表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】スマホを持たない二人は電話ボックスで出逢った -グラハム・ベルの功罪-  作者: ネームレス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/72

第68話 6月29日 月曜日①

 今日、一日僕は抜け殻のように過ごした。

 学校に行ったけれどどんな授業をしたのかぜんぜん覚えていない。

 菊池さんに電話する予定もないし電話ボックスにも行かなかった。

 それでも彼女は今日も午前中にあの電話ボックスにいたんじゃないかという希望を創る(・・)

 

 こんな日にアルバイトがあるのは救いだ。

 家で独りは耐えられそうにない。

 独りには慣れていたはずなのに、孤独というものの怖さを初めて知った。


 そもそもがこんなこと(・・・・・)で心が乱れることなんてなかったのに。

 大納言でのアルバイトの空き時間に秋山さんに訊いてみる。


 「アイドルが出演()てるドラマってありますよね?」

 

 「そりゃ。山のようにあるわよ。それがどうかしたの?」

 

 「たとえばそのドラマで女の娘が(うずくま)って泣いていたらそのあと展開ってどうなりますか?」

 

 「そんなの簡単よ。うしろから優しくガバっ、よ」

 

 ガバっとは?

 

 「抱きしめてそのまま俺がいるからでしょ? もう、拓海くんなに言わせんの? Ludeの漣もついにドラマ決定だし。全国でイベントもやってるしね~」

 

 僕はぜんぶの選択を間違えたみたいだ。

 

 「だってそうでしょ~。かわいい女の娘が傷ついて泣いてるんでしょ? もう、そうするしかないでしょ。他にやることなんてないよね? そしてここぞというときにLudeの曲が流れてきて次回衝撃の展開が、よ」


 「え?」


 衝撃の展開?


 「さらにCMをはさんで次回予告を放送。待ち合わせの途中でヒロインが交通事故に遭って漣が病院に駆けつけるシーンで終わり。このパターンで来週まで引っ張るのよ」


 秋山さんの言うストーリーはたしかに衝撃かもしれない。

 

 「へ~」

 

 それが正しい主人公の行動パターンなんだ。

 

 「拓海くん、なんか参考になった? まあ、拓海くんも高校生だもんね。大人になってから考えるとそういう心が疼くような悩みでさえ楽しいものなのよ。心がザワザワするかんじね」


 ザワザワするかんじ、か。 

 

 「そうなんですか? でもありがとうございます。参考になりました。あの、お礼です」

 

 僕は「ラーメン 大納言」の刺繍の入った黒いエプロンのポケットにしまっておいたLudeの漣がプロデュースした試供品のシャンプーとリンスのセットを取り出した。

 

 「えー!! た、拓海くんこれどうしたの?」

 

 「昨日偶然ドラッグストアでもらったんですよ」

 

 「あ、ありがとう!! 18日にK市のドラッグストアに行ったときはまだキャンペーン前だったからね。ちょー嬉しい!! これじつは中に漣のステッカーも入ってるのよ」

 

 ステッカー入り? ああ、説明書と一緒に入ってるのか。

 でも僕のほうが今まで秋山さんにどれだけ助けられたことか。

 秋山さんは、お返しと言って今日はグミをふたつくれた。

 僕もいつか秋山さんになにかプレゼントをあげないと、と思っていたから良かった。

 こんなに喜んでる秋山さんは初めてかもしれない。

 


 アルバイトから帰ってきて夜の十時を経過()ぎたころ、僕の人生において久しぶりの衝撃の展開が待っていた。

 僕はいまそれに見入っている。

 画面のなかで顔を隠そうともせずカメラに向かってピースしている男の動きが止まった。


 止まった画像がそのまま画面いっぱいに拡大された。

 男を示すであろうテロップも出ている。


 『東京都 職業不詳 小安(こやす)(まこと) 容疑者 (34)』


 ――本日、警視庁が個人ブログ、このラーメンがヤバいの運営者である小安(こやす)(まこと)容疑者、三十四歳を恐喝の容疑で逮捕しました。このラーメンがヤバい、通称”このヤバ”は小安容疑者が全国のラーメンを食べ歩き独自の視点で評価するブログで、一日のアクセス数が数万もある有名なグルメブログでした。”このヤバ”はラーメン好きの読者に人気で、このブログを参考にしてラーメン店に足を運ぶ人も多かったということです。


