらにはスキルが本格的に覚醒して定着しようとしてるから一年は寝たきり」
「……えっ?」
タマキは、目をぱちぱちとして目を見開いた。
「……私、生きてる?」
タマキは、生きている現実を理解出来なかった。確かに自身は死んだ筈だ。 あのオノ・マナブという転移者によって殴られて死んだ筈なのだ。
「……ねぇシャヤ。 私生きているの? 夢じゃない?」
「うん、大丈夫。 タマキは生きてる」
「そうか。 そうなんだね。 よかった」
「うん。 だから今は体を休んで」
そう言ってシャヤは、タマキの額に乗せたタオルの水を替えながら笑った。
「……うんおやすみシャヤ」
「うん、おやすみなさいタマキ」
タマキは、シャヤに頭を撫でられながら眠りについた。
どこからか声が響いた。
『……対象タマキ。 スキル本格覚醒を煉獄は確認。 タマキに努力真面目ーマジメー。 本格覚醒を促します。 これにより技術補正と学習補正を付与し対象の進化を確認。 おめでとうございます本格覚醒です。 より良い人生をお送り下さい。 貴方を心より祝福します』
タマキはそんな声を聞きながら深い眠りについた。




