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たとえ破滅するとしても婚約者殿とだけは離れたくない。だから、遅れてきた悪役令嬢、あんたは黙っててくれないか?  作者: 桜枕
第2章

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第12話 お揃いにしてみた

 久々のデートで浮かれている俺は楽しそうに話すリューテシアに相槌を打つだけでも幸せだった。

 だから、更なる幸せを求めようとは思いもしなかった。


「ウィル様、実はこういう物をよく見かけるようになりまして」


 リューテシアが足を止めたのは子育てグッズや子供服を扱う店の前だった。


 ショーウィンドウから店内を覗くリューテシアのキラキラした瞳が強く訴えかけてくる。


「子供……か」


 そういえば、幼い頃のリューテシアは結婚後は子沢山になると言っていたな。


「リュシーは子供が欲しいの?」


「はい」


 即答するリューテシアの目は真剣そのものだ。


「ウィル様はいずれブルブラック伯爵家の跡を継がれるわけですから、わたしにはお世継ぎを生む役目があります」


 その通りなのかもしれないけれど、なんとも納得しにくい理由だった。

 それだと別に俺の妻がリューテシアである必要がないみたいな言い方じゃないか。


 反論しようとした矢先、リューテシアはわずかに目を細めて悪戯っぽく笑った。


「というのは建前で、わたしがウィル様の子を欲しいだけなのです」


 好き。


「それは俺も同じ気持ちだよ。でも、リュシーの体に負担をかけるのは不本意というか」


「それは仕方のないことです。それにすぐに子宝に恵まれるわけではありませんからね」


 それもその通りだ。


 リューテシアは子供用品の店を通り過ぎて行ってしまった。

 焦る問題ではないのだろうが、やっぱり話題になったからには意識してしまう。


 続いてリューテシアが足を止めたのは雑貨店。

 さっきの店よりも強い興味を示していたから中へ促すと子供のような笑顔で入店した。


 店内に所狭しと並べられた食器たちはどれもが一点もので目移りしてしまう。


「何か欲しいものがあるの?」


「普段使いできるマグカップがあれば、と」


 そう言いながら陳列棚を右から左へ見て回るリューテシア。


 今の我が家にある食器はブルブラック家とファンドミーユ家から適当に持ってきた物ばかりだ。

 この二年間、何不自由なく使っていたから俺は新しい物が欲しいと思ったことはなかった。


「これ可愛いです。ウィル様みたいで」


 彼女が手に取ったのは、猫の描かれたマグカップだった。

 一つは真っ白なカップ、もう一つは黒色のカップ。職人が一つ一つ手作りしているということで温かみのある陶器だった。


「どっちにしようかな。やっぱり黒かな」


 両手に持ったマグカップと睨めっこするリューテシアを眺めている俺の顔はどんな風なのだろう。

 きっと気持ち悪いことになっているに違いない。


 う〜ん、と唸るリューテシアに見惚れていたわけだが、俺は名案を思いついた。


「どっちも買えばいいんじゃない?」


「え?」


 硬直するリューテシアがぎこちなく小首を傾げる。

 なんで、そんなにも驚いた顔をするのか分からなかった。


「使わない方は俺が使うよ。その日の気分で白と黒を使い分ければいいんじゃない?」


「そ、それはつまり、お揃いってことですか!?」


「そうなるね。嫌だったらいいんだけど」


「とんでもありません! ウィル様はこういう物に執着されない方なので嬉しいです」


 その通りだ。

 マグカップなんて飲み物が飲めればなんでもいい。


 でも、愛する奥様が気に入った物であれば、今日からはそれを使って寝る前のホットミルクを飲もう。


 大切そうにマグカップを抱くリューテシアはおねだりするように俺を見上げた。


「もう一つだけ、よろしいですか?」


「一つと言わず、いくらでも構わないよ」


 笑顔を輝かせたリューテシアが一直線に向かった先にはグラスが陳列されていた。


「お嫌でなければ、晩酌というものをしてみたいのです」


 おぉ!

 リューテシアが大人の階段を昇ろうとしている。


 これまでお酒には縁遠い生活をしてきた俺たちだ。

 社交界の場で付き合い程度の飲酒をすることはあっても自分の家で飲むことはなかった。


「構わないけど、どうしたの? 何か嫌なことでもあった?」


「へ? そんなことはありません。ウィル様と楽しい時間を過ごしたいと思っただけです」


 俺のイメージでは酒は嫌なことを忘れるために飲むというものだが、リューテシアの中では違うらしい。

 むしろ、彼女の方が正しくお酒というものを認識しているのかもしれない。


「いいよ。ちょうど頂き物がたまっているしね」


 各方面から土産の品として酒をいただく機会が多く、ほとんどを酒好きの使用人にあげていたが、自分で飲むという発想はなかった。


 これをきっかけにリューテシアと過ごす夜の時間が増えればいいな。


 そんなことを思いながら色違いのマグカップと、柄違いのグラスを購入した。


「ありがとうございます」


「いえいえ。これくらい」


 普段から給金を使わない俺だ。こういう時は遠慮なく使おう。


 最近は時間もないし、煩悩を消す必要もなくなったから幼い頃によくやっていた編み物もめっきりやらなくなってしまった。


「そうだ。俺も店に寄っていいか?」


「もちろんです」


 買うものは決まっているから、さっさと店に入り、なるべくリューテシアには見られないようにお会計を終えた。


 たまにはサプライズプレゼントというのも良いだろう。

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