☆91 上級魔術
その手に大剣を握り、高く掲げられた帆船から一直線に蛸の眉間へと落下している。
その時、大剣が振り上げられ、落下の勢いのままにその大剣が蛸の眉間に突き立てられた。
金切り声にも似た叫び声が辺りに響く。
鳥の叫び声にも似たおぞましい叫び声が俺達の耳をつんざく。
それと同時に蛸の身体が勢い良く蠢き、白へと黒へと紫へと次々に変わって行く。
その勢いでロックが氷上へ投げさせれる。
この世の物とは思えない、不気味な光景が目の前で繰り広げられる。
「アルル! これが限界だぁ!!」
ロックの叫び声が聞こえてくる。
見ると、ロックは氷上を駆け、一目散と言わんばかりに蛸から逃げている。
見ると、蛸の眉間に深々と大剣が突き刺さっている。
「文句なしだ、流石だぜロック」
魔術に込める魔力を一層強める。
やはり、部不相応な魔術は魔力の充填に時間が掛かる。
だがもう少し、もう少しだ……
その時、ドックの方から魔力の奔流を感じた。
ドックの準備が整った様だ。
彼が高らかに叫ぶ。
《雷の書、五十四章、剣擊雷漸》
ドックの眼前で漂う雷の球が膨れがあり、巨大な剣となり、蛸の眉間、目掛けて射出される。
深々と突き立てられた大剣が避雷針となり、吸い寄せられるように、その眉間を雷の剣が貫く。
ほんの一瞬、蛸の動きが止まる。
いいタイミングだ。
丁度、俺も溜まったぜ。
《雷の書、八十八章、幾千天墜》
魔力の充満した雲が凄まじい轟音と共に一瞬光る。
次の瞬間、辺りが一瞬真昼かのように照らされ。巨体な蛸の身体を丸々飲み込むほどの落雷が滝の様に降り注ぐ。
落雷はその全て触手を焼き払い消し炭へと変えて行く。
その断末魔の叫び声も呑み込み、亡き物へと変えようとしている。
「八十八夜を超え、この瞬間、裁きの雷のなり。我が御敵を焼き払う」
ドックがなんかそれっぽいことを言ってる。
正直、当の本人である俺はそんな場合ではない。
思わず膝を着く。
凄まじい勢いで、魔力も視界も意識もその一切合切を持っていかれそうになる……
「アルル、大丈夫か!?」
「あぁ、ちっとばかしキツいが、もう少しだ……」
もう少しで全ての触手を焼き切れる。
やき…… きれる……
「くっ……」
視界が弾け白く染まる。
意思が途切れる。
意思が……
「アルル!!」
ドックの呼び掛けを頼りに、最後の気力を振り絞り意識を奮い起こす。
「これで、終わりだぁぁぁぁぁ!!」
その瞬間、雷が弾け飛んだ。
空を染める暗雲も纏めて、凄まじい破裂音と共に全てが弾け飛んだ。
城壁の様に聳える氷も、海を覆う氷も、巨大な蛸の触手達も、その全てを纏めて消し飛ばした。
「はぁ、はぁ…… あぶねぇ、危うく暴発する所だった……」
「よくやった、よくやったぞアルル!!」
倒れそうになった俺をドッグが抱き止めてくれる。
見ると、砕け散った氷達が空を舞い、雲一つ無い夜空に星が瞬き、万華鏡の様に彩っている。
その中央には、大きく丸い月が座している。
「はあ、なんとか…… なった見てぇだな……」
なんとか維持していた意識が薄れていく。
そして、最後に星空を視界に写したのを最後に、俺の記憶は途絶えた。




