☆19 デイヴィット
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ!」
俺は子供っぽい体型をしているけど、こう見えて結構鍛えてる。
なんて言ったって“白の師団”の候補生なんだ。普通の人よりかは遥かに鍛えている。
座学は苦手だが身体を動かすのは得意なんだ。多分、中身が男だと言うのもあるのかもしれない。
へっちゃら、へっちゃらだい!!
でも、女性とは言え大の大人を担いで歩くのは骨が折れるな。
「お姉ちゃん、本当に大丈夫?」
メイちゃんが心配そうな表情でこちらを見上げる。
まあ、そうだよな。
大して背も高くもないし。恰幅がいい訳でもない。
いや、むしろ細っこくて身体も小さい。
ぶっちゃけ、メイちゃんと大して体格も変わらない少女が自分よりも少しばかり重そうな、しかも気を失っている大人の女性を担いでいるんだ。
いささか無理がある。
メイちゃんの目には俺が今にも潰れそうに見えているのだろう。
でも大丈夫。まだ行ける。
俺は男だ、男の中の男だ。必ずやり遂げる。やり遂げてみせる。
それにもう少しなんだ。もう少しで候補生達が避難誘導している地域まで辿り着く。
「あ、アルルさん!! 大丈夫ですか!?」
ほら、噂をすればなんとやら。
何人かの候補生が、俺の姿を見て駆け寄って来てくれた。
周りの様子を見ると、あらかた避難誘導は完了している様子だ。
残りは老人や怪我人と言った、移動に時間が掛かる人達のみの要だ
それも候補生達が二人がかり等で肩を貸したり、手伝っているので直に終わるだろう。
「この人を頼む。頭を強く打ったみたいだから出来るだけ丁寧に運んでくれ。それと、この子は娘さんだ。一緒にホワイト・ロックへ連れて行ってくれ」
そう言って候補生にメイちゃんを預ける。
そして、母親の方を……
「おら、そっちの人を寄越せ……」
そんな声がすると同時に、身体がフワリと軽くなった。
見ると、そこにはコカトリス野郎が立っていた。そして、その腕にはメイちゃんの母親が抱かれている。
「あ……」
「な、なんだよ……」
コカトリス野郎が目を反らす。どうやらバツが悪いらしい。まあ、そうだろう。
昨日は壮大に喧嘩してたもんな俺達……
だが、まあ、流石にこんな時まで、それを気にする様な男ではないらいし……
「悪いな、頼んだぜ」
「おう……」
そう言うと、コカトリス野郎がホワイト・ロックの方へと向かって歩き出した。
そして、不意に立ち止まる。
「デイヴィット……」
不意に彼が声を漏らした。
「あ?」
「俺の名前はデイヴィットだ。コカトリス野郎じゃなぇ!」
ああ、そうか。そう言えば、こいつの名前なんて気にしてなかったわ。名前も知らんかった。
「そうか、デイヴィットか……」
「おう、覚えとけよ」
そう言うと、デイヴィットは再びホワイトロックに向けて歩き出した。その足取りは軽く、あっという間に遠くへと消えて行った。
流石だ、やっぱりこういう時ばかりは男の方が頼りになるな……
それに、アイツ。思ったよりも馬鹿じゃないし。悪い奴でもなかったみたいだ……




