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幻想のセラリウス  作者: ふたばみつき
-新たなる任務-
94/95

◇92 終局

 氷の欠片が空気中を漂っている。

 

 先程までの曇天とは裏腹に、雲一つ無い夜空に月が浮かぶ。

 息が白くなる程の寒さに、身体が僅かに震える。


「ロック、よくやったな……」


 ドッグが笑いながらこちらにやって来る。

 その腕の中でアルルが眠っている。

 

「隊長殿はお休みかな?」

「ああ、アレだけの魔術を使ったんだ。無理もない」


 幼さの残る表情のまま、彼女は穏やかに眠っている。

 

「まったく、大した奴だよコイツは……」

「ああ、まったくだな……」


 二人して呆れてしまう。

 

「だが、これでは船での航行は叶わないな……」

「ああ、そうだな。こうなったら陸路で行かなきゃならねぇな……」


 港にある船は、先程の海魔との戦闘で激しく損傷しており。とても航行出来そうにない。

 海魔の触手で持ち上げられた船は中腹から裂け、再起不能の損傷を負っている。

 他の船達もあちこちに風穴が空いており、幾つかのマストも折れてしまっている。


「すまない、君の国に着くのが少し遅れてしまうだろう」

「まあ、仕方あるめぇ。急ぎの旅ではあるが、寄り道はしてねぇんだ」


 そう、これでいいさ。

 何も無駄なことはしちゃいない。


「さて、俺は俺の剣を探すかな……」

「ああ、そうか。そうだったな。それにしても良くあんな無茶をやったもんだな、君も……」


 確かにそうだな。

 見ると、ドッグの身体もボロボロだ。特に膝がボロボロだ。


「そっちこそ、かなり無茶をしただろう?」

「ははは、まあ。君には敵わないさ」


 果たしてそうだろうかね。

 そう思いながら思わず笑ってしまう。


「本当にスゲェ戦いだったな……」

「ああ……」


 今でも、胸の鼓動が鳴り止まない。

 

 心を落ち着かせようと、剣を探すついでに辺りをうろつく。少し歩くと、俺の剣が目にはあった。


 黒く変色した肉塊に刺さっている。

 見ると、少し焦げているが問題なく使えそうだとわかる。


「剣は無事だが。いやはや、まったく、こっちの方は見事に炭化してるぜ……」

「凄まじい威力だったんだな……」


 炭化した肉塊を軽く蹴ると、剣を引き抜く。

 その時、ドッグが怪訝な表情をした。


「どうした、ドッグ?」

「いや、いまそれが動いたような……」


 そう言うと、ドッグがその手にアルルを抱いたまま、肉塊を指差した。


「そんな馬鹿な……」


 見ると、確かに肉塊が僅かに動いた様な気がする。

 思わず身構える。


「おいおい、今度はなんだ。もう一戦なんて、ならねぇよな……」

「た、確かめて見るしかあるまい……」


 ドッグが恐る恐る肉塊に向けて歩き出す。

 直ぐに、その肩を捕まえ後方へと引っ張る。


「アンタはアルルを頼む。ここは俺がやる……」


 腰元からナイフを引き抜き、肉塊に突き立てる。そして、引き裂くと中からズルリと何かが漏れ出してきた。


 初めは内蔵かと思ったが。

 良く見るとそれは一人の老人だった。


「おぉ、おいおい、なんだ、このじいさん!!しかも、生きてるじゃねぇか!?」


 思わずドッグを見る。すると、この老人に心当たりが有るらしく、ドッグはその顔を大きく歪めてみせた。

 

「なるほど、ソイツは黒の師団の魔術師だ。今回の犯人は恐らくコイツだろう……」

「成る程ね、じゃあコイツはどうする。始末するか?」


 俺が剣を振り上げる。

 それを見てドッグがコチラを制止する。


「いや、本部に引き渡そう。尋問すれば何か情報が手に入るかもしれないからな」


《氷の書 ニ十四章 アリーゼの氷牢》


 凍える程の風がドッグの身体から放たれ、老人をたちまち凍らせる。


「おいそれ、トドメになってんじゃねぇのか?」

「いや、これは、拘束用の魔術だ死ぬことはない」


 なるほど、魔術ってのは不思議なもんだな。


「さて、あとはギルドに依頼してコイツをホワイト・ロックまで運んで貰うか」

「俺達で運ばねぇのか?」


 ドッグが首を振る。


「僕達は数日休んだら陸路でレイム・ロックに向おう。二、三日の短縮にしかならないだろうが一刻を争うんだ。君もそうした方がいいだろう?」


 ドッグがコチラを見て申し訳なさそうに笑う。

 どうやら、俺に気を使ってくれている様だ。正直、悪いのはコイツらじゃねぇから、そこまで気を使わなくてもいいんだがな。


 だがまぁ……


「ありがたい。すまねぇな……」


 急いでくれる分には助かる。本当は一刻も早く国に帰りたい。


「これから頼むぜ……」

「ああ、コチラこそ……」


 俺が拳を差し出すと、ドッグは快く拳で返してくれた。

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