☆20 決意
「ア、アルルさん!! ち、血が出てます!」
不意に候補生の中の一人が俺に駆け寄り、ローブへと視線を向けた。
その視線の先を見ると、確かに肩の辺りが拳台程度の範囲ではあるが、血で赤黒くなっている。
「ああ、大丈夫。俺の血じゃねー」
恐らく、これはメイちゃんの母親の血だ。
頭の血は結構派手に流れるからな、これぐらいは普通だろう。恐らく問題無いはずだ。
しかし、俺に付いた血を見た候補生は、血の気が引いた様に真っ青になっている。
まあ、確かにそうなるのは仕方がない。
見ると、その候補生は可愛らしい女の子だった。
腰の辺りまで伸びた綺麗な長い髪。その髪は薄い緑色の混じった様な金色をしている。
そして、俺と同様に“白の師団”の配給品である白いベレー帽にローブを纏っている。
彼女も魔術師なのだろうか。
「ほら、俺達は月のものでいつも血を流すじゃねーか。これくらいで顔を真っ青にしないでくれよ!」
そう言って彼女を励ます。
まあ、中身が男の俺からすれば、今のはただのセクハラだが、見た目は女なので、これくらいは言っても大丈夫だろう。
それに、これくらいで顔を真っ青にして貰っていては、話にならないのは本当だしな。
「は、はい! そ、そうですね。そうですよね!」
相も変わらず、彼女の顔は真っ青だが。なんとか気張ろうと言う気概はうかがえる。
よし、いい娘だ、頑張れ……
俺も頑張るからよ……
「それじゃあ。あの女の子とお母さんを頼む。避難誘導もひと通り終わった様だからよ。俺も、ここをひと通り見て民間人が居ないのを確認したらホワイト・ロックに戻る。皆は先にホワイト・ロックへと戻ってくれ」
そう言って彼女の背中を押す。
彼女は一度こちらを見ると小さく頷いた。そして、候補生の集団へと戻って行く。
暫くすると、彼女は民間人と一緒にホワイト・ロックへと向かった。
よし、これで後はここら一帯を回って、逃げ遅れた人がいないか確認したら、俺も戻るか……
不意に前線の方へ視線を移す。
その時、俺は信じられない物を目にした。
なんと、街道の遥か先に黒い集団が見えたのだ……
黒いプレートアーマーを纏った集団。その数は二十人前後。
その手に漆黒の剣や、槍や、斧と言った物々しい物が握られている。
まさか前線を抜けて来たのか!?
それとも前線が崩れたのか!?
師範は、師範は無事なのか?
い、いや、今は自分の事を考えるべきだ。
とにかく不味い、逃げなければ……
逃げる? いや、駄目だッ!!
違う、逃げられない!!
ここで逃げちゃダメだ!!
さっきの女の子や母親。それに候補生の皆が後ろにいる。ここで逃げたら、皆の頑張りが無駄になってしまう。
な、なら、俺も彼等の所まで後退して、皆で一緒に奴等と戦うか?
いや、それも駄目だ。怪我人に、老人や子供を抱えて戦える訳がない。
俺達候補生の練度はそんなに高くない。
そんな事をすれば、間違いなく一瞬でやられてしまう。
なら……
なら、俺がここで敵をくい止めるしかねー。
不意に、先程の女の子の顔が脳裏に過る。名前はメイちゃんって言ってたよな。
路地裏で、弱々しくても健気に、それでいて一生懸命に灯る小さな命の灯火。
あの母親がその身を盾にしてまで守った、小さな小さな命の灯火。
なんとなく、過去の俺を見ている気がした。
いや、過去の俺と重ねるにしては、メイちゃんは少し可愛らし過ぎるな。
だが、それでも昔の俺と似ていると感じた。
あの時、俺の事を守ってくれる奴は一人もいなかった。
だったらせめて……
今度は俺が……
俺が、あの娘を守ってあげれる人になってやる。
そうだ、さっきも思ったじゃねーか。
俺はその為に“白の師団”に入ったんだって。
俺は腹をくくり、正面からやってくる軍勢に視線を向ける。
もう迷いはない。
身体の震えはまだ止まらないが、それでも決意は固まった。
腹の底から力が湧いてくる、心が燃える。
「さあ、来やがれ。“黒の師団”……」




