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【完結】スマホを持たない二人は電話ボックスで出逢った -グラハム・ベルの功罪-  作者: ネームレス


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第66話 6月28日 日曜日③

 彼女は目を大きくしたまま止まってしまった。

 

 「よく聞いてね。うちの母さんに届いたはがきの消印は九州にあるM市からなんだ。そしてそのはがきが投函された日はきみときみのお父さんがパチンコ屋の新規オープンイベントに行ってた日。郵便はがきの消印にはきちんと意味があって消印の一段目は郵便物を受けた年で、二段目は月日、三段目が郵便局が郵便を受け取った時間帯のことなんだ。うちに届いたはがきの三段目には9と12という消印が押されていた。だからうちに届いたはがきは×月×日の日曜日に九州のM市に朝九時から昼十二時に郵便物を回収する郵便ポストから投函()されたか、その時間帯に誰かが郵便局に直接持ち込んだものってことになる。詐欺のはがきである以上おそらく対面で郵便は出さないだろうから持ち込みの線は消してもいい。×月×日の日曜日、きみは差し入れすることできみのお父さんの姿を朝昼晩の一定間隔で目撃していた。だからきみのお父さんがパチンコの合間に九州まで行ってはがきを投函()してくるなんてことは物理的に不可能なんだよ。その前日の土曜日に九州のM市のポストからはがきを投函()してもはがきの消印が日曜日の9から12になる場合もあるけど、その条件を満たすためにはきみのお父さんが土曜日の十七時以降に九州のM市のどこかのポストからはがきを投函()していなきゃいけない」

 

 「……え、なに、わかんない」

 

 「その土曜日っていうのはきみが蕎麦をデリバリーしたって言ってた日のこと。きみのお父さんが蕎麦を持った写真がちゃんときみのスマホに残っていた。画像のプロパティでも確認してみたけど、それは間違いなく土曜日の午後五時二十三分に撮られたものだった。その時間にU町いたってことはそれ以降の時間にこのU町からどんな乗り物を乗り継いでも九州まで行くことはできない。九州に行けない以上、M市のポストからはがきを投函()すこともできない。日曜日だって、きみときみのお父さんはパチンコ屋の前で写真を撮ってたよね。その写真の端にも日付の入ったパチンコ屋ののぼり旗が映り込んでいた。その写真のプロパティも見てみたけどちゃんと×月×日の日曜日に撮られた写真だった。時間も正確に十二時三十八分という時刻が記録されていた。それこそがきみのお父さんがうちの母さんにはがきを投函()してない現場不在証明(アリバイ)になるんだ」

 

 「ど、どういうこと」

 

 彼女は言葉につまっている。

 当然だ。

 きみの世界が百八十度回転したんだから。


 「きみのお父さんがはがきを投函()してないイコールうちに届いたはがきはきみのお父さんが投函()したものじゃないってこと」

 

 「えっと、あの、土曜日はお父さんが二日酔いだからさっぱりした物が食べたいって言って。だからお蕎麦にして。蕎麦と一緒にお父さんを撮ってどうするのなんて笑ってさ。日曜日のお昼は、私がお父さんに差し入れを持って行って、それでふだんなら絶対言わないのに二人で写真を撮りたいなんて言って」


 相当混乱してる。

 無理もない。


 「そこで疑問が湧くよね? きみの家にあったあの名簿やはがきはなんだったのかって? じっさいにお父さんは受け子で逮捕もされてるし」

 

 彼女はなにも言わずに、いや、言えずにこくこくと何度もうなずいた。

 

 「つぎからは僕の仮説なんだけど。詐欺グループはよく県を跨いで捜査を撹乱することがある。北海道は十四の総合振興居と振興局に分かれていて、ある意味振興局が<県>のような役目を果たしている。このU町とS町も振興局が違っているから他県から他県に郵便を送るようなもの。でも詐欺の実行グループははがきを送る直前に僕の母さんと高額求人に応募してきたきみのお父さんが目と鼻の先に住んでいることに気づいたと思うんだ。だからそれを警戒して急遽はがきを投函する割り当てを変えざるおえなかった。さらに犯人側がこのことを知っていたかどうかはわからないけど北海道の警察は方面本部という五つの管轄に分かれてる。要は振興局が違っていても警察の捜査エリアが重複する地域があるんだ。U町もS町もそれこそK市だって同じ方面本部の管轄になる。U町とS町で起こった詐欺事件なら地元警察として隣町同士ですぐに合同捜査ができてしまう。結論を言うと僕の家に届いたはがきは九州のM市で誰かが投函()したもので、きみのお父さんが(うち)投函()したものじゃないんだ」


 「お父さんは……無実」

 

 「すくなくとも僕の家に届いたはがきに関してはね。きみのお父さんも自分自身で何をやって何をやっていないのかよくわかってないんじゃないかな?」

 

 彼女はそのあと無言になってその場にしゃがみ込んでしまった。

 こんなときどうすればいいんだろう? あいにく僕にはこういった場合の選択肢を持ち合わせていない。

 しばらくそっとしておく、という考えだけがゆいいつ頭に浮かんできた。

 

 「すこし席外してるね」

 

 彼女はなにも答えなかった。

 僕はひとりで歩いてきた道を引き返す。


 こういうことに経験豊富な人なら上手くなにかできるんだろうけど……。

 女の娘があんなふうになってしまった場合どうするのが正解なんだろう? 



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