 あのときブログを観たけどアクセス数だけじゃなく、SNSでの拡散力もすごかった。


 ――小安容疑者は広告料名目で飲食店に金銭を要求し要求に応じない場合には店の評価を下げていました。小安容疑者の関与が疑われる恐喝事件は少なくとも全国で百件以上にののぼるとみられ、警視庁および各道府県警(どうふけんけい)は全国各地の飲食店から通報を受け約二年の年月をかけて捜査をすすめてきました。そして本日の午後、容疑が固まったとして小安容疑者を逮捕しました。


 大将はあれをきっぱり断っていた。

 店の評価は下がったけど、大将は信念を貫いた。

 あれが正しい判断だったんだ。


 ――全国各地で被害があるなか警視庁主導で小安容疑者を逮捕したのはドメイン取得時の住所が東京都だったためとしております。小安容疑者は恐喝容疑について全面的に否認しており。警視庁は余罪を含めてひきつづき捜査する方針です。


 警察は何もしてないわけじゃないんだ。

 ものすごい権力(ちから)を持っているぶん時間をかけて捜査をしなくちゃいけない。

 

 あのブログはSSL化もされていたし、たしかにオリジナルドメインで運営していた。

 警視庁はきっとブログのホスティング会社まで捜査しているはずだ。

 それにいくつかのアフィリエイトを載せていたからASPまで足を運んでいるかもしれない。


 金の流れを調べるのとは別に、被害に遭った飲食店に聞き込みにいったもする。

 今回の捜査だって二年の時間を費やしている。

 それくらい慎重に時間をかけて、かけて、かけて、ようやく逮捕にいたる。


 ”このヤバ”の運営者だって二年も自由に動けていれば、まさか自分が逮捕されるなんて思ってなっかたんじゃないか?


 そうだ。

 僕が苛立っていたのは事件発生から逮捕にいたるまでの時間だ。

 事件解決までの即時性。

 被害に遭ってから逮捕されるまで時間がかかりすぎること。 

 半面、彼女のお父さんのように「受け子」ならすぐに現行犯逮捕できてしまうというジレンマがずっとあった。

 

 日本の首都、東京都を管轄しているのがいわゆる「警視庁(けいしちょう)」で、「東京都警察(とうきょうとけいさつ)」は存在していない。

 京都と大阪は「京都府警察」と「大阪府警察」、ほかは各県警。

 青森なら「青森県警察」、秋田なら「秋田県警察」、岩手なら「岩手県警察」のように県プラス警察の名称になる。

 

 ただ北海道だけはあまりに広大だから札幌の周辺を管轄する「北海道警察」の他に四つ「北海道警察函館方面本部」「北海道警察旭川方面本部」「北海道警察北見方面本部」「北海道警察釧路方面本部」がある。


 梅木さんも北海道からも警視庁に情報提供していてくれたかもしれない。

 全国各地に被害者がいるなら警視庁以外の道警、府警、県警の四十六の警察が警視庁に協力していた可能性もある。


 たしかに警察の動きによっては零れ落ちてしまう被害者もいるけど、今日(いま)みたいにいっきに救われる人もいる。

 このニュースに胸をなでおろしている人は日本に大勢いるはずだ。


 僕はどうして、うちの母さんを被害に遭わせた犯人の上層部がもう永遠に逮捕されないと思ってしまったんだろう。


 全国各地で被害者がいる以上やがて全国のどこかの警察が「03」に辿りつく日がくるかもしれないのに。

 日本にある四十七都道府県の警察はみんな味方なんだ。

 母さんの(あたま)の風邪が治ると同時に「03」一派がまとめて逮捕される未来だってあるはず。


 ――なお、全国の警察を管理する国家公安員会と警察庁は連名で、スマートフォンやIT機器を介し未成年が巻き込まれる事件や、インターネット経由での振り込め詐欺、投資詐欺、ロマンス詐欺、フィッシィング詐欺、なりすまし詐欺のようなサイバー犯罪の撲滅に向けいっそうの努力を惜しまないという共同声明を発表しております。


 瓦礫に埋まってしまった僕の人生にも一筋の光が見えたかもしれない。

 いち市民じゃなんの力にならなくても、警察にならできることがあるんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