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【完結済】スマホを持たない二人は電話ボックスで出逢った -グラハム・ベルの功罪-  作者: ネームレス


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第63話 6月27日 土曜日①

 昨日、家に帰ってきからもずっと心に引っかかっていたものがある。

 それはやっぱり彼女のスマホで見た何か、だ。

 朝起きても、いまだにそれがなんなのかわからない。

 確信はないけど、じっさいに彼女が持つスマホの画像を見ればわかるはず。

 

 感覚的だけど僕は間違い探しの「間違い」の部分を知っているのに「元の絵」を忘れてしまったようなかんじ……。

 部屋の中に音がほしくてテレビをつけた。

 テレビをつけたタイミングはちょうど番組の合間のCMだった。

 

 ――本日、出玉、大解放!! 土日はご家族揃ってご来店くださーーーーい!!


 高いテンションがウリのお笑い芸人が大袈裟に走り回っていた。

 あ!?

 僕はこの派手で賑やかな演出であることを思い出した。

 そうだ!!

 僕は間違い探しの「元の絵」を持っている。


 それは僕のすぐ近く、そうこの家の中にある|なきゃないでなんとかなる物《・・・・・・・・・・・・・》だ。

 

 もう二度と触ることはないと思っていたスマホ本体と充電器を机の引き出しの奥から取り出してきて充電器をコンセントに挿した。

 スマホの横にある電源ボタンを長押しする。


 スマホはジワジワと息を吹き返すようにひび割れた液晶に光を宿しはじめた。

 光のコントラストで真っ黒な画面にある蜘蛛の巣状のヒビが際立って見える。

 まるでそれが初めからのデザインだったように液晶に馴染んでいた。

 あのときの僕にはそれがゆいいつできる「03」への対抗だった。


 スマホのメーカーのロゴが画面いっぱいに映し出された。

 久しぶりに起動したスマホの中でいくつかのアプリが立ち上がっていく。

 筐体(デバイス)の中で止まっていたデジタルたちが生き返り僕のタップを待っている。


 ある程度スマホの操作ができるようになった段階で画面をタップして画像のフォルダを開いた。


 フォルダの中にある画像一枚だけ選んでそれを真横にスライドさせていく。

 これか。

 見覚えがあったのはこれだ。

 やっぱり潜在的に僕の頭のなかにあったんだ。

 画像をピンチアウトして拡大させる。

 僕は蜘蛛の巣状の液晶に目を凝らした。

 これって……。


◇


 僕が電話ボックスに行くと彼女はもういた。

 彼女がくるより前に僕のほうが早く電話ボックスにいたい、と思ってたのに彼女のほうが先にきていた。

 心が躍る。

 彼女が電話ボックスの中に先に入って僕は背中で電話ボックスのドアを押さえた。


 「拓海くん。はい、スマホ」

 

 「うん。ありがとう」

 

 彼女はもう僕に白い封筒を持ってこないしなにかを隠してる素振りもない。

 スマホだって無防備に手渡してくれた。

 

 彼女は昨日から僕のことを「拓海くん」と呼んでくる。

 反対に僕は今日まだ彼女のことを「山村さん」と呼んでいない。

 僕も「山村さん」と呼んでみようとするけれど、やっぱり意識して呼べない。

 

 一日開くと呼べなくなってしまった。

 昨日はつい流れで呼べたってことなのかもしれない。


 僕は彼女に借りたスマホの画面をタップした。

 画像の入っているフォルダを教えてもらい、さらにそこをタップしてフォルダの中身を見てみる。

 僕は連番になっている画像をつぎつぎにスライドさせた。

 

 「×月×日の土曜日ってきみのお父さんなにしてたか覚えてる?」


 彼女は一瞬だけ固まったけれどまたふつうに戻った。

 ここでまた僕にお父さんのことを訊かれるとは思ってなかったんだろう。


 「う~んと。土曜日でしょ。ちょっと待ってね」


 彼女は手帳を出してペラペラと捲りはじめた。

 ……その手帳、僕がまた何かを訊くかもしれないから持ってきてくれた、ってことは僕の質問は想定内か。

 ならいま表情は無意識での反応。

 身構えさせてしまったかも。

 

