☆77 ルーキー
青年の背負っていた毛皮が広げられる。
「おお、コイツはすげぇ……」
「あの森にこんな化物が居たとはな……」
それは大きさからして、ニメートル以上はあるであろう狼の毛皮だった。
ロックとドックがそれを見て声を漏らした。
「おお、ありゃあスゲェな……」
「アルド・ウルフだな。僕たちの越えた森にあんなのが居たのか………」
二人が感心した様子で眺める。
そんな様子の二人を見て、ギルドの男達がこちらに視線を向ける。
「おい、アンタらはこんな化物を退治できるか?」
「止めとけ、止めとけ出来る訳ねぇよ!」
ひとしおの笑い声が挙がる。
無論、それを聞いてロックもドッグも馬鹿馬鹿しいと言った具合に溜め息を漏らした。
別にこの二人なら、どうにでもだきるだろうな……
まったく、そんなこともわからんのか、ここの奴等は……
一連のやり取りを見ていた青年が怪訝な表情をみせる。
「なんだい、皆どうしたんだ? それに彼等は誰だい?」
その問いかけに対し、周りの人間が彼に耳打ちした。その間に青年の表情が徐々に変わり、コチラに鋭い視線を向けてきた。
「ありゃりゃ。こりゃ有ること無いこと吹き込まれたかな……」
「まったく、面倒後が後尽きないな。アルル、君が無闇に暴れたせいだぞ……」
「そうだなー」
まったく、コイツらまだ根に持ってんのかよ。
まあ、確かに7:3位で俺が悪いんだけどな。完全な八つ当たりだったし。
「やあ、君が白の師団の隊長さんだって? 随分と好き勝手やっている」
「まあ、そうだなー」
青年の目がコチラを真っ直ぐと見下ろす。
これは挑発されてるんだろうな。さて、どうしたものか。
もう、俺としては八つ当たりは済んだし。この好青年には何の感情もないしなー。
「アイラさん、木剣を寄越してくれないか。少し手合わせをした
い」
その声に待ってましたと言わんばかりの勢いで木剣が飛んできた。俺の方にも飛んできた。
そして、おもっくそ耳に当たった。
「イタイ……」
「ははは、そんなのも受け取れないのかい」
青年が嘲笑う。
うおー、腹立つー……
って、ならない。
正直、まったく気が乗らねー。もう八つ当たりは済んじまったした。なにより、コイツ関係ねーしな……
ううむ。さて、どうしますか……
おもむろに立ち上がると青年を見上げる。
「かなり背が低いね。それに身体も細い。男ならもう少し身体を鍛えたらどうだい?」
不意に周りの男達が笑い声をあげた。
そーた、そーだと言った具合に……
あれ? もしかして、コイツら俺のこと男だと思ってる?
「ほら、速く構えるといい。さあ、君の腕前を見せてくれよ」
構えられた木剣の切っ先が俺の首元に触れる。
すると、もう一度構え押すと同時に一歩二歩と下がり、間合いを作って見せた。
周りもそれに習って後ろ下がる。
まるで蓮華の華が咲くように、俺達の周りに人だかりの円が咲く。
ああ、面倒臭いな……
別に今回は誰かが馬鹿にされた訳じゃねーしなー。大人しく殴られるか。それの方が周りの奴等も溜飲が下がるだろうしな。
「ほら、来なよ……」
目の前の青年が剣先をゆらゆらと揺らす。
木剣は鉄製の剣と違って電気を流しずらいんだよなー。魔術だから、そこらへんごり押しで出来なくは無いんだが、かなり疲れるんだよな……
「構えもしないか。まあ、いい。こないなら、こっちから行くよ!!」
木剣の揺れと合わせるように青年が動き出した。いい動きだ、鍛練の形跡が見える。
相手の注意を反らす動きと、最初の一歩を出す為の動きが同調していて、反応を送らせる。
青年が目の前に来る。そして、その手に握られた木剣が俺のこめかみに向かって振り抜かれた……
そして、この瞬間を最後に俺の意識は消えた……




