第55話 6月24日 水曜日②
「あの澪さんのアルバイト先ってどこですか?」
「ああコインランドリーの裏方作業だよ。そこのコインランドリーは会社がはじめたんでね」
最近S町でも飲食店やなんかの事業をはじめる人も多い。
「なるほど」
そこのコインランドリーは紺野さんが経営してたのか。
たしかコインランドリーを経営してるのは町外れの建設会社の人だったはず。
じゃあ紺野さんは建設会社の社長さん? 家の大きさとか骨董品の雰囲気とかまさにそんな感じだけど。
会社は町外れにあっても家は町中にあるんだ。
でもここで問題なのは彼女がどうして叔母さんに毎日四時間ぶんの給料を僕の家のポストに入れるように頼んだのか、だ。
僕と彼女のあいだでなにかそうなるような契機ってあったっけ? えーと……僕の家のポストに白い封筒が入るようになった前日を思い出すんだ。
そう、あの日彼女は僕の名前を知ったんだ? でも前から僕を知っていたと言っていた。
僕が母さんの子どもだと知ったからか? だからアルバイトのお金をぜんぶ僕に渡そうと考えた。
だとしても彼女がそこまでして僕の母さんのために日当を使う理由はなんだろう。
「きみが警察を呼んでくれたんだね。ありがとう」
僕が考えごとをしていると紺野さんは僕の耳を疑うようなことを言った。
「え? ど、どうしてそれを?」
「ああ、コインランドリーのなかにある監視カメラさ」
なるほど納得した。
こんな時代だ。
洗濯物を盗んでいく人だっているかもしれない。
コインランドリーを自由に開放なんてできないか。
それにコインランドリーを経営してるのが紺野さんなら、そのカメラの映像を確認するのも紺野さん。
だから彼女は僕がコインランドリーの公衆電話を使って警察に電話したことを知ってたんだ。
ようやく謎が解けた。
僕がもっと強くて僕にもっと勇気があったなら警察なんかに頼らずあの場を仲裁できたかもしれない。
悔しいな無力っていうのは……。
僕なんかじゃ誰も助けられない。
「というか、あのあと澪さんはどうなったんですか?」
「あの女の子たちは警察に連れていかれて警察署で事情を訊かれたみたいだよ」
「そのあとはどうなったんですか?」
「まあ、未成年でもあるし。澪自身も被害届は出さないっていうし。厳重注意で終わり。あの事件を対応してくれた、ええーと、そう梅木さんって警察のかたも人一倍動いてくれてね」
「そうですか」
大納言で秋山さんが言ってたな梅木って警察の人は金融犯罪の担当。
恐喝もその犯罪に含まれるのか? そんな人一倍動いてくれるならうちの母さんのときももっとやってくれたら良かったのに。
まあ警察にとってはその日起こった小さなひとつの詐欺事件だ。
「それにあの三人の中には止むに止まれない事情の娘もいてね。まあ、諸事情ってやつだね」
彼女の「諸事情」はこの人の口癖が移ったのかもしれない。
「そうですか。わかりました。やっぱり澪さんに直接会って訊きます」
「ああ、そうしてくれるとありがたい」
「はい。その前に澪さんにひとつ伝言をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「うん。かまわないよ」
「明日、学校が終わったあとに学習センターに行くのでそこで待っていてほしいと……」
「わかった。ちゃんと伝えておくよ」
「お願いします。あ、ちなみに澪さんのアルバイトのシフトは?」
「そこはこっちで調整するから心配しなくていいよ」
「わかりました。お願いします」
僕は喉が乾いてきたので湯飲みを手にとった。
やっぱり手にぴったりフィットして持ちやすい。
そのまま温くなってしまったお茶を飲んでからお礼を言って紺野さんの家を出た。
今日、僕は電話ボックスに寄らず昨日菊池さんに言った通り電話をしなかった。
◇
家ですこし休憩してからアルバイトに行った。
大将に明日のアルバイトは休みにしてもらうように言った。
秋山さんもブログ効果が薄れてきているから休んでもいいと言ってくれた。
秋山さんは――気にしない、気にしないといって一口で食べられるイチゴチョコをくれた。
優しいな。
秋山さんとなにげない会話をつづける。
秋山さんが6月18日に店を休んだのは持病のある家族の付き添いでK市に行っていたからだった。
Ludeの動きも活発化してきて全国展開している大手ドラグストアでタイアップキャンペーンをやるらしい。
秋山さんの家族の処方箋はK市のそのドラッグストアに出したから、そこで得た情報だそうだ。
Ludeでいちばん人気の「漣」という人のドラマデビューも決まって今日の秋山さんはとくに上機嫌だった。
Ludeのデビューも近いかもしれない。
僕は仕込み中の大将に視線を移した。
……大将ならきっとブログどうのこうの関係なく店が忙しかったとしても僕に休みをくれただろうな。
「拓海。人は助け合いだ」
大将の言葉に僕はまた救われた。
秋山さんにも、だ。