 僕は彼女の傷口に、また同じ形の傷をつけたのかもしれない。


 「その日は前日夜遅くまでお酒飲んでたはずだからほぼ半日寝てたよ。そう。そう。だから昼夜兼用でデリバリーのお蕎麦を頼んだの。いま思い返してみてもお父さんってほんとダメ人間だね」


 彼女は満面の笑みをみせた。

 また偽物の笑顔を作らせてしまった。

 お蕎麦、蕎麦ってことはあの蕎麦を持った写真のことか? ならわかりやすい。

 

 「そう。じゃあの翌日の日曜日は?」


 「日曜、日曜日はパチンコ屋さんかな?」

 

 「そっか」

 

 パチンコ屋の開店イベントか。

 僕はスマホの中にあった名簿画像を見た。

 

 「うん、間違いない。そうだよ。あの日はお父さん朝からずっとパチンコ屋さんに行ってた。昼に私がコンビニで買ったパンを持って行って夕方もサンドイッチを持って行ったんだもん。お店が閉まるまで一日中パチンコ屋さんにいたよ」

 

 「新規オープンの日だもんね? ちなみにお父さんは勝った?」

 

 僕は画像の中に母さんに届いたはがきと似ている(・・・・)画像を見つけた。

 母さんに届いたはがきは、菊池さんのアドバイスで今後事件の進展があったときのために僕は自分のスマホに写真として保存しておいた。

 それが朝に見返した「元の絵」だ。


 あのときは小さくてあまりよく見えなかったから今度はこのスマホの画面をピンチアウトで拡大してみる。

 レイアウトや文章、言い回しの文言は同じ……。

 僕はさらに画像をスライドさせた。


 違和感を覚えたのはこれか。

 僕はまたその画像をピンチアウトで大きくしてから画像の脇で見切れているものをさらに拡大した。

 元のサイズに戻して画像のプロパティを確認する。

 

 「ううん。うちのお父さんはなんでも負けだよ」

 

 毒親でもきっと親なんだろうな。

 彼女はやっぱり心の底からは父親を憎めないって顔をしている。

 

 彼女と彼女のお父さんが一緒に写っているこの写真も第三者(だれか)に撮ってもらったものだろう。

 僕の家は母子家庭で彼女の家は父子家庭。

 似た環境だ。


 ……なんのために蕎麦の写真を撮ったのかわからないけど。

 ただ食べ物を投稿しかったのかもしれないし、あるいは何気ない家族写真だったのかもしれないか。

 

 あった、これだ。

 蕎麦の器を持った画像、他にも同じ構図の写真が数枚あった。

 日常の記録だったのかな? この画像のプロパティもチェックする。


 「そっか。じゃあきみは勝たないとね?」

 

 「なにに?」

 

 ”過去”にだよ。

 

 「なんだろうね。なんとなく言ってみた」

 

 「そういえばさ。111に電話するのってどうなったの?」

 

 やっぱりあれは約束だったんだ。

 けどきみが勝手に電話ボックスにこなくなったんだけど。

 

 「今度、都合のいいときにかけてみようよ」

 

 「わかったよ。ねえ、拓海くん明日、日曜日だからU町に行くのどう? 都合悪い?」

 

 「僕は土日アルバイト休みだからいいよ」 

 

 「そっか、じゃあ明日ね」

 

 そこから僕は彼女にスマホを返却(かえ)し、明日何時ごろにU町に行くのかのを相談をした。

 

 「あの。前もって言っておくけど、僕は明日きみに大事なことを言うつもり」

 

 「えっ?!」

 

 彼女はうしし、みたいに笑った。

 

 「心の準備をしておいてほしい」

 

 「それさきに言っちゃうかな~?」

 

 僕らは明日乗るバスの時間を確認するためふたりで道に駅に向かった。

 彼女は弾むように道を歩いている。

 これは空元気(からげんき)なのかな?


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